帰宅した夫は
まだ呆然としたままだった
「おかえり…
パパどうしたの?」
出迎えてくれた息子たちも
夫の様子に気付いた
「どうしたの?
店長さんのところで何かあったの?」
義母も心配して声を掛けるけど
夫の耳には入っていなかった
「ごめん…
ちょっともう休むね…」
そう言って夫は寝室へ行き
服を脱ぎ棄て横になると
頭から布団をかぶって
声を殺して泣いた
…なんてひどいことを言ったんだ
夫は自分の言動を後悔していた
なぜあんな言葉が出たのか分からない
でも自分で気付いていなかっただけで
あれが俺の本心だったんだ
そうでなければ
あんなひどい言葉が出てくるはずない
やはりまだ会うべきじゃなかった
これ以上妻が傷つくのを
見たくなかったはずなのに
俺のむき出しの感情が
これ以上ないほど
妻の心を痛めつけたんだ…
「本当にごめんなさい…
今までありがとうございました…」
最後の妻の言葉が
何度も頭の中で繰り返される
声を押し殺して泣き続けた
ようやく落ち着いた夫
リビングに行くと
義母が心配そうな顔で待っていた
「私さんと会ってたの?」
「…うん
会ってたっていうか
店長のところで偶然会ったんだ。
あいつも店長にお礼を言いに来てて
店の出口でバッタリ」
「すごい偶然ね…
それで2人で話をしたのね」
「うん…」
そのまま沈黙が続いた
義母が立ち上がってお茶を入れて
夫に差し出した
「ありがとう…」
義母は何も言わず
夫を見守っている
お茶を一口飲んで
夫が話し出した
「やっぱり無理だったよ…」
「そう…
無理だったのね」
「あいつが俺に謝りだして…
最初は俺も黙って聞いていた
だけどあいつが
あのクズに対して
本気になったことは無いって言って…
なぜこうなったのか
自分自身でも分からないって言って…
なんか…
その言葉を聞いた瞬間に
自分の中で何かが切れる感じがして
気付いたら
とんでもない言葉で罵倒してた…
後悔して反省しているあいつを
俺がさらに追い込んで傷つけたんだ…
自分でも信じられなかったけど
それが俺の本心なんだって気付いた
やっぱり
俺は許せそうにないよ…」
「うん…
分かったわ。
とりあえず今日は
お風呂に入って
ゆっくりお休みなさい。
これからのことは
またゆっくり考えましょう」
義母に促され夫がお風呂に行くと
息子たちが部屋から出てきた
「お婆ちゃん、どうだったの…?」
不安そうな息子たち
義母は次男の頭を撫でながら
「ちょっと今日は
お父さん大変だったみたいね。
でも大丈夫よ。
心配しないで今日はもうお休みなさい」
と優しく言った
湯船の中で夫は考えた
あれが俺の本心なら
やっぱり許すのは無理だな…
今まで心のどこかで
無意識に拒否していた「離婚」
もうそうするしかないな…
夫は現実を受け入れた
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遅過ぎた後悔 本気で好きだった 身体を許す時 歪んだ猜疑心