暖炉の前で小説を読みふけっていたキルヒアイスは、「ふう・・・」と溜め息をついて、本を閉じた。
「どうしたんだ、キルヒアイス?」
ラインハルトの呼びかけに、キルヒアイスは慌てて微笑んだ。
「何でもありません、ラインハルト様」
「・・・何でもない訳が無い。顔色が悪い!」
ラインハルトは顔を顰<しか>めた。
いきなり立ち上がると、キルヒアイスのそばへ、つかつかとやって来た。
そして、おもむろに右手をキルヒアイスの額に当てる。
「・・・熱はないな」
「あの・・・」
「なんだ?」
「ラインハルト様・・・私は病気ではありません」
キルヒアイスは微かに笑う。
ところが、ラインハルトの方は彼を病気にしておきたいのか、「・・・せっかく看病でもしてやろうと思ったのに」と口を尖らした。
今日は久々の休日。
だが、あいにく天候は・・・悪い。
朝から物凄い雪が降っていて、時々吹雪く。
雪が降っていなかったら、ラインハルトは、何とか許可を取ってアンネローゼに会いに行こうと思っていたようだ。
でも、こう吹雪かれると、外出もままならない。
それでこの下宿屋で2人してのんびりと過ごす事にしたのだった。
アンネローゼに会えない事を不満に思いながら、ラインハルトは彼女宛ての手紙を書き始める。
真剣な眼差しで手紙を書くラインハルトを見てキルヒアイスは微笑んだ。
そして・・・彼の為のクリ-ムたっぷりのコーヒーを入れた。
その後は、近くのソファで、最近手に入れた本を読んで過ごしていた。
「そうだ・・・。姉上にあの事も知らせよう・・・」
軍では厳しい表情をするラインハルトも、2人でいる時は、少年らしい顔も見せる。
「あ・・・あの事も知らせた方がいいかな・・・」
独り言を呟いてほんの少し微笑むラインハルト。
いくら姉とは言え、現在のアンネローゼの立場は皇帝陛下の寵妃。
会いたい時に会える訳ではない・・・会うには、皇帝からの許可が必要なのだ、悲しい事に。
・・・だから、アンネローゼへ手紙をしたためるしかないのだ。
ラインハルトはあれこれ考えながら手紙を書くのに没頭していた。
そんなラインハルトに、キルヒアイスは、いつまでも、その少年の部分を残していて欲しいと思う。
「・・・で、顔色悪かった原因は何だ?」
「これです・・・」
苦笑したキルヒアイスが差し出した1冊の本。
タイトルに『呪縛の鏡界』とあった。
怪訝そうな顔でラインハルトはキルヒアイスを見やる。
「これが原因か?」
「はい。暇つぶしに読んだホラー小説なのですが・・・」
「ホラー!?」
ラインハルトは意外そうな目をキルヒアイスに向ける。
彼もたまには小説を読むが、さすがにホラー小説は守備範囲外だったから。
「先日本屋に立ち寄った時に見つけたんです。20年ほど前から売れているホラー小説だそうで」
「20年間も売れているのか・・・。どんな内容なんだ?お前が顔色なくすくらいだから、相当怖いのか?」
「はい、まぁ・・・怖いと言えば怖いですが。合わせ鏡の話がメインになっていまして・・・」
「合わせ鏡!?」
「沢山の鏡が設えられた部屋で起こった怪談を集めたものです。いくつものエピソードはオムニバス形式になっているのです」
「ふーん・・・じゃぁ、短編集なのか?」
「そうです。一応・・・」
「一応?」
「私も読み始めは1話完結の短編だと思っていたのですが、独立しているように見えて、実は・・・全ての作品が繋がっているのです」
「ほう?」
「そして、最後の最後に・・・意外な大どんでん返しがありました。思わずゾクッとしました」
「ふーん。・・・怖いんだ?」
「ええ、まぁ・・・。誰もいないはずなのに自分の背後に怨霊がいて、じっと恨みのこもった目で見つめていたりとか・・・」
キルヒアイスの説明に、ラインハルトは眉を顰<ひそ>めた。
「ところで、この『カール・グスタフ』というのは有名な作家なのか?」
「そのようです。この作家の持ち味は・・・その・・・描写がちょっとグロテスクで怖いのです。ただ、元々はホラー小説専門の作家では無く、どちらかと言うと、叙情小説や、純文学の方が多いようです」
「そうか・・・」
「そう言えば、ラインハルト様は、あまり小説は読まれないですよね。特にホラーは」
「・・・あぁ、読まないな。怨霊よりも生きている人間の方が数倍怖いじゃないか。それに・・・俺は背後なんか気にしない。・・・キルヒアイス・・・お前がいてくれるからな」
それを聞いてキルヒアイスは静かに微笑んだ。
「そうですね。・・・ラインハルト様は前だけを向いていて下さい。・・・さてと、コーヒーでも淹れましょう」
「あぁ、クリームをたっぷり・・・」
「太りますよ・・・」
「それは大丈夫だ。・・・太る権利は他人にくれてやる、肥大しきった門閥貴族どもにな・・・」
吹き出しかけたキルヒアイスだったが、この2人のひと時をとても大事にしたいと思った。
Das Ende
100のお題より「会わせ鏡」です・・・そして、ライ&キルです。
ただし、フーバー夫人の家に下宿していた頃の2人です。
幼年学校を出て、任官した頃という設定で書いているので、ラインハルトが、まだミューゼルという姓を名乗っている頃です^^@
それにしても、オチがイマイチ・・・。
この作品は100のお題を書き始めた頃の作品ですので、もっと違った人物で書いていたかも・・・。
そう言えば、丑三つ時(午前2時頃)に会わせ鏡をすると、一番、あの世とこの世が繋がる時間なので、不思議な現象が起こる・・・と、何かの本で読んだ事があります。
実は、それを聞いた時、私は震え上がってしまいました。
私はホラー小説とかが好きなくせに小心者なのです。
実家の洗面所が合わせ鏡状態で、頭の後ろ側が良く見えるので重宝していますが、幽霊でも見えたら困るから・・・と、夜中には近づかなかったです。
因みに、私は霊感がないです・・・アハハハハハ。
まぁ、不思議の世界を覗いてみたい方は、真夜中に合わせ鏡をしてお試し下さいませ。
帝国でホラー小説が人気があるかどうか分かりませんが、オカルト小説は廃れてしまっているかも。
純粋に、恨みや怨念を扱ったホラー小説やスプラッタ小説はありそうです。
オカルトが廃れていると思ったのは、宗教観が変わってしまっていそうだから^^@
多分、キリスト教は信仰されていないと思う・・・カトリックやプロテスタントを含めて。
その代わり・・・「大神オーディン」という言葉が出て来るから、「北欧神話」が根付いた世界かと・・・銀河帝国。
トゥール・ハンマーの「トゥール」や「ヨーツンハイム」、「ワルキューレ」って言葉がね~・・・あと、「ヴァルハラ」とかね^^@
さて、ここに出て来た小説の『呪縛の鏡界』は架空の物です。
最近はホラー小説をか読みませんが、一時期、スティーブン・キングやディーン・R・クーンツなんかを読んだ事があります。
キングの「ミザリー」とか「ペットセメタリー」は好きですね。
「ミザリー」は映画まで観に行ったけど、キャシー・ベイツが物凄く怖かった・・・あのオバサン・・・タダものじゃないわ。
そうそう、怖かった小説と言えば・・・。
もう20年以上前の事ですが、角川から出ていた文庫で今は絶版になっている海外小説で「ゴルゴタの呪いの教会」ってベタなタイトルのオカルト小説があっ
たんです。
邦題がメチャメチャベタだったけど、もう1度読んでみたいなぁ・・・アレ。
悪魔と戦う神父が凄かったんです、この小説・・・。
あと、この小説に出て来た作家さんですが・・・ある話に繋がりがあります。
でも、ここではあえて書きません。
関連する話をUPする際に付記させて頂きますね・・・その内に^^@
