一ウォッチごとに夜は更ける。
スマートフォンは闇にぽっかり浮き上がり、夜光虫のような熱を発していた。
755というアプリにおける写真集出版を懸けたウォッチ対決。
こんな子供じみたゲームに、どうして人々は熱中するのだろうか。
分からない人には全く分からない
分かる人にはよく、分かる
ウォッチするごとに指先に宿る何かを感じるのだ。
目には見えない、それでいて、明らかに存在する痕跡を感じながら
古畑奈和、上西恵
それぞれの所属先のメンバーとファンは一つになり、
誰もが手に汗してウォッチを続けた。
振り向けば古畑は『12月のカンガルー』でセンターに選ばれず、立ち止まりそうな焦りと闘っていた。
どうすればいいのか。しかし答えは少しずつ明らかになった。SKE版のAKB49では見事に浦山みのりを演じ切り、数々の公演、コンサートをグループの中堅として役割を十二分に果たし続け、自分の為ではなくSKE48の為に捧げるアイドル生活を常に志してきた。持久力は48グループでも屈指のもので、今回の企画でもファンと一体となって献身的にウォッチを続け、一日ごとにリードを拡げ、一ウォッチごとに増す期待と歓声に晒されても、気持ちは常に真っ直ぐに勝利を目指している。それが古畑奈和のアイドル人生なのだろう。
対する上西は常に笑顔であらゆるメンバーから愛される優等生。その礼儀正しさには今の社会の中で見失われ、軽んじられている価値観を教えてくれるものである。一見すると平凡に見える、けども冷静沈着、じたばたせずにアンダー落ちも経験せずに美技を続け、徐々にNMB48をコントロールしているのが彼女だと分かってくる。皆に愛され、それでいて美しい身体の持ち主、そんな希有な存在なのだ。
チャンスはただ訪れるわけではない。頑張ることを手さぐりで確かめてきた二人だからこそチャンスは訪れたのだ。
ゲーム展開は序盤こそシーソーゲームで、時間帯により双方が目まぐるしくリードし合う展開であったが、徐々に古畑奈和がリードを広げる。人は沈黙の中でウォッチを続け、人は膨大なウォッチ数に感嘆する。
皆と写真集を出して喜びたい。双方の気持ちが分かるほど双方のファンは力を入れてウォッチを続ける。
勝負しようじゃないか。
かつてペナントレースでも、CD同日発売においても起こり得なかった異様ともいえる熱の入った対決がここに存在し、終盤、対決は状況を超越し始めた。
この勝負は個人の写真集を懸けたものであり、SKE48とNMB48の格の対決であり、古畑奈和と上西恵のそれぞれの勇気と、それぞれのファンの意地の対決でもあった。
最後の追い上げを図る上西恵のコメント
『ここまで来たら本当に勝ちたい
勝ちたくてしょうがない
本当に本当に
今叫びたい!!!!!』
『総選挙とかでも
NMB48苦戦って言われて悔しい!!!!!
NMB48は団結力がないなんて誰が言ってるんだ!!!!
ここで本当に見せたい!!!!!!』
これは喜怒哀楽をそれほど見せない、いつも笑顔ばかりの上西恵のまさに魂の叫びであった。
上西恵は残り一時間半で400万近くあったビハインドをまだ諦めていなかった。その「まだ」の境目がどこに漂っているのか、誰の目にも見えていなかった。
傍から見ると明らかに敗色濃厚でから騒ぎにすら思えさえするのだが、しかし上西陣営は誰一人として不利とすら感じず、敗れるなどと思うはずもなく、そして奇跡のように始まったその猛追における感想は、ただ恐るべしとしかいいようがなかった。
そうして猛追を受けて古畑奈和のコメント
『マイナスなことに恐れるな。
立ち向かおう!
立ち向かって行く勇気!
SKEは最後の最後まで強いって
証明してみせる。
何かに恐れて怖じけずくなんてのは違う!
熱しやすく冷めやすいじゃないじゃない
熱してそれが伝染して大きな力になって、
もっともっと新しい輝きが増えていくんだ!!!!!!』
NMB48 上西恵(94,060,840ウォッチ)○-×SKE48 古畑奈和(92,410,202ウォッチ)
しかし古畑奈和は負けてしまった。あまりにも凄まじい追い上げから逃げ切ることができず、しかしこれは一級の決勝戦だった。品と格を持って戦って気迫、昂揚、あらゆる要素を熱に変換させて常に先行した古畑陣営が抜かれたのは残り数十分というところだった。悔しい、しかし掴みそこなった栄光を糧に、新たな挑戦に期待したい。
かたや終盤に吠え、かたや終盤に跪き、狂騒曲のように序曲から間奏を挟んで終曲まで予想を裏切る展開であった。
「もう大丈夫」、「もう不可能」。そんな言葉がこの世界にはないことを証明するまさに好勝負だった。