夫に弁護士から和解成立の連絡が入った
弁護士事務所に行くと
私のサイン済みの和解書を見せられた
「ありがとうございました。
妻もこれで納得したんですね…」
和解書を見ながら夫が無口になった
「どうされましたか?」
「いや…
こちらの言い分通りですけど
これが精いっぱいの反撃なんですよね…
これで奴らを許せるかっていうと…」
「お気持ちは分かります。
ただ、以前にもお話ししましたように
色んな法令違反はありますけど
これで実刑、というのはかなり…」
「そうでしたよね…
これで納得するしかないんですよね…」
夫は大きくため息をついてから
和解書を見て弁護士に尋ねた
「妻はどちらを選んだんでしょうか?」
「復職はされないそうです。
自分が過ちを犯したのは事実だから、と。
それと私さんから和解結果について
依頼を受けました。
私さんが受け取る慰謝料は
すべて夫さんに渡して欲しい
とのことです」
「え…
それは…
私への慰謝料として?」
「いえ、それとは関係ないそうです。
自分には受け取ることができない、
だからすべて夫に、とのことです。
ですから、
今後夫さんから離婚はもちろん
慰謝料請求も親権も
すべて夫の意向に従う、
と仰ってました」
「…」
「それと、先送りしていた件です」
「…謝罪のことでしょうか?」
「はい。
私さんの言葉のままお伝えします。
許してもらおうなんて考えてない
あなたや息子たちに謝らせてください」
「…もう少し
考えさせてください」
「分かりました。
私さんから聞かれたらそうお答えします」
「よろしくお願いします…」
どうするのがいいんだろう…
悩みながら夫が事務所を出たら
偶然、夫の友人が事務所に帰ってきた
「おぉ来てたんだ。
どうなった?
同じ事務所でも守秘義務あるから
どうなってるか知らなくて」
「ちょうどよかった。
悪いけどまた相談していいかな…」
友人の仕事終わりを待って
再び夫は友人に相談した
「いいのか?子供ほっといて」
「母親が来てくれてるんだ。
だから遅くなっても大丈夫だよ」
「そうか、ならよかった。
相談って私さんのことだよな?」
「そうなんだ…」
夫は和解結果と慰謝料の件
そして私の言葉を伝えた
「どう思う?」
「どうって…
お前も分かってるんだろ?
完全に私さんは後悔している。
でも裏切ったのは事実だから
許してもらえるなんて思ってない。
だから謝罪だけさせてください。
…お前だって
分からないはずないだろ?」
「そうだよ…
その通りだよ」
「この前も言ったけど
許す許さないはお前の問題だから
俺は何も言えないって…」
「そう…
なんだけど…
俺、自信が無いんだよ
彼女の浮気を無かったことにして
もう一度愛するなんて
自信が無いんだよ…」
「…まぁ 気持ちは分かるよ」
「さっき、妻の意思と言葉を聞いて
かなり心が揺らいだんだよ…
正直、もう憎いって感情は無い…
だけど
許せないって気持ちだけ残ってる。
確かにお前が言ってくれたように
妻は騙されただけかもしれない…
だけど…
だけど…
俺を裏切ったのは事実なんだよ。
それがどうしても許せないんだ…」
「そうだな…
だからこそ私さんは
許して欲しいなんて思ってないって
言ったんじゃないかな…」
しばらくの沈黙の後
友人が口を開いた
「なぁ…
とりあえず会ってみたらどうだ?」
「こんな気持ちのままで、か…?」
「ありのまま
今の気持ちをぶつけてみたらどうだ?
このままじゃ結論なんて出ないだろ」
「そうだな…」
「たぶん
2人のことは2人でしか結論は出ないよ」
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遅過ぎた後悔 本気で好きだった 身体を許す時 歪んだ猜疑心