「昨日人を殺したんだ」

由依はそう言っていた。梅雨時だっていうのにずぶ濡れのまんま玄関の前で泣いてた。

私は何も言えずにただ由依を抱きしめた。

夏が始まったばかりだって言うのに由依はひどく震えていた。

そんな話で始まる あの夏の日の記憶だ


「殺したのは隣の席のいつも虐めてくるアイツ。もう嫌になってさ、肩突き飛ばしたら打ち所が悪かったらしくて。もうここにはいられないと思うしどっか遠いとこで死んでくるよ」

そう、悲しそうな笑顔で言う由依に私は言った


「それじゃ、私も連れてってよ」


財布とナイフ、スマホにゲームをカバンに詰めていらないものは全部壊した。由依との日記も、由依との写真ももういらない。人殺しの由依とダメ人間の私だけの旅だから。


そして私達は逃げ出した、この狭い世界から

家族もクラスの奴らも何もかも全部捨てて由依と二人だけで。

「遠い遠い誰もいない場所で二人で死のうよ。

もうこの世界に価値なんてないよ。人殺しなんてそこら中湧いてるじゃんか…」

そんな私の言葉に由依が反応することはなかった。

由依は何も悪くないよ……


「結局私達誰にも愛されたことなんてなかったんだよ」


そんな嫌な共通点で私達は簡単に信じあってきた。由依の手を握ったとき微かな震えも既になくなっていて、誰にも縛られないで二人線路の上を歩いた


お金を盗んで、二人で逃げてどこまでも行ける気がしたんだ。今更怖いものは私達にはなかったんだ。

額の汗も落ちた眼鏡も今とめっちゃどうでもいいさ。あぶれ者の小さな逃避行の旅だ。


「いつか夢見た優しくてみんなに好かれる主人公なら、汚くなった私達も見捨てずにちゃんと救ってくれるのかな」

不意に由依が漏らした言葉。綺麗事みたいです好きじゃなくて

「そんな夢なら捨てたよ。だって現実を見てよシアワセなんて言葉なかったじゃん。今までの人生で思い知ったもん。」

なんて嫌味っぽく返してしまう。

自分は何も悪くないと、誰もがきっと思ってるんだ。


あてもなく彷徨う蝉の群れに、水もなくなり揺れ出す視界に迫りくる大人たちの怒号にバカみたいにはしゃぎあっていると、ふと由依がナイフを持った。

「理佐がいたからここまで来れたんだ。だからもういいよ、もう…いいよ」


「死ぬのは私一人でいいよ」


そして由依は自分の首を切った

まるで何かの映画のワンシーンみたいで。白昼夢を見てる気がした。気づけば私だけ捕まっていて

由依だけがどこにも見つからなくて、由依だけがどこにもいなくて。


そして時は過ぎていった、ただ暑い暑い日が過ぎて行った。

家族もクラスの奴らもいるのになぜか由依だけがどこにもいない。


あの夏の日を思い出す。私は今も今でも歌ってる。由依をずっと探しているんだよ、由依に言いたいことがあるから


9月の終わりにくしゃみして、6月の匂いを繰り返す。由依の笑顔は由依の無邪気さは私の頭の中をずっと、ずっと満たしている。


誰も何も悪くないよ

由依は何も悪くはないから


「「もういいよ投げ出してしまおう。そう言って欲しかったの」」

だろう?なぁ?













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読んでくれてありがとうございました。

この小説は「あの夏が飽和する」というボカロの歌をモチーフに書かせて頂きました。曲をモチーフにどんどん書いていきたいと思ってるので書いてほしい曲などがありましたら、コメント欄に書いてください。

今回は理佐目線で書きました。今度ゆいぽん目線で書くので待っててください。