「それともう一つ、あるけど…」

 


「もう一つって、どんな?」

 


「このまま私さんとは一切会わない、
 という選択もあるかなって」

 


「…」

 


「後悔して反省しているのに
 謝ることすらできない、

 っていうのは

 相当な罰だと思うけどね」

 


「いや…

 もうそこまで憎んでないし…

 これ以上の罰を与えるなんて…」

 

 

ここで友人が笑い出した

 


「なんだよ…

 何が可笑しいんだよ」

 


「いやだって

 もうお前の結論出てるじゃん」

 


「え?どういうことだ?」

 

 

「もう私さんに

 苦しんで欲しくないんだろ?

 それが答えじゃないの?

 って思うんだけど」

 

 

「あ…」

 

 

「だから

 とりあえず会ってみたら?」

 

 

「お前…

 さっきのもう一つの選択肢の話
 わざと言ったな?」

 


「さて、どうでしょう(笑)」

 


「ホンと

 弁護士って嫌な人種だよ(笑)」

 


「お、最高の誉め言葉

 ありがとうございます」

 


「お前が友人で助かったよ」

 


「とりあえず一つ貸しな。
 俺に何かあったら助けろよ」

 

 

「知るか。
 自分で何とかできるだろお前(笑)」

 


「ま、とりあえず今日は
 お前の奢りってことで手を打つよ」

 


「安い報酬だな(笑)」

 

 


夫は友人に感謝した

 

自分の本心を気付かせてくれた

 


とりあえず会ってみよう

夫は決心した

 

 

 

夫が家に帰ると
遅い時間なのに息子たちも待っていた

 


「なんだ、また起きてたのか。
 あ、母さんありがとう」

 


「全然大丈夫だよ。
 それで、結局どうだったの?」

 


夫は義母と息子たちに和解結果を伝えた

 


「すごいじゃない。
 全部こっちの言い分通りなのね。
 これで店長さんも報われるわね」

 

 

「うん。そうなんだよ。
 近い内に店長さんに結果を伝えるよ」

 


「そうね。早い方が良いわ」

 

 


「ただ…

 あいつが復職しないってのは
 残念に思うかもしれないけどね」

 

 


夫はしまった、と思った

 

 

私のことを話したとたん
義母と息子たちの表情が変わったから

 

 


「ねぇ…

 私さんのこと、どうするつもり?」

 


義母が夫に問いかけた

 

 

「僕たちも知りたい。
 お母さんのこと、どうするの…?」
 

 

息子たちも問いかける

 


「まだ決められないんだ…
 でも、とりあえず会ってみようと思う。
 お前たちはどう思ってるんだ?」

 


「最初は
 もう顔も見たくないって思ったけど…
 お婆ちゃんに
 お母さんは騙されたんだよって聞いて…
 なんか…

 今はよく分からないよ」

 

 

「母さん…」

 


「ごめんなさい。勝手に教えちゃって。
 でもね…

 このままお別れってのも…」
 

 

「うん、それは俺も思ってるよ。
 とりあえず2人で会ってみる。
 お母さんとお前たちの気持ちは分かったよ」

 

 


義母も息子たちも

 

安心したように顔を見合わせた

 

 


息子たちが寝てから
義母と夫は大人の話を始めた

 

 

「妻は自分が受け取る先方からの慰謝料、
 全部俺に渡してくれって
 弁護士さんに依頼してた」

 


「えぇ?

 それは、慰謝料として?」

 


「いや、それとは別だって。
 慰謝料は別に請求されたらそれに従うって」

 


「まぁ…」
 

 

「その他も全てこちらの要求に応じる、と。

 

 妻のたった一つのお願いは…

 

 俺たちに謝罪させて欲しいってことだけ」

 

 

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