年上好きなんですよー!
年下はダメですかー?
めちゃくちゃタイプです!
いまさら聞き飽きたこの常套句も
マッチングアプリを始めたばかりの頃は少々ときめいた。
25歳で、都会の繁華街で会員制バーを経営するAくん。ムキムキマッチョな裸自撮り写真とか、今となっては絶対アウトな男だ。
とりあえず年下なら誰でも良かった私は、16歳下の彼と一瞬で意気投合し、連絡先を交換した。
やり取りの場を某有名連絡用アプリに移すと、光の速さで不純なコミュニケーションが始まる。やれ好きな体位だのプレイだのを恥じらいもなく暴露し合うと、間もなくしてお決まりの「〇〇ちゃん!エロい写真送って!」が来た。
どうでも良いが、一回り以上年上の私を“ちゃん付け”とは、さすが夜職の男。嫌いじゃない。
試しに、ちょいエロくらいの写真を何枚か送ってみた。予想通り。返って来たのは、元気な状態の局部写真。あぁ、これが噂のマッチングアプリってやつの実態か。今どき男女のリアルか。
会員制バーのオーナー様は、夕方のそのそと起き出して、おはようの連絡を寄越すと、ご飯を食べたり身支度をして、夜の帳が下りるとともに御出勤。「今店に着いたよん」と連絡が来る、二人の謎のルーティーン生活が始まった。
これって、“ある種”の恋愛だと思っている。
いや、世の恋人たちはもっと健康で健全なんだろうけど。でもしかし、エロを軸にして回り続ける「今日は今から接待‥がんばる!」とか「〇〇ってアニメ見てるよー!見たことある?」みたいな他愛もない会話から、おはよう、おやすみ、おつかれ、を毎日毎日繰り返すんだから、これはもう知人でも無ければ友人でもない。まだ実際に見たこともない、互いに触れたこともない、ねじ曲がったプラトニックを貫く奇妙な二人が紡ぐ、究極の疑似恋愛だ。
朝方まで、あちらはバーから、こちらは自宅から、エロい写真や動画を送り合う。そんな状態でする接客業は、さぞ興奮したことだろう。
ある夜彼が自撮りを送ってきた。短い動画で、小首を傾げる若い男の顔。
うん。やっぱり普通にかわいい。
「〇〇ちゃんの見た目がタイプ!好き!」と何度も言ってくれる彼だけど、こちらからしたら、キミこそピチピチで本当に可愛い。
このとき、実は先にマッチングしていた24歳の高身長男子がいた。が、性格的に少し大人しそうな印象と、進行形のAくんとの目眩くエロい日々が絶妙に楽し過ぎて、その子との約束は一旦お断りしていた。
そしていよいよAくんと、顔合わせの日が決まった。