夫と私は
同時にお互いの存在を知って絶句
店長はそんな私たちを交互に見ながら
オロオロしていた
やがて夫から
「な… なんでいるの?」
「あ…
私は店長さんに
お礼を言おうと思って…」
そう自分で言った瞬間に
店長をまた巻き込んだことに気付いた
「突然来てしまってすみません!」
と店長に謝った
「いやいや
もう私さんとお会いできないと
思っていましたから…
わざわざ来てくれてい嬉しいです」
「私はとんでもないご迷惑をお掛けしたのに
本当にありがとうございました」
そう言って私は深くお辞儀をした
「顔を上げてください。
こちらこそ私さんに申し訳なくて…
だから、せめてもの罪滅ぼしですよ」
「ありがとうございます…」
私が店長さんにお礼を言っている間
夫はずっと横にいてくれた
そして最後に夫も
「本当にありがとうございました。
店長さんのおかげです」
と言い深くお辞儀をした
「私のことはいいですから…
では私は仕事に戻りますので」
そう言って店内に帰っていった
私と夫もお店を離れた
駐車場を見渡して夫が気付いた
「あれ?君の車は?」
「あ…
実は今日散歩してて
色々考えてたらふいに
店長さんにお礼言ってないって気付いて
そのままお店に来ちゃったの…」
「え?
じゃぁ電車で来て
ここまで歩いて?」
「うん…
ごめんなさい。
会いたくないって言われてるのに…」
「いや、いいよ。
偶然だから仕方ないし…」
久しぶりの夫との会話
でも心の準備が全くなかったので
何を話したらいいか分からない…
でもそれは夫も同じ
会うことすら躊躇して悩んでいたのに
いきなり会ってしまったのだから
しばらく沈黙が続いた後
夫が車に向かって歩き出し
「送っていくよ」
と言ってくれた
「え… いいの…?」
「いいよ。車の中で少し話そう」
そう言いながら車のカギを開けて
「乗って」
私は言われるがまま助手席に乗った
どうしよう…
緊張する…
それは夫も同じだったみたいで
駐車場を出てから
夫はまったく口を開こうとしなかった
やがて車は街中を出て
夫は大きな公園の駐車場に車を止めた
車が止まるまで
2人とも口を開かなかった
夫がシートベルトを外したところで
私が口を開いた
「あの…
本当にごめんなさい…
謝って済むことじゃないのは
分かってます
でも…
あなたに謝りたくて…」
夫は前を向いたまま
何も答えなかった
「あなたを…
う、裏切って…」
限界だった
涙がとめどなくあふれてきて
言葉を発することもできなくなった
夫は何も言わず
ただ前を見ていた
「ごめんなさい… ごめんなさい…」
抑えようとしても止まらない涙
絞り出すように
謝罪の言葉を繰り返した
夫は何も言わず
私の方を見ようともしなかった
車内には私の泣き声と
その合間に絞り出す謝罪の言葉だけ
いつの間にか
辺りは真っ暗になっていた
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遅過ぎた後悔 本気で好きだった 身体を許す時 歪んだ猜疑心