No Music, No Hunt. 〜戦場でちょっと一曲いかが?〜

No Music, No Hunt. 〜戦場でちょっと一曲いかが?〜

モンハンのプレイ日記です。現在モンハンクロスを遊んでいます!
メイン武器は狩猟笛ですが他の武器も人並みに扱えることを目指して色々触っています(*^_^*)
スタンとれない、旋律切らす、3乙上等のしょんぼり笛吹きの日常ですが、良ければご覧ください!

主な活動時間帯は22時~24時です!部屋立てしてるときは気軽にきてくださると嬉しいです(*^_^*)
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とある村はずれの酒場。

ひどくさびれた村の酒場は、かつては人々がポツリポツリときては在りし日の思い出を肴に今の苦痛を酔いに溶かしているだけの暗い場所だった。

しかしあの日、ある一人の女性がピアノを奏でたあの日から、少しずつ村には音と笑いが戻りはじめていた。



"大雪主の討伐に成功、極圏からの新たな物資調達ルートを確保"






あの決意の一夜から数日後、彼らが戦場に赴き傷だらけになりながらももたらした初めての戦果は、まさに村の未来に立ち込めていた暗雲を切り裂く一条の光となって人々に希望を抱かせた。





それからも彼らは戦いから戻れば酒場を訪れ、それぞれが手にした楽器を奏でて戦果を歌った。
彼らのもとには希望に目を輝かせた若者たちが喜びをわかち合わんと集い、さびれた酒場には日を追うごとに笑い声が増えていった。



Quartet of Sunlight
"陽光の四重奏団"



いつか誰かがそう呼んだ日から、彼らは音楽のみを武器として戦う、村の希望の象徴のような存在になっていた。









そんな彼らが出会ってから1年と半年。


その日銀嶺ガムートの討伐にまで成功し、ついに村を脅かす超特殊許可モンスターは残すところあと一頭となったことで、酒場で開かれた勝利を祝う宴はいつにも増して賑やかさを増していた。


盛り上がりも最高潮に達し、村人たちに推されてセロヴィセロを片手に弦楽二重奏を奏で始めるゆきみんとふくろう。その姿を横目に見つつマスターと話しながらカウンターでグラスを傾けていたひつじは、視界の隅で静かに店を出ていこうとする影をみつけた。


特に人の出入りが少ないわけでもない酒場、実際騒いでいる村人たちは気にもとめていなかったが、ちょうど酔いも深くなっていたひつじは少し夜風で覚まそうかと、席を立ちその後を追った。



後ろ手に酒場の扉を閉めると、それまでの喧騒がふっとボリュームを落とす。
酒場の窓から漏れる光以外には月の光しか夜を照らすものはなく、村の外に広がる林はひっそりと静まり帰っている。
ひつじは頬を撫でる生温い夜風に少し心地よさを感じながら、先ほど店を出た人影を探そうとあたりを見回す。すると少し離れた酒場の裏手の辺りに、積まれた木材に腰かけて月を眺める後ろ姿を見つけた。



「こんなところでセンチメンタルになってるなんて珍しい。変な酒でも飲まされたかい?」

「ひつじ…」


声をかけられたかぼすは一瞬後ろを振り返ったが、すぐにまた前を向き直す。そのとき手に握っていた何かをポケットにしまったのをひつじは見逃さなかった。


思えばかぼすとはこれまで長く戦いを共にしてきた。あの日初めて知り合ったにすぎなかった一人の女性は、いつも明るく振る舞い周囲を鼓舞し、時に冷静に戦場を支え、今となっては四重奏団の支柱として三人からの信頼を集めるようになっていた。しかしひつじはその一方で、実は彼女はこれまで一度も心の奥底を見せていないのではないか、とも感じていた。

そんなかぼすの珍しくいつもと違う様子が気になり、少しの逡巡の後、ひつじは静かにかぼすの横に腰を下ろした。
特に嫌がる素振りも見せないかぼすの無反応を、そこに居てもいい許可と受け取った。




「今何を見ていたか、聞いてもいいかな?」


「なんてことはない、ただの銃弾ですよ。」




ひつじが問いかけると、かぼすは目を合わせることもなく、一度しまったものを取り出して差し出した。
受け取って眺めてみても本当にただの銃弾らしい。
ひつじがかける言葉に窮していると、少しの沈黙の後、かぼすがポツリポツリと語りはじめた。



「本当に、ただの銃弾。かつて私を守ろうとした一人の男が、その弾には役目を与えることができなかったから、今もただの銃弾なんです。」


少し抑えられたトーンで紡がれた言葉に、ひつじはすぐにその意味に思い至るが、じっとかぼすの横顔を見て続きを待った。


「私にも昔ね、背中を預けて戦った人がいたんです。たくさんの戦場を渡り歩いて、とても楽な生活じゃなかったけど、私の旋律でこの人を守るんだって一生懸命で。充実してたなあ。でもね、結局守れなかった。」


最初の言葉から想像はしていた出来事だったが、そこにこもった感情の重みが想像を超えていて、ひつじは言葉を発せずにいた。大切な人を失うということ。自分にとってもそれが一度は現実になりかけたことを思い出し、左腕の古傷がじんと痛む。


「つらかったのにね、つらかったはずなのに、私はまたこうしてこんなことをしている。自分の奏でる音が誰かの力になるなんて、自分をごまかして。結局最後にはまた仲間を死に追いやるだけの破滅の序曲を奏でているだけかもしれないのに…。無責任に、みんなを巻き込んでしまった」

少し震えた声音に、それまで背負ってきた不安と恐怖が滲んでいた。戦場ではあんなにも頼りになる彼女の背中が、今は小さく見える。

思わずひつじは強くかぼすの肩を掴んで、無理やり視線を合わせていた。
かぼすの驚いた表情が月の光に照らされてあらわになる。



「破滅の序曲だなんて、言うな。俺はこんな身体になって、ゆきみんの側にいることは諦めようとした。でもお前の音が、俺に彼女を守る力をまた与えてくれたんだ!お前がいなければ、俺は生きる意味を見失ってた。お前の旋律はもう、俺の命の一部なんだよ!」



掴まれた肩から、手のひらに込められた熱が伝わってくる。
普段もの静かな男が、それ以上の熱を言葉と視線に込めてかぼすにぶつけてくる。

自身をどこにも逃すことができず戸惑うかぼすの表情は少し赤みがかって見えた。





沈黙が二人を包む。





そんなとき、二人を探す声が遠くから聞こえた。


「かぼすさーん!ひつさーん!どこにいるんですか〜?」





かぼすは我に返ったようにひつじの肩を両手で押し返し、立ち上がりながら言った。

「もう、急にかっこいいこと言っちゃって。口説いてるんですか?ゆきみんに言いつけますよ?」




弛緩した空気にひつじも急速に慌て始める。

二人を探す声がだんだん近づいてくる。


「あ!こんなところにいた!もうなにやってるんですか!まだまだ飲みますよ!!」

「ごめんごめん、少し酔ったので夜風に当たっていたんですよ。さあ飲み直しましょう!ひつさんもいきますよ!」



二人を見つけたふくろうに言葉を返すかぼすは、もういつもの様子を取り戻していた。
そしてひつじの手を掴んで引き起こしながら、そっと彼の耳に口を近づけてささやく。




「ちょっとグッときちゃいましたよ。でも、勘違いしないでくださいね?そもそも私、男ですから!」

「は?え?」



間抜けな声を出して立ちすくむひつじをおいて、ふくろうとかぼすは店へと駆け出していく。


その場をまだ動けないひつじが見たかぼすの笑顔はこれまでの1年半で見たどの笑顔よりも、自然で美しかった。










ーーーーーーーーーーーー


「いいか、最後だからって気負う必要はない。いつも通りでいいんだ。」


ひつじが額に汗を浮かべながら、仲間たちに語りかける。灼熱の溶岩島の最果て、崖の下には悠然と徘徊するモンスターの姿があった。
黒くそびえる長大な二本の角は殺意を振り撒き、重厚な両足がふみ鳴らす地響きはその突進力が桁違いであることを思い知らせる。


鏖魔ディアブロス。


村を脅かす最後の敵であり恐怖の象徴。
そして、2年半前にひつじに重傷を負わせた因縁の相手だ。今、その相手が眼下にいる。



「急にそんなこと言ってどうしたのよ!一番気負ってるのはひつじゃないの?逆にこっちが硬くなるわよ」

「な、なんだよゆきみん!最後の戦いなんだからこういう感じでいいでしょ!なんでそんな落ち着いてるんだよ!」

妙に落ち着いた雰囲気のゆきみんに茶化すように突っ込まれ、ひつじは少し照れたように言い返す。
決戦を前にした緊張感が、そのやりとりで少しいつもの雰囲気を取り戻した。



「まあ確かに私たちにとっては因縁の相手だけど、でもあの時とは違う。私たちには頼りになる仲間がいるんだから!」

ひつじはその言葉に顔をあげると、笛を担ぎなおしてニッと笑うふくろう、少し帽子で目線を隠しながらも優しく微笑むかぼすの姿が目に入る。




「それに…『何度だって私を守ってくれる』んでしょう?信じてるよ、ひつ!」

「ゆきみん…ああ、ああ!この命に代えても君を守ってみせる!!」



ひつじは立ち上がってゆきみんの手を取り、強く握った。その眼差しにはもはや焦りや迷いはなく、力強い決意が宿っていた。



「はいはいいちゃつくのはそこまでにしてそろそろ準備しますヨー」

ふくろうの言葉に二人は顔を真っ赤にして慌てて手を引っ込めてうつむく。


ベースキャンプにかぼすの奏でる自己強化の旋律が響いた。

「さあ、楽しい音楽の時間です!!」





鏖魔との戦いは静かに幕を開けた。

最狂の悪魔は訪れたハンターを見ても煩わしいハエを追い払うかのように尻尾を振り回すばかり。

四重奏団はそれをみて、旋律により強化された移動速度と攻撃力で的確にヒットアンドアウェイを繰り返した。
殴りつける笛からはまるで岩を殴っているような硬い振動が伝わるが、それも折り込み済みとばかりに冷静に戦いを展開する。

なかなかその自慢の尻尾がハンターを捉えないことに業を煮やしたのか、鏖魔が突如その足元を掘り返し始めたその時、ゆきみんが叫んだ。



「かぼす、今よ!!」



その瞬間、かぼすの笛からディアブロスが最も嫌う高周波が大音量で響き渡った。
鏖魔は強制的に潜行を中断させられ、その場で苦しそうにもがく。



「やった!このデカブツにも効きやがりましたよ!」



ふくろうがここぞとばかりに鏖魔の背中に襲いかかる。それを皮切りに全員が猛然と襲いかかった。普段届かない部位は外皮の硬度もやや劣るのか、四重奏団はこれまでと違う確かな手応えを感じながら、この機を逃すまいと全力の攻勢に出る。




しかしそのことがわずかな油断に繋がってしまったのかもしれない。




脳に直接送り込まれた音響攻撃の混乱から立ち直った鏖魔はハンターの包囲から逃れるように空中に飛び上がり体勢を立て直す。その着地の風圧が、今まさに旋律を整えようとしていたふくろうを大きく仰け反らせた。ふくろうの演奏は強制的にキャンセルさせられ、不発に終わる。

地面に降り立った鏖魔はこれまで味わったことのないダメージに怒り狂うように全身に真っ赤な血液をたぎらせると、溶岩島中のマグマが吹き上がるような強烈な咆哮を放った。



鏖魔と対峙するにあたりその咆哮対策が必須であることは数々のハンターの犠牲の上に獲得された最も重要な知識であり、聴覚保護効果を有する装備を入手できない現状において鏖魔打破が絶対不可能と考えられた最大の理由であった。
当然四重奏団はこれを聴覚保護旋律によって乗り越えるという対策を用意していた…はずだった。





ゴァアアアアアアアアアア!!!!!





耳をつんざく大絶叫が意識を刈り取らんばかりの衝撃をもって四重奏団を襲う。
対策が万全と信じきっていた彼らはその旋律効果を得られていないことに気づくのと同時に、立っていることすらままならず耳を抑えてその場にうずくまる。
一瞬の旋律の切れ目。不運が重なって生まれたそのわずかな隙を死神に見咎められ、四重奏団の戦略が根本から破綻する。




途切れかかる意識を必死につなぎとめ、なんとか立ち上がろうと顔を上げたかぼすが見たものは、土煙を上げて迫り来る隕石のような巨体の突進だった。



避け、られない…っ…




不思議と痛みは感じなかった。

空中を舞う自分の姿が、別の視点から見ているかのようによくわかる。
周囲がスローモーションになったように見えるのは思考だけが高速回転しているからだろうか。
やがてその身体は強く地に打ちつけられた。




だめ、だった…
やっぱり私の旋律は…破滅の序曲だったのかな…



これまで共に戦って散っていった仲間たちの顔が浮かんでは消える。



「でも、それでも…四重奏団のみんなだけは…失いたくない…っ…お願い…逃げて……生きて……!」



地面に横たわるかぼすの頬を涙が伝う。溶岩島を囲むマグマが岩を砕く音も、鏖魔の叫びも、もはや何も聞こえない。


視界は徐々に色を失い、意識が深い闇へと落ちていった…










シャラン…


シャラン…








全てが消え去ったはずの暗闇の中に、音が響いた。




(なんだろう…音…?)


その音と音がつながり、次第に旋律の形を紡いでいく。


(笛の音色…)


その音色がより強くはっきりと聞こえてくるのに合わせて、自らの身体の中で命が鼓動を刻んでいく。




(誰かが…まだ笛を吹いてる…)





「かぼす起きろおおおおおオオオオオ!!」




そしておぼろげな意識の中に飛び込んできたのは仲間の叫び声だった。
目を開け、かろうじて前を見ると、そこには必死の形相で奮戦するふくろうの姿があった。
怒り狂う鏖魔の攻撃を避けることもせず、その笛で受け止めては横っ面に反撃を叩き込む。自分だけに敵の意識を向けようと、血まみれになりながら、倒れた仲間の名を呼びながら殴り続けていた。




「かぼす…お願い届いて…っ!!」



そして涙声で叫びながら笛を奏で続けるゆきみんの姿が目に入る。
彼女の奏でる音が体力回復旋律を結ぶたびに、少しずつ体に力が戻ってくる。


彼女も少なくない傷を負っていたが、それ以上にその前で彼女を守るように立つひつじはぼろぼろになっていた。


まさに四重奏団が命がけで繋いだ旋律が、かぼすを死の淵から引き上げようとしていた。





地に転がった笛を強く握りしめる。




「みんな…みんな…!」




涙を拭い去り、地についた笛に力を込めて立ち上がる。




「四重奏団…!もう一度歌いましょう!!!」






その声に、立ち上がった姿に、ゆきみんは堪えた涙が溢れかける。

ひつじは鏖魔を見据えたまま、にやりと笑みを浮かべた。




「お、遅いですよおおお!別に心配してないですけどおおおお!!!!」


そして瞳に再び闘志をみなぎらせたふくろうが、かぼすの声に呼応するように渾身の音撃震を放つ。
ありったけの力を込めた音圧に襲われ、さしもの鏖魔も強くのけぞり行動停止を余儀なくされた。


四重奏団はそれを見るや、一糸乱れぬリズムで全員が旋律を紡いでゆく。
ここが戦場であることが嘘のような美しいハーモニーが響くと、全員の身体にエネルギーが宿った。


4人の連携した攻撃が次々に鏖魔の身体へと吸い込まれていく。
競いあうように高めあうように音を奏でながら、一つの音楽となった攻撃が鏖魔の身体を削り取っていく。




「これで!終わりだあああ!!!!」






そしてついに、かぼすの一撃が鏖魔の顔面を捉えたその瞬間、四重奏団の交響曲がフィナーレを迎えた。


その巨体が地に崩れ落ち、宙に舞った巨大なツノが墓標のように地に突き刺さるのと同時に、鏖魔は完全に沈黙した。





「やった…の…?」


かぼすは肩で息をしながら信じられないというようにその場に立ち尽くす。
自らの手にいまだ残る衝撃の余韻が、この死闘を生き残ることができたのだと実感させる。そして、自分を生き残らせてくれた者たちの存在に思い至り振り返ると、まさにゆきみんとふくろうが飛び込んでこようというところだった。

勢いを受け止めきれず、その場に三人で倒れこむ。



「ほんとに心配したんだから!ばか…ばか…!!」

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら胸を叩いてくるゆきみん。



「いつまでも寝っ転がってて起きて来なきゃこっちから叩き起こしにいくとこでしたよ!!」


泣き笑いのような顔をして両手で髪をかき混ぜてくるふくろう。



かぼすは二人の直接的な感情表現を受けて、組み敷かれたままごめんね、ごめんねと何度も呟いた。




そして遅れて歩み寄ってきたひつじが、頭上にどっかりと腰を下ろす。
上下逆さまに移る彼の顔を見つめていると、ひつじはなんと声をかけたものかしばらく迷うように頭をかき、



「まあなんというか、おつかれさん。今までよく頑張ったな。」


と、ごく短い言葉をかける。




その言葉にこれまでの人生全てが報われたような気がして、急に胸が熱くなる。






「みんな…ありがとう…」



かぼすは溢れ出す涙を抑えることができず腕で顔を抑えてただただ泣きじゃくるのだった。







主人を失った溶岩島にも、変わらず月の光は降り注ぐ。

絶望に包まれていた村でめぐりあった4人が音楽のみを武器にして戦い、成し遂げた奇跡の物語。




四重奏団の記憶はいつまでも、村人たちによって語り継がれることになるのであった…