この"The Buffalo Creek Disaster" Gerald M. Sternは、実はBone教授のCivil Procedureの授業でreading assignmentとして指定されている本の一冊なのですが、読み物としてなかなかおもしろかったので、ご紹介します。もちろん教科書、法律書ではなく、ペーパーバックの気軽なノンフィクション小説です。


著者のStern氏は、執筆当時Arnold & Porterという有名な大手法律事務所の弁護士で、アメリカの大手法律事務所というのは企業相手の金額の大きい案件しか取り扱わないものですが、どうやらpro bono(社会奉仕活動)の一環としてこの本のテーマである大災害の被害者による訴訟を取り扱うことになったようです。その大災害というのは、1972年にWest VirginiaのBuffalo Creekという山間の炭鉱の町を襲った洪水で、その原因が上流の炭鉱会社がボタ(石炭ガラ)をためていたダムの決壊によるものであったことから、被害者が集団で訴訟を起こすにいたったものです。


当初炭鉱会社は、これは天災(act of God)であるとして責任を否定していたのですが、著者は、訴訟戦略上の必要性から連邦裁判所の管轄(jurisdiction)を認めさせたうえで、当時は広く認知されていなかった精神的損害(psychic impairment)や被害者の怒りをあらわす懲罰的損害(punitive damages)を請求し、さらには真の非難に値しかつ資力もある親会社の責任を法人格否認の法理(piercing the corporate veil)を用いて追及するなど、数々の法理論を駆使して被害者の救済に力を尽くします。


この本で多くのページが割かれているのが、証拠開示手続(discovery)で、開示された書面や証言録取(deposition)のわずかな手がかりから被告に不利な事実を次々と明らかにするさまは、推理小説で犯人を追い詰めていく過程にも似た迫力があります。
もちろん読み物としても秀逸で、特に被害者の証言による災害現場の描写などは、背筋がゾクゾクする感覚を覚えました。


若干ネタバレになりますが、実はこの訴訟は本案審理(trial)まで行かずに終わってしまいます。しかし、それで一冊本が書けてしまうというところが、逆に一筋縄ではいかないアメリカの訴訟の奥深さあらわしているような気がしました。
かなり古い訴訟、古い本ではありますが、基本的な手続や訴訟戦略の立て方などは、現在にも十分通じるものがあると思います。アメリカの民事訴訟に興味がある方(でも、難しすぎるのはパスという方)には、ぜひおすすめしたいです。