雪組トップコンビ「だいきほ」、彩凪翔さんはじめ、卒業する方が多い公演である。
雪組は、一年前の『Once Upon A Time In America』の東京公演中に、新型ウィルスの影響が拡大し、多くの公演が中止となった。
一年後も事態は沈静化せず、緊急事態宣言下で開幕となった『fff』と『シルクロード』。外出自粛が続く状況で、これまでの雪組公演より、チケットは取りやすかった。
この演目は、お芝居もショーも、おそらく、かなり好みが分かれる作品だ。特にお芝居は、予習なしで一回観ただけでは、わけがわからないうちに終わってしまう。
『fff』は、上田久美子先生作。まず、好きだった点から。
*作品のあらすじに絡む部分や細部に言及しているので注意。
①雪組の現体制が視覚化されている
現体制の主軸にいる男役三人(望海さん、彩風さん、彩凪さん)が、同時代を生きた三人の偉人(ベートーヴェン、ナポレオン、ゲーテ)に配役されている。一旦ストーリーが動きだすと、当然、ベートーヴェンの物語として展開するが、「ベートーヴェンとナポレオン」、「ナポレオンとゲーテ」、「ベートーヴェンとゲーテ」という三通りの組み合わせでの交流もきっちり描かれている。
プロローグでは、舞台中央のオーケストラボックスで指揮をするベートーヴェン(望海さん)が、「もっと大きく、ゲーテのように!もっと強く、ナポレオンのように!」と絶叫すると、上手からナポレオンの彩風さん、下手からゲーテの彩凪さんがせり上がり、そのまま三人が銀橋に揃い、さらに本舞台に移動して、それぞれが率いる三グループが舞台上で行き交うダンスシーンへと進んでいく。「爆発的なかっこよさ」とでも表現したらよいだろうか。
エピローグでも、上手からナポレオン、下手からゲーテがせり上がる演出が繰り返されるが、ここでは二人とも真っ白な衣装に身を包んでいる。他の登場人物の衣装も真っ白で、地上の苦しみから解き放たれて、皆が歓喜に歌う、明るいエピローグだ。
上田先生から望海・彩風・彩凪体制への最大限の賛辞が送られていると感じた。
②退団するスターたちへの上田先生の大きな愛情を感じる
「だいきほ」は、劇団史上でも稀にみる、スーパーシンガーコンビである。『fff』は、この「音楽の天使コンビ」にふさわしい演目であり、二人が次々難曲を歌いこなしていくのは圧巻だった。
このコンビの「始まり」には、「歓喜の歌」があった。お披露目作品のショー『Super Voyager!』でのファーストデュエットが、この曲を軽快にアレンジしたもの。『fff』の終盤では、ベートーヴェンと、その運命である「謎の女」(真彩さん)が一体化して、苦しみの果てに「歓喜の歌」にたどりつく。このうえなくドラマチックな演出である。
彩凪さんはゲーテ役。ゲーテは彩凪さんが以前主演した『春雷』で演じた役でもある。最近、スカイステージで再放送されているので、両方あわせて観ると、彩凪さんがたどった男役人生が見えてくる。『fff』では、『春雷』で彩凪さんが演じたもう一つの役、ウェルテル(『fff』では諏訪さきさん)も登場する。また、ナポレオンと語らう場面もあり、ここの二人のセリフのやり取りに、「彩彩」の完成形を見ることもできた。
メッテルニヒ役の煌羽レオさんも今回卒業だが、敵役ながら揺るぎない信念をもつ人物として描かれ、ラストステージにふさわしい活躍だった。また、娘役ダンサーの笙乃茅桜さんは、小さなベートーヴェンの中にともされた「小さな炎」をダンスで表現する役に加え、子供時代のベートーヴェンの母親役でも登場する。卒業の舞台で、実力を存分に発揮されているのを見られるのが嬉しい。
③娘役さんの使われ方が良い
雪組には娘役スターがそろっている。『fff』では、新人公演ヒロイン級の娘役全員が、それぞれ、魅力的な役を任され、活躍している。ベートーヴェンが心を許す女性ロールヘンは、少女時代(星南のぞみさん)と結婚後(朝月希和さん)に分けて二人で分担。ベートーヴェンの美貌の恋人ジュリエッタは組替えしたばかりの夢白あやさん。彩みちるさんはモーツァルト、野々花ひまりさんはベートーヴェンの少年時代。このほかにも娘役さんたちに見せ場のある役が用意され、娘役ファンにとって、見ごたえのある作品になっている。
④音楽が良い
ベートーヴェンを扱った作品なので、ベートーヴェンの楽曲が多く使用されている。名曲の数々に作品が彩られ、引っ張られていく。クラシック好きには、幸せな時間だ。
以上、この作品を好きにならずにはいられない理由を書きつらねた。別の部分での率直な感想は次の機会に。