大学を卒業してから海外を転々とし、異国の地で働きながら学校へ通っていた教室の卒業生が、何年ぶりかでやっと連絡をくれた。
コロナが日本で流行る前、ギリギリで帰国出来たと言っていた。
海外で英語版と日本語版の絵本を自費出版し、
「どうしても渡したいから」と持ってきてくれた。
小さい頃から、なんとなくぶっ飛んでいる子だった。
ぶっ飛びながらも芯があるというか。
自分軸で生きているようにみえた。
絵本は、とても良く出来ていて感心した。
お話の途中で、いきなり絵が暗い様相に変化し、それから少しずつ色がつき始める。
「これはね、めぐちゃんなんだよ…」
水玉を指して、そう言った。
教室の卒業生たちは、わたしのことを『めぐちゃん』と呼ぶ。
「先生」と呼ばれるより、しっくり馴染む。
こうやって、誰かの人生の中で音楽が救いになり、記憶に残り、また生きていける。
ほんの少しの関わりなのに、その子の人生の何かにそっと触れていられることが、ものすごく嬉しかった。
楽譜の整理を手伝ってくれて、ニコニコニコニコと子どもみたいな笑顔で帰っていった。
あんなに明るかった子にも、闇の時代があったのがショックだった。
それに全く気づかなかったことが、尚のことショックだった。
『次作を楽しみにしているね』
『うん!』
次に会えるのは、いつだろう。