「…それで、あなたはどうしたいの?」
「うん…
正直言って迷ってる。
事情は分かったし、
あいつがクズに騙されたってのも…」
「でも、許せないんでしょ?
浮気されたのは事実だから」
「…母さんはどう思うの?」
「そうねぇ…
私も複雑なのよね…
ちょっと昔話してあげるわね。
あなたが私さんとお付き合いを始めて
半年ぐらいたった頃かしらね…
あなたが初めて私さんを
家に連れてきた日のこと…」
その日
私は初めて夫の家にお邪魔していた
お義父さんがとにかく上機嫌で
「せっかく私さんが来てくれたんだから
今夜はごちそうしよう!」
なんて急に言い出したものだから
お義母さんと私で近所のスーパーに
買い出しに行くことになった
お義母さんは
私の好みを聞いてくれたけど
私は「夫さんの好物が良いです」
と言って
結局すき焼きをすることになった
買い物を終えて帰るとき
お義母さんが
「息子が初めて彼女を家に連れてきたのよ。
本当に嬉しいわ~
ダメな息子かもしれないけど
よろしくお願いしますね(笑)」
と言っていただいた
私はとても嬉しくなって
「私は夫さんに救われたんです」
と言って夫と付き合う時の話をした
「まぁ…
あの子ったらカッコつけて(笑)」
「私は夫さんに救われました。
だから私は
全力で夫さんの想いに応えます」
「そう…
だからあの子の好物をってことね。
あ~ なんだかとっても嬉しいわ。
これからも遊びに来てね?
あの子をよろしくお願いします」
「はい!
こちらこそよろしくお願いします」
私は
この時のことを忘れたことは無い…
「2人でそんな話してたんだ」
「そうなの。
もう私さんが可愛くってね。
娘がいるってこんな感じ?
って考えたら
早く結婚して欲しいって思ったわ」
「それでか~
よく母さんが結婚はまだ?って
めちゃくちゃ俺に言ってきてたけど
そういうことだったんだ」
「そう。私はあの子が大好きなの。
…でもね?
私が一番大切なのは… あなた。
これからどんな決断をするかは
あなた次第なんだけど、
あなたが苦しむ姿は見たくないの」
「母さん…」
「私さんや息子たちのことを考えて
どうすべきか迷ってるんでしょう?
でもね…
私さんを許すっていうことは
あなたがこの先ずっと
苦しむ気がしてならないのよ…
何かあるたびに
私さんの過ちを思い出して
それを許さなきゃいけないって
自分の感情を押し殺して…
そんなの、あなた耐えられるの?」
「…うん
正直、それがあるから迷ってる」
「それにね…
あなたが私さんを許すって言ったら
私さんも苦しいと思うんだよね…」
「…うん そんな気がするよ」
「どんな罰でも受け入れる覚悟でいるのに
許されちゃったら…
嬉しいよりも申し訳ない
って思うんじゃないかな…
だから
許すとしたらお互い大変だと思うの」
「そうだよね…
やっぱりお母さんは許さない方が良い?」
「だから複雑だって言ってるじゃない…
だけど、決めるのはあなた。
親の意見に左右されちゃ嫌だから
私は自分の意見は言わないわ。
あ、お父さんも私と同じ意見だから。
確かに私さんのことは私達大好きだけど
それとこれとは別よ。
あなたが決めなさい」
「うん、分かったよ」
「これだけは覚えておいてね。
あなたがどんな決断をしても、
私たちはそれを応援するわ。
よく考えて決めなさい」
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遅過ぎた後悔 本気で好きだった 身体を許す時 歪んだ猜疑心