ブログネタ:「喝!」「あっぱれ!」と言いたいこと
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「くそぅ・・・信じられない!俺が負けるなんて!こんな・・・こんな馬鹿な事があるものか!!」
士官学校内の、士官候補生の集まるサロンの一角。
彼が悔しそうに叫んだ時、幾本もの同情の色を帯びた視線が、声を発した人物に注がれた。
憤怒の表情を浮かべて拳を握り締めているのは、マルコム・ワイドボーン。
確かに、誰もが信じがたい事であった。
話を聞いた時は、まず先に誰もが「それ、嘘だろ?」と聞き返した・・・デマだと思ったものだ。
そしてそれがデマではなく、事実だと知って愕然とした。
なにしろ、彼は士官学校創立以来の秀才なのだ・・・。
厳しいので有名な教官達ですら、手放しで褒め上げるほどの。
それなのに。
・・・主席の座にいるマルコム・ワイドボーンが、彼の最も得意とする戦略戦術シミュレーションであっさりと負けてしまったのだ。
信じられない・・・嘘だろうと、士官学校生は1名を除いて驚いていた。
戦略戦術シミュレーションは学生が1対1で行う、コンピュータゲームのようなものだ。
ワイドボーンは、ありとあらゆる戦術を試みて相手を撃破しようと試みた。
ところが、相手は全兵力を一点に集中させてワイドボーンの補給線を断ち切った。
本体との戦闘を避けて、ワイドボーンの補給部隊を先に殲滅させたのだ。
その後は、ひたすら防戦一方で、決して、ワイドボーンの誘いには乗らない。
戦う意思があるのかと疑うほど、“逃げ回って”いたのだ。
とにかく防戦のみ。
対戦相手は時間稼ぎをしているとしか思えなかったが、何とか打破しようとしていたワイドボーンはジリジリと焦り始めた。
コンピュータのシミュレーションであっても、現実と同じなのは、与えられた武器弾薬は有限の代物。
尽きてしまえば・・・戦闘続行は不可能である。
魔法のように誰かが与えてくれる訳じゃない。
補給線を断ち切られ、武器弾薬が尽きたワイドボーンの艦隊に対して・・・。
対戦相手の艦隊のエネルギー源はまだ十分に残っていた。
このまま戦闘を続行した場合、武器弾薬がある対戦相手の方が有利である。
あとはそれらをワイドボーンの艦隊に浴びせればいいのだから。
こんな状況であるから、コンピュータの下した判定では、ワイドボーンは・・・敗者になった。
2人が繰り広げた戦闘を、自分達の目で確認していた教官達も驚愕していた。
しかし、誰の目から見ても、ワイドボーンを凌駕していたのは対戦相手の方だった。
消極的な戦闘と言えなくもないが、対戦相手はワイドボーンの上手を行ったのだ。
「まさか・・・あのワイドボーンが・・・」
「これは何かの間違いだと思いたいですな・・・」
「しかし、これが現実の戦闘ならば、やり直しなど出来ませんぞ」
「確かに戦闘での補給線は重要・・・」
「凡庸だと思っていましたが、またどうして・・・人にはまれな才能があるものですな・・・」
「コンピュータの下した判定は無視出来ませんぞ・・・」
「確かに・・・。やや消極的と言えなくもないが理にはかなっているか・・・」
「・・・これは面白い事になりましたな・・・」
「もう1度対戦させてみたらどうでしょう?」
「・・・それでは、我々がえこ贔屓している事になりはしないか?この結果を認めざるをえまい・・・」
3人の教官は、あれこれと話し合っていた。
もう1度対戦させる事を提案した教官もいたが、最終的な判断をしたのは主任教官で、彼はワイドボーンを敗者にしたのだった。
「まともに正面から戦っていれば、俺のほうが勝っていたんだ!奴は逃げ回っていただけじゃないか」
幼い頃から何でも主席で“秀才”の名をほしいままにしていたワイドボーン。
挫折感を味わった事が1度もなかったのである。
彼はそのプライドを傷つけられていきり立ち、ぼうっと突っ立ったままの対戦相手を睨みつけると、悔しげな表情を浮かべてシミュレーション室を後にした。
彼を負かした相手は、ヤン・ウェンリー。
ヤンという男は、戦闘艇操縦、機関工学など、興味のないものには徹底的に手を抜いていたし、射撃も格闘技系もまるでダメ・・・他の科目も落第こそ免れてい
るものの成績は芳しくはない。
まさに“凡庸”という言葉が当てはまるぐらい、平凡な成績の士官候補生だ。
エリートを自負するワイドボーンの取り巻き連中は、皆、彼よりは成績は下であっても、トップを形成するグループに所属しており、ヤンのような凡庸な学生とは付き合いはなかった。
他の友人達から聞いた話では、ヤンという男は、タダで歴史を学びたいが為に士官学校を受験し、現在は「戦史研究科」に在籍しているらしい。
将来は、「戦史編纂室」で勤務するのが夢という・・・凡そ、軍人としての資質を問いたくなるようなビジョンを持っている事に、ワイドボーンは呆れ返っていた。
戦史の研究がくだらないとは言わないが、そんな物は士官学校でやらなくてもいい気がする。
退役した軍人や、大学の史学科の学生辺りにやらせれば良い・・・と、ワイドボーンは考えていた。
それよりは、戦闘に必要な知識を身につけ、即戦力となりうる人材を育成した方が軍の為である。
その為に、貴重な時間と金を割いて、士官候補生達は学ぶ。
士官学校とは本来はそういう場所ではないのか?
そして・・・。
ワイドボーンが提案した訳でもないが、上層部の中には同じような事を考えている人達がいたのであろう・・・。
急に、ヤンが在籍している「戦史研究科」が廃止されたのである。
その為、在籍していた士官候補生全員が、他の科に転科する事になった。
ヤンを呼び出してその説明をした教官は、ワイドボーンを破った時に採点した主任教官のリチャード・グレイ教官であった。
他の教官達がワイドボーンの完敗に対して困惑している中、コンピュータの採点同様にヤンの行動を支持し、真っ先にヤンを評価した人物だった。
そして、転科については、この時の評価シートに目を通したシトレ校長も認めていた。
ヤンは自分の意志と関係なく、教官命令で「戦略研究科」に移る事になったのだ。
今ここで歴史の勉強が出来ないからとの理由で退学などしたら・・・。
それまで免除されていた授業料や、士官学校生に支払われていた給金を返納せねばならず、極貧状態のヤンにはそれが不可能であった。
戦略戦術研究科は秀才揃いの科であり、ワイドボーンを始め、成績上位者だけで占められていた。
ここに、転科を希望しても、中々入れるものではない。
ヤンがここに転科となった背景には、ワイドボーンを破った実績・・・これが主任教官と校長から認められたからなのだった。
ワイドボーン達・・・最初からこの科にいる者は、そういう経緯を知っていたから、あとからやってきたヤンに好意的ではなかった。
あからさまに無視したりする事はなかったが、媚を売る事もない。
とにかく、ヤンは「戦略研究科」の中では浮いた存在になった。
結局・・・慣れ合わぬままに2人は卒業し、それぞれ違う部署に配属になった。
“10年に1人の秀才”と言われていたワイドボーンは、「統合作戦本部戦略研究室」に配属になり、様々な角度で戦略案を練られる立場となった。
まずは希望通りの配属になったのだ。
彼は、艦隊勤務をも希望しており、自分の考えた作戦案を実際に活用して成果を試してみたかった。
一方、ヤンの方はというと・・・。
卒業後、「統合作戦本部記録統計室」に勤務する事になっていた。
これを知ったワイドボーンは、仲の良かった連中にこう豪語したそうだ。
「・・・戦略研究科の卒業生で、そんなうだつが上がらないような部署の勤務になるのはヤン・ウェンリーぐらいだ。どうせ、他の事はサッパリなのだから浮上
は出来ないだろよ」
ワイドボーンは自分に汚点を与えてくれたヤンにかなりの恨みを持っていたので、卒業後の進路をかなり馬鹿にしていた。
“うだつの上がらない部署”などと、士官学校を卒業したばかりの若造に言われているのを「統合作戦本部記録統計室」の室長辺りが聞いたら、目を吊り上げて怒りまくるに違いない。
その陰口を叩くシーンを、たまたまヤンの親友のジャン・ロベール・ラップが目撃していた。
だが、ラップから話を聞かされたヤンは、「・・・うーん・・・。でも、笑われても、実際にその通りだから返す言葉がない。まぁ、せいぜい死なないように頑張るだけだ」と苦笑をしていた。
その後、ワイドボーンは順調に軍功を挙げ、ラムゼイ・ワーツ少将の参謀長となった。
現在の彼の階級は大佐である。
宇宙暦794年11月1日。
「ワイドボーン大佐。知ってますか、あのヤン・ウェンリーは大佐になってるんですね」
そう声をかけて来たのは、同じ艦に所属する士官学校での同期生、クリストファー・マリガン中佐である。
「なに?あいつが大佐だと?いつなったのだ?」
ヤンなどに興味はないから、ヤンの昇進の事など全く知らなかったワイドボーン。
あの男の事など思い出すだけで腹が立つ。
だから、あの男が「大佐」だと聞いて腸が煮えくりかえっていた。
「確か・・・去年の半ばだったとか。驚きましたよ、その昇進の早さに」
それを聞いて、ワイドボーンは顔を顰<しか>めた。
本当に・・・早い。
ワイドボーンが大佐の辞令を受けっとったのはつい1か月前だった。
ラムゼイ・ワーツ少将の参謀長に任命され、昇進したのである。
それにしても・・・。
あの、出来そこないのヤンの方が自分よりも1年も早く大佐になっていたとは・・・。
「ふん、奴はエル・ファシルで功績を挙げているからな。あれがなければ、未だに佐官にもなれていないんじゃないか?リンチ少将と行動を共にしていれば間違いなく捕虜になっていたはずだ。それにしても軍も甘いな。エル・ファシルの功績にかこつけて奴に恩を売って前例の無い「生者二階級特進」をさせたのだからな」
「確かに・・・生者で二階級特進は聞いた事がありませんね」
「だからな・・・もしかしたら、俺が知らないだけで、奴には軍の上層部に何か強力なコネでもあるのかと思ったものだ」
「あぁ、なるほど。それは言えているかもしれませんね・・・」
「そうそう・・・今ふと思ったんだが、捕虜になっていたら、あの男は要領が良くないから、それこそ野垂れ死にでもしているかもしれない」
「野垂れ死に・・・って、やめて下さいよ。想像してしまうじゃないですか」
マリガンは吹き出してしまった。
「悪い、悪い・・・大人げなく、つい悪口を言ってしまった」
ワイドボーンは口の端をやや上げる。
捕虜になったヤンを想像して2人は大笑いをしたのだった。
11月6日。
ワーツ少将は2500隻の分艦隊を率いて出撃。
ほぼ同数の敵と交戦を開始する。
ワイドボーンが正攻法に拘るのと同様に、ワーツも正面から当たる正攻法に拘るタイプの軍人だった。
ワーツがワイドボーンを高く評価していたのは、自分の作戦案と、彼の進言が同じであり続けた事だ。
良くも悪くも2人とも視野が狭過ぎた。
常識外の中央突破戦法で、分艦隊は艦隊の中核を攻撃されて、ワーツの艦はもとより、他の艦も次々と撃破されてしまった。
指揮官を失って命令系統が寸断されたにしても、同数の敵と当たって残存兵力が300隻にも満たないとは・・・完敗であった。
そして、同盟軍の首脳部に衝撃が走った。
マルコム・ワイドボーン大佐の戦死・・・。
まだ27歳にしかならない前途洋々の若者が・・・しかも、10年に1人の秀才と目され、近い将来は同盟軍を背負って立つ男とまで言われていた若者の戦死・・・。
同盟軍の首脳部は、無謀な戦術で完敗したワーツ少将に怒り心頭であった。
ワイドボーンを死なせたからでもあった。
こうして、ワーツは死後に特進する事無く、少将のままで軍人生活を終える事になってしまった。
仮に生きていたとしても、敗戦の責任を取って軍法会議にかけられた後に、降格処分となっていたであろうから、戦死した事は彼にとっては良かったのかもしれない。
少将の身分のままであるから、遺族には少将に見合った分だけの遺族年金が支給されるのだ。
一方、ワイドボーン大佐は・・・。
彼は不本意だったかもしれないが、死後、ワーツと同じ少将となった。
・・・二階級特進したのだ。
これは、軍の首脳部によるせめてもの手向けであったのだが、首脳部としてはこの戦死は・・・かなりの“衝撃”となったのだった。
だが・・・一番の“衝撃”を受けたのは、戦略家としての構想を思い描きながら、志半ばで戦死せざるを得なかったワイドボーン本人だったのかもしれない。
THE END
ワイドボーンのどこがそんなに凄かったのか・・・?
大体・・・10年に1人の秀才って言われながら、この戦死・・・視野が狭いですよね、ホント。
私、思うんですけどね。
学校の成績が凄くいい、秀才って呼ばれる人が、社会に出てから成功を収めるかと思うと、必ずしもそうではないと思います。
人見知りが激しくて人間関係が上手く構築出来ない人がいたり、言葉遣いや話し方に問題がある人だっている。
そして、学歴がなくても、その人本人のバイタリティーや努力で、成功をしている人は沢山います。
以前・・・同じ会社に青山学院大学を出ている事を自慢している人が入社して来ました。
もう、「僕は頭がいいんです」って感じで、偉そう。
実際、何かにつけて「青山学院大学」の名前を出すんですね、その人。
そして、同じ年に、もう1人、地元の高卒の人が入社しました。
学歴は勿論、高卒の方が下です。
でもね・・・高卒の子の方が努力を惜しまない。
更にはお客様の懐に飛び込んでいく営業スタイル。
もう、見ていて気持ちいいんです、明るいし。
その結果、1年後、新規開拓に成功して順風満帆の高卒の子に対して、大卒の方は、新規開拓件数ゼロで。
支店長に呼び出されて怒られたら、「僕はサラリーマンは向いていないので公務員を目指します」って言って辞めちゃったの。
でもね~・・・結局、公務員にもなれなかったみたいです、その人。
辞めた後も、とある事件でうちの会社に迷惑をかけて、課長が「あいつは狂っている」って言っていました・・・ホント、変な人でした。
人間・・・学校の 成績だけじゃないのよね。
ヤンも成績は悪かったかもしれないけど、彼の場合は広い視野を持っていた事と、あとはブレーンに恵まれた事・・・これが大きいと思う。
どんなに優れた人でも、周りに誰もいないんじゃ・・・ねぇ??
キャゼルヌ、シェーンコップ、アッテンボロー、ポプラン・・・。
あの、メルカッツでさえ、「ヤン」を頼って亡命してくるぐらいなんだから。
ただ、ヤンの周りに集まった連中って・・・口が悪いのばっかりだよね・・・。
それこそ、上官だろうがなんだろうが、言いたい事をハッキリ言うタイプばっかり。
ワイドボーンは・・・もっと謙虚さを持った方が良かったんだろうね。
それから・・・士官学校時代の話なので、あの人を出せて嬉しい・・・。
名前しか出せませんでしたが、シトレ校長!!
そう・・・シドニー・シトレ元帥って、ヤンの士官学校時代は校長だったんですよね。
そう言うのを知っていると楽しいです^^@
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