帝都オーディンの4月後半の穏かな陽気だった・・・。


 ファーレンハイトは一緒に休みが取れた副官のザンデルスと、いつも行くフィットネスクラブに出かけた帰りに、川沿いの土手に立ち寄った。
特に理由などは無い。
 ただ、ここから眺める景色は、この時期素晴らしく美しい。
 タダで心が和む景色が眺められるのだ。


 それで、ついファーレンハイトは、官舎に戻るには遠回りになるのに、ザンデルスに「川の方から帰らないか?」と提案したのだった。
 「え・・・川からですか?」
 訝る副官に、ファーレンハイトは笑顔を見せ、「あぁ、それにな、この時期はアレが出るからな・・・」と。
 “アレ”と聞いた瞬間に、殊勝な副官は上官の言わんとするところをたちどころに理解した。


 「あぁ、なるほど!そうですよね!」と大きく手を叩くザンデルス。
 「卿は理解するだろうと思っていたが、分かるか?」とファーレンハイト。
 「勿論です。小官は副官ですよ、閣下?」
 「まぁ、そうだが・・・」
 「善は急げです、閣下。すぐに参りましょう!」と、ザンデルスは今にも駆けだしそうな勢いだ。
 ファーレンハイトは苦笑いを浮かべ、「そう急くな、ザンデルス。時間はたっぷりある。ゆっくりと行こうではないか」と2人で歩いて・・・この川までやって来たのだった。


 大して大きくもないこの川。
 だが、景色は素晴らしい。


 「何だか・・・気持ちがいいな、今日は」


 「本当に・・・こういう日は気持ちが落ち着きますよね、閣下」


 ファーレンハイトとザンデルスは、土手の上をゆっくりと歩いていた。
 橋の近くは護岸工事が進んで土がむき出しの所があまりないが、それでも草が沢山生えた土手はある。
 草を踏みしめる柔らかな感覚。
 子供の頃は水のきれいな浅い川で良く遊んだりしたものだ。


 今日は休日である。
 こんな風に穏やかに過ごす日があってもいい。
 軍人とは言え、絶えず戦争している訳ではない。
 時々、ゆっくりした時間を過ごすのは心の洗濯になる気がした、ファーレンハイトだった。


 「菜の花か・・・こういう季節だもんな」
 「ええ・・・春だなぁ・・・って感じですね」
 「さて・・・とアレはあるかな・・・」
 「え・・・っと。あ・・・ありましたよ、閣下!うわ・・・群生してます!」
 「そうか!それは凄い・・・でかしたぞ、ザンデルス!」


 2人が大喜びで、土手の一角を見つめていた・・・そんな時・・・。


 「あれ、今日はお休みなんですか?」


 何やら上の方から聞き覚えのする間延びした声が・・・。
 声のする方を見ると、にこやかな笑みを浮かべたミュラーが副官のドレヴェンツと一緒に立っていた。
 思わず、イヤなのに会ったな・・・と思うが、涼しい顔をするファーレンハイト。


 「・・・あぁ、やっと休みが取れたんだ。それで散歩がてらこの川に立ち寄ったのだが。卿こそ、なんでこんなところにいるんだ?」

 「この先に、美味しいレストランがありまして、そこでドレヴェンツと昼食をとった帰りなんです」


 “美味しいレストラン”と聞いた途端にファーレンハイトは思わず、「そこ・・・高いのか?」と聞いてしまう。
 渋ちんのファーレンハイトは、外食にあまり金をかけないので少し気になったのだ。


 「あぁ、値段ですか。最近評判ですね、このお店。『ラルケル』って言うんですが、相場よりも若干高めでした。でも、サービス満点で、清潔感があって、美味しかったですよ」
 「閣下にご馳走になってしまいました。本当に美味しかったですよね、閣下」


 ドレヴェンツのセリフを聞いて、渋面を作るファーレンハイトだったが、すぐにいつもの爽やかな表情に戻る。


 「そんなに美味いのか・・・なら、俺も前向きに検討してみよう」


 そう言いながら、心の中では、(副官に高い店で奢った事を自慢したいのか・・・一体、何が言いたいのだ!)と毒づいてみる。


 「ファーレンハイト提督。それに、今日は天気がいいでしょう?それで、回り道をして歩いて帰ろうという事になりまして。こういう陽気の時は気持ちも明るくなりますしね」


 ミュラーは眩しそうに目を細めて空を見上げる。
 今日は真っ青な空に雲ひとつなく、ポカポカと穏かで風もそよそよと気持ちが良かった。
 土手沿いには黄色い可憐な菜の花が無数に咲いていて、眺めているだけで何となく癒される。
 似通った理由だが、明らかに違う点が、この二組の上官と部下の間には横たわっているのだが、ミュラーは全く気付いていない。


 ファーレンハイトは、(早く帰れよ、馬鹿!!)とミュラーに向かって念じてみるが、元から超能力など無いから、ミュラーは全く気付いてくれない。
 それどころか、冷や汗物のセリフを・・・ミュラーは口にした。


 「ところで・・・提督。ザンデルス大尉はさっきから何をしているんですか?」


 ミュラーは、ファーレンハイトの隣にしゃがみこんで、何やら地面を掘り返しているザンデルスを怪訝に思ったようだ。
 ドレヴェンツも不思議そうに、ファーレンハイトの副官を眺めている。


 「あ・・・本当ですね。なぁ、ザンデルス・・・卿はそこで何をしているのだ??落し物でもしたのなら、捜すのを手伝うが・・・」
 「いや・・・いい。失せ物はたった今、見つかったから。心配させて悪かったな」


 ザンデルスは手を泥だけにして立ち上がった。
 だが、何も手にしていないので、ドレヴェンツは益々怪訝そうな表情になる。


 「ミュラー。これだけ沢山の菜の花が咲いている。これを沢山摘んで・・・花瓶にでも活けたらキレイなんじゃないかなぁ・・・と」


 ザンデルスの本当の目的を話したところで、思いっきり笑われるだけだろう。
 ファーレンハイトは咄嗟に、手近にあった菜の花を1本手折ると、ミュラーの鼻先に、ずずずい・・・っと突き出した。


 「・・・野の花を活けるんですか。あぁ、それは風流でいいですね。花屋で買う花が一番・・・でもないですし。菜の花って本当に可憐ですよねぇ。じゃ、小官は失礼します」


 ミュラーはにこやかに微笑んで、未だ腑に落ちない顔をしているドレヴェンツを促して土手から立ち去った。




 「はあぁ・・・助かりました、閣下・・・」


 ザンデルスの足元には、経った今、掘り返したばかりの幾つもの『のびる』がゴロゴロと転がっている・・・。
 それを屈んで拾い上げたザンデルス。


 「あともうちょっとで、ここの群生のは制覇出来ます。全部・・・掘り返します」
 「あぁ、そうだな。せっかくの機会なのだから掘り返してしまおう。俺も一緒に掘るから」

 「え・・・閣下もですか?」

 「2人の方が早い。また誰かに会わない内に掘るぞ」

 「はい!」


 ファーレンハイトはザンデルスの言う群生地を一緒に掘り返した。

 2人で協力し合って掘った方が効率が良い。

 そして、面白いように・・・とれたのだった。


 「全く・・・どうでもいい時に現れるとは、フォーカス・ミュラーとはよく言ったものだな。・・・神出鬼没で侮れない。それにしても、菜の花のお陰で助かったな」


 ファーレンハイトは、風を受けて微かに揺れる菜の花を指で軽くはじいた。


 「ええ・・・。本当に、菜の花さまさまって感じですよ。あ、そうそう・・・閣下も勿論、『のびる』を食べますよね?」
 「あぁ、勿論。こいつは、ビールとかのつまみにはもってこいだよな。・・・へぇ・・・結構取れたんだな」
 「これだけ取れれば・・・いいつまみになりますよね」
 「・・・よし、ハンカチに包んで持って行こう」


 ファーレンハイトは、自分とザンデルスが苦心して掘り返した『のびる』をハンカチいっぱいに包み込む。
 泥だらけになった手は川の水で洗い流し、2人は嬉しそうに歩き出した。


 「閣下。・・・こういうの、きっと他の方々は食べないんでしょうねぇ・・・自然の恵みなんですけど・・・」
 「多分な・・・。こんな雑草みたいな物が食えるなんて思いもしないんだろうな。菜の花だって、こんなに成長したら観賞するしか出来ないが、若い茎は茹でてサラダなんかにすると凄く美味いしな・・・高いレストランなんぞに行かなくたって・・・美味い物は身近にあるのだ」
 「本当にその通りです、閣下。来年、また取りに来ましょう」
 「そうだな・・・」



 2人がゆっくりと土手を離れて歩き始めた後背で、菜の花がゆらゆらと可憐に揺れていた・・・。





Das Ende 





 100のお題より、「菜の花」です。


 4月頃の季節、川沿いを歩いたりしていると、菜の花を見かけます。
 風に黄色い花がさやさやと揺れているのを見ると、風流だなぁ・・・って思いますが。

 因みに『のびる』とは、『野蒜』と書くのですが、土手沿いで見つける事が出来る野草です。
 根の部分を食べるのですが、ちょっと辛味があって、うーん・・・エシャロットみたいな感じです。

 その独特の辛味と味噌が合うので、生のまま味噌で食べるのが一番ですが、これはお酒のツマミにはピッタリ。(私は下戸ですが、飲める人は乙な味とかって言いますので・・・)
 『蒜』はネギの古名・・・つまり、葱科の植物なんです。


 そう言えば、テレ朝の『いきなり黄金伝説』の『1カ月一万円生活』で森三中の村上さんが、「のびる」を採って、これを使ってピザを作っていたことがあったなぁ・・・。
 アレ・・・凄く美味しそうでした!!


 極貧主従が、何を付けて食べているか気になりますが、チリソースとか、濃い目の辛みの効いたソースとかなら合うかもしれません。
 マスタードでもOKかも。

 本当に自然の恵みなんですよ、『のびる』って!!
 
 あ・・・そうだ。
 岡本信人さんなら、てんぷらにして食べそうですが・・・。←え??<ナニコレ珍百景ですね・・・。













 外で耳を劈くような大きな音がしている。
 時々、身体に感じるほどの凄まじい地響きまでする。


 ・・・耳と身体とがどうにかなってしまいそうだった。
 何事だと思って、何とかベッドから起き上がって、白いカーテンと窓を開けてそっと外を眺め見た。
それは、巨大な重機による解体作業なのだった。
 その解体作業を見守る大勢の人々。
 大人も子供も・・・まさに老若男女入り乱れて遠巻きに見物している。
 時々大歓声も起こって、ここまで響いていくる・・・それだけ、皆が興奮しているのだ。
最近の日中は・・・ずっとこんな感じで、騒然とした雰囲気である。


 「本当に大きな音ね・・・でも、新しい時代の幕開けの音なのだわ」


 私は独り言を言って立ち上がった。


 「見れば見るほど・・・凄い光景ね」


 5階建ての病院の2階の窓から辛うじて見えたのは、既に家人のいなくなった、古い貴族の屋敷が巨大な重機によって無残に取り壊されている風景だった。



 貴族の屋敷には、今迄は一般の市民は近づけなかった。
 付近を通っただけで、不審者扱いされ、憲兵達から居丈高に庶務質問される事だってあった。
 高い塀が無残にも取り壊され、中の様子が見えるようになったので、皆、興味本位で覗いているのだ。
 そして、庭に設えられた馬鹿でかいプールや噴水に驚いたりしていた。
 あまりにも自分達の生活とはかけ離れた・・・贅沢三昧の貴族の生活。
 それが面白いように取り壊されていくのだ・・・ワクワクしないはずがない。


 「今までみたいに・・・大貴族が我が物顔で闊歩する時代ではなくなるのかもしれないわね・・・」


 重機で、ガシガシと壊される貴族の屋敷を見ながら、私は大きく息を吐いた。

 そう言えば、最近では、あちらこちらで睨みを効かせていた、巨大なルドルフ大帝の石像が台座ごと引き倒されていた。
 巨大な像も引き倒されれば、ただの岩の塊でしかない。
 中には、引き倒されたまま、通行の妨げに鳴らない程度に、ゴロンと転がったまま・・・だったりする。
 以前なら考えられもしなかった事だけど。
 何も知らない子供達がルドルフ像に無邪気に乗っかって遊んだり、好奇心旺盛な観光客が写真に収めたりしていていた。
 中にはルドルフ像を削り取っている者もいるとニュースで言っていた。


 この病院に入院する直前だっただろうか。
 実際に像を削っている光景を目撃した時は、血が凍りつきそうなくらいに驚いた。
 だってまさか・・・本当に削り取っているとは。
 そう言えば、最近聞いた話では・・・。
 あちこちにある貴族の屋敷を、軍が施設用に借り上げたり、古くなった屋敷は取り壊されたりしているらしい。
 取り壊された跡地には、新しく市民達の憩いの施設を軍主導で作られるのだと、親しい友人達が言っていたのを思い出した。
 貴族の屋敷を軍が借り上げるなんて・・・昔は考えられなかったと思う。
 それに、あんな風に重機で取り壊されるところなんか見た事が無いから、皆、見物しているのだ。
 



 ・・・不敬罪。


 今までなら、こんな事をしようものなら処刑されても文句が言えないほどの罪に問われた。
 下手をすれば、一族全てが罪に問われる。


 「死刑」になる・・・この言葉が頭を素早く過ぎったが、誰もルドルフ像に対するこれらの行為を止めなかった。
 石像を踏みつけていても削り取っても・・・咎めだてされないのだ。
 こんな愉快な事があるだろうか。

 人々は今までのうっ憤を晴らすかのように、ルドルフ像を蹴ったりしていた。
 実は、私もほんの少しだけ蹴ってみた。 
 でも、憲兵隊も現れないし、何とも不思議な気分になった。


 暫くして、像を削り取って売る者が出たと新聞に載った時は私も驚いた。   
 見舞いに来た友人のハルドラの話では、ネット・オークションでかけらが売られているのを見たらしくい。


 「全く凄いのよ。『ルドルフ像のかけら・正真正銘の本物です!』とか、『今しか入手出来ないレ物!ルドルフ像のかけら!!』とか、おおっぴろに書かれていたの。だけどね、削除されていないんですって」
 「それじゃぁ、当局が見て見ぬふりをしているって事?」 
 「多分・・・そうだと思うわ。私・・・ネットで見た時にね、もう、心臓が飛び出るほど驚いたのよ。不敬罪だって思ったけど、世の中、変われば変わるものよね」
 「憲兵隊は摘発しないの?」
 「静観しているみたいよ。最も悪質な場合は捕まるかもしれないけれど、子供でも買えそうな値段だから・・・見て見ぬ振りね」
 「・・・そう。このところの変化には驚く事ばかりだわ」
 「本当にそうよ。ウルスラ・・・早く退院出来るといいわね。そうそう・・・『新無憂宮<ノイエ・サンスーシ>』もね、一部分を公園として解放するんですって」
 「え、本当に?あそこ・・・宮殿じゃない」
 「使われていない部分が大半だからですって・・・驚いちゃったわ」
 「本当に、最近はこんな事ばかりね。でも素晴らしいわ・・・何だかウキウキしてきたわ」
 「そうよ、ウキウキしていたら、退院も早まるわ。人間、明るい気持ちでいるのが一番なんだから」


 多分・・・新しい王朝になる前までは、そんな事をしたくたって出来なかったのだから、この劇的な変化は凄いとしか言いようが無い。
 貴族を馬鹿にしたり、笑ったりしただけで牢獄行き・・・なんて事が当たり前のようにまかり通っていたのがおかしいのだ。


 この変化は、ローエングラム公・・・いや、今は、この方が、かつてのゴールデンバウム王朝を倒されて皇帝陛下におなりなのだが、とにかく、ローエングラム王朝の世の中になって、少しだけ、市民生活に明るさが出て来たように思う。


 私を含めて多くの人達が彼を支持した。
 一般市民もそうだけど、抵抗軍の士気は恐ろしく高いそうだ。
 それは皇帝自ら戦場にあり、最前線で指揮を執るので兵士達が一丸となっているそうだ。 
 決して傷つかぬ安全の場所で命令を下すだけのかつての皇帝とはまるで違う・・・私がもし男性で、軍隊にいたら、やはり信望の対象として皇帝の為に働こうと思うだろう。


 だから・・・。
 これからは、改革者である彼の事を悪し様に言うのが、今の新しい世の中での“不敬罪”に当たるに違いない。
 だが、過去の王朝の事を悪く言うのは、不敬罪には当たらない・・・すっかり変わってしまったのだ。
 
 だから、皆、堰を切ったように、今まで虐げられていた鬱屈した怒りが爆発したかのように、ゴールデンバウム王朝の理不尽さを言い出した。
 それは、新たな覇王に期待を寄せる証でもあった。
 始まったばかりのローエングラム王朝に不安を抱きながらも、かの豪奢な金髪の若き皇帝に皆が期待をしているのだ・・・。
 ・・・今度こそ、平民も住みやすい良い世の中になればいいのだけれど・・・。



 私は、リップシュタット戦役の始まるちょっと前に体調を崩して、療養生活を余儀なくされた。
 それまでは、侍女としてブラウンシュヴァイク公夫人に仕えていたのだが、体調不良を理由に暇をもらって勤めを辞めたのが、リップシュタット盟約が結ばれる2ヶ月ほど前だった。
 侍女の替え等いくらでもいるのだ・・・。
 引き止められる事もなく、私は簡単に解雇され、その後は療養に専念している。

 けれど、これが結果的には良かったのだ。


 最近になって体調が落ち着いて、もう暫くしたら退院出来そうな気配だった。

 戦役時に、公や夫人に付いて行った同僚のうち、何人かは暴動などに巻き込まれて既に亡くなっている。
 見舞いに来てくれたハルドラは私に、「・・・入院生活なんて退屈だろうけどね、少なくとも・・・公爵一家に付いて行って、理不尽に死んでしまった他の人に比べたら、ウルスラ・・・あんたは運がいい方だと思うわよ。まぁ、それについては私もそうなんだけれどね」と言う。
 確かに・・・と、私も思う。
 無事な者の殆どは、あの内戦の前に、公爵家の屋敷勤めを辞めた者ばかりなのだ。


 友人のハルドラは、結婚が決まって・・・それで退職していた。

 私は体調不良でお屋敷を辞めたが、入院生活で金銭的に、生活は決して楽では無い。
 ただ、命だけは保証された訳だった。
 根気良く長い療養をしたお陰で私の病は漸く癒えて、あと数日で退院できると医者には言われている。

 退院したら、“昔取った杵柄”と言うか、侍女でも家政婦でもいいけど、どこかで住み込みで働くつもりだった。
 友人達の多くは、貴族以外のお金持ちの家に働きに行っているようだったし。
 そして、彼女達は口々に言う。

 貴族の屋敷勤めに比べて、理不尽な扱いを受けない分、気持ちが楽だと。



 風の噂で、公爵夫人が貴族連合軍に徴兵された兵士達・・・暴徒と化した・・・に襲われたと聞いた時、私は同僚のエンマがどうしたのか気になったが、他の友人達も、彼女とはあの戦役以降全く連絡が取れないとの事だった。
 皆、「エンマの事は知らないわ・・・連絡が取れないのよ」と首を振った。


 「ウルスラ・・・私、思うのだけど、エンマは亡くなったのかもしれないわ。あの子はエリザベート様のお気に入りだったでしょ?髪結いが上手くて、いつも指名されていたでしょ?それに、公爵夫人もあの子の事は可愛がっていたから・・・それで、恩を感じて一緒について行ったのだと思うの。馬鹿な子よね。早くお勤めを辞めておけば良かったのに。それにね、あくまで噂なんだけど、公爵夫人もエリザベート様も毒を飲んでいを亡くなったのですって。それでね、周りの使用人達も一緒に飲んだという話なの」
 「それじゃ・・・エンマも?」
 「だって・・・あの子、帰って来なかったのよ?きっと巻き込まれたのよ」
 「ねえ、それ・・・本当なの!?」
 「・・・さぁ。あくまで噂よ。そんなの・・・もう私達には何の関係も無いじゃない?もう・・・あの人たちの事は考えたくないわ」


 かつて私は、盗んでもいない宝石の事で濡れ衣を着せられ、公爵夫人から鞭打ち刑にあっていた。
 私がクビにならなかったのは、真犯人が名乗り出たからだった。
 宝石を盗んだのは、15歳の奉公に上がったばかりの少女で、つい、出来心でチェストの上にあったブローチをポケットに入れてしまったらしい。
 その少女も100回以上の鞭打ちをさせられ、給金も払われないまま即座にクビになり、反対に私は許されたのだった・・・尤も、鞭打ちは100回されたから、身体がはれ上がってしまったけれど。


 それに、私もエンマ同様にエリザベート様には気に入られていて、ドレスを選ぶセンスが良いという理由であったが・・・とにかく、気に入られていたのでクビだけは免れた・・・訳だった。

 けれど、私は公爵夫人には気に入られてはいなかったのか、あの泥棒事件では本当に厭な思いをした。
 そんな事があった為、私は私は高慢で居丈高な公爵夫人を好いた事は一度も無い。
 でも、さすがに自分が仕えていた人だけに、その最後には憐れみを覚えたけれど。
 そして、エンマの為に祈らずにはいられなかった。
 


 色々な人に削り取られて、かけらがボロボロと落ちている像や、取り壊しの為、粉々になった貴族の屋敷・・・。
 私の中に浮かんだのは、頑丈そうに見えたゴールデンバウム王朝も所詮は『砂礫王国』・・・砂の居城だったんだ・・・という苦い思いだけだった。

 
 そして・・・新たなる王朝が頑強な城である事を願わずにいられなかった。





Das Ende





 100のお題より、「砂礫王国」です。


 ごく普通の、名も無い帝国の臣民の気持ちで書いてみました。
 しかも、元ブラウンシュヴァイク公夫人に仕えていたらしい人という設定で。
 殆ど・・・と言うよりも、丸っきりのオリジナル。


 ハルドラ、ウルスラ、エンマ・・・皆、ブラウンシュヴァイク公の所の奉公人です。

 帝国が様変わりしていく様を、日々の生活の中で彼等はつぶさに見ていたと思う。
 そして、今度こそ、自分達が顧みられる世の中になって欲しいと願ったはず。
 書きにくいなぁ・・・と思いましたが、何とかなったみたいでホッとしています。

 私・・・ブラウンシュヴァイク公って、原作読んだ時は嫌いだったんですけど、OVAでは嫌いにはなれませんでした。
 嫌な人には変わりはないのだけど、大嫌い!!ではなくなっていてビックリ。
 多分・・・声によるところが大きかったのだと思います。

 だってさ、小林修さんなんだもの。


 洋画ファンにはユル・ブリンナーの吹替えでおなじみで、古いアニメファンには、「宇宙戦艦ヤマト」のドメル将軍とか、映画「宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち~」の白色彗星帝国のズォーダー大帝とか。
 そう言えば・・・リッテンハイム候の寺島幹夫さんもヤマトには出ていたっけ・・・。
 2代目の機関長の山崎さんでね。
 ・・・結構渋くて、ナイスミドルって感じなんで、山崎機関長は好きでしたね。
 寺島さんは、他には「ガッチャマン」の敵のベルクカッツェとかやってましたね。


 それにしても、公爵夫人とご息女のエリザベートは、リップシュタット戦役以降、どういう運命を辿ったのか、原作に書いていない分、どうも気になって・・・。
 勝手に「暴徒に襲われた&自害した」にしましたけど。
 ・・・どっちみち、普通には生きてはいけないだろうなぁ・・・。


 きっと、リッテンハイム侯と、夫人とご息女も同じく、自害か、暴徒に殺されているか・・・どちらかでしょう。

 だってさ、ブラウンシュヴァイク公もリッテンハイム侯も亡くなられて、どうやって家族は生きていけばいいか分からないはず。
 ブラウンシュヴァイク公のご家族は毒をあおっての自害で、リッテンハイム公のご家族は暴徒化した兵士達に襲われた可能性が高い。
 ちょっと厭らしい事を言えば、侯爵の娘のサビーネは・・・結構美人でしたから、いきり立っている男達に弄ばれた可能性もある。
 何人もの男達に嬲り者にされ、「こんな仕打ちをされておめおめと生きてはいけない」とかなんとかおっしゃられて、舌を噛んで自害・・・なんてのもアリかな?
 娘が酷い目に遭っているのを目の当たりにして、侯爵夫人は半狂乱になって金切り声を上げて、男達に口と鼻を塞がれて窒息死・・・とか。
 うわ・・・自分で書いてなんだけど、グロイ・・・いやだわ、そんなの。←だけどあり得るから怖い・・・。


 どちらにしても、皆様・・・ヴァルハラの門をくぐっておられるかもしれませぬ・・・。


 もしかして、削り取った像を売っているのは、ファーレンハイトかも??と思われた方。
 さすがに、ファーレンハイトもそこまではしませんです。
 ・・・ってか、私がやらせたくないです^^@



最近、球体型空気清浄器を買いました。
球体型のは、加湿器もありますけど、私のは空気清浄器。
水道水を入れて、アロマのソリューションオイルを数滴垂らして、水のチカラで空気をキレイにして、更に良い香りを・・です。

ジャスミンのオイルを入れたら、ダンナに不評でした。
ジャスミンは、風呂の残り湯を思い出すからだそうで、だから、ジャスミン茶もキライなんだって。
私はジャスミン茶・・大好きなんだけど、確かに、ある一定の年齢の人には、凄い蛍光色のバスクリンの色とジャスミンの香りが、五感に染み付いてんだな。
そういう人達は、若い人には理解出来ないと思うけれど、キンモクセイの香りを嗅ぐと、「良い匂い」だとは感じずに、「トイレの芳香剤」を思い出すらしいです。
これも五感がそうさせるんだな。

最近は香りも多種多様なので、一定の香りだけに集中する事はないだろうけど、ジャスミンのオイルは、今後、使いづらいです。

ダンナが出張とかで、家にいない時に使う事にしようっと・・。