【ネタバレ注意】
凛として時雨、Five For You
2018年3月11日、Zepp Divercity公演のレポです。
音やライブのことメインで、曲順も曖昧です。
ネタバレOKな人だけ、読んでください!
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アルバムでも最初に置かれているこの曲はミドルテンポでありながら残暑の夜のような粘り気のある熱を帯びていて、時雨特有の「間」が多く、現実世界から異世界へだんだん引きずり込まれてしまうような緊張感が味わえる。
時雨のミックスでは「引き算が苦手」だというTKの言葉通り、CD音源の時点で、普通ではカットされてしまうノイズの様な部分でさえ残されており、それゆえ生々しすぎるほどの楽器の音が楽しめる。
しかし生で聴くその斬れ味は音源とは比べ物にならず、銘刀のように鋭く、鈍器のように重い。ギターに限らず345のベースも、何よりピエールの叩くドラムの音の迫力が凄まじい。大国の軍隊が攻め込んで来ているかのようだった。
時折こちらを見下ろすTKの面差しは普段の人柄からは想像もつかないほど冷たかったが、
"優越感で上書きして"と気持ち良さそうに歌うその声は、目の前の人間を自分自身も含めて嗤っているかのようだった。
「わかりやすい」構造をしているこの曲のラスサビが来ると、ああもうライブが始まって1曲目が終わろうとしているなんて…と、完全に気持ちはまだ取り残されたまま。
1曲目が終わって間もなく、TKの手が空気を高速で切り裂いて棘のような音を突き刺してきた。
High Energy Vacuumがまさか2曲目に…と驚くこちらの心を置き去りにするかのように、3人の洗練されたアンサンブルが暴力的なスピードで駆け抜けて行く。サディスティックなライブだと思った。
誰もが、支配者!と言い放つ歌声。機械のような345の冷静な歌声が楽曲のシニカルな部分をより鮮やかに色濃くしてくれた。
アルバムを通して残酷な現実が皮肉めいた歌詞で現れる場面が多いように感じるが、それを目の前で歌われると心を直接揺さぶられているような感覚に陥る。
この曲はサビでドラムが妙に明るいビートに切り替わる時、TK from 凛として時雨のinvalid phraseのサビを初めて聴いた時のような変な感情に襲われる。生で聴くとより一層、だった。
TKじゃなかったら、時雨じゃなかったら、ここでこのドラムパターンは選ばないだろう。
同じ人が作ってるんだなと、改めて実感した。
3曲目は、ライブ定番曲のI was music。
サビの直前、激しく"いいよ おかしくなって"と音程も捨てて歌うTKは、いつもこの曲から「おかしくなって」しまっていると思う。
思わず、"狂ってしまったのは君なんだよ"と伝えたくなるほど。
TKは"君を撃ち抜こうか"と中指を立てる。この瞬間は一瞬、TKの歌声だけになることもあって狂気がより際立つ。
指を立てたその相手と目線は、会場ではないどこか違う世界に在るように感じた。
そしてサビで3人の音と感情が爆発する時、全身に走る痺れのような衝撃は、これまでのライブでも何度か味わってはずなのに、ゾクゾクする。
余韻に浸る間も無く、DISCO FLIGHTの例のベースフレーズを345が至って冷静に弾き始めた。
ベースの和音引きはバンドサウンドに豊かさをもたらしてくれるが、ここまで重厚で冷酷なフレーズを私は他に知らない。
このフレーズを聴くと、感情の無い殺人鬼にじっと見つめられている…というような錯覚に襲われて、危険な香りに心を奪われる。
冒頭のギターソロのところでピエールが今日もスティックを振り回して客を煽っていた。
曲名の通り、本来ならひたすら楽しくなるだけの「ディスコ調」の機械的なドラムパターンだが、一発一発に尋常じゃない熱が込められているせいで、ドラムの音からは狂気すら滲んでいた。
TKのテンションも徐々に加熱していき、「FLIGHーT!!」と、みよこの"FLIGHT"(2Bの4回目)にかぶさるシャウトを放った。
首を逸らして真上に咆哮する姿は、獣のようだ。
その威力は、照明に染まる白い喉に走る筋が切れてしまうのではないかと、心配になるほど。
ハイハットオープンの4カウント。このタイミングでTelecastic fake show?と不思議に思ったが、切ないコードに乗せて345が歌い出した。
水中のような照明がステージを彩る。
5曲目の正体は、Tornado Mynorityだった。
音源で初めて聴いたとき、地声とファルセットを自由自在に行き来する繊細なTKの歌声と、芯の通った屈強な345の歌声の対比に惚れ惚れした記憶がある。こんな贅沢な曲を聴いていいのか?と不安になるほどだった。
言葉が、歌が、どんどん情熱的になっていく。
『#5』アルバム全曲を聴いた時の感想はそれだった。
目の前でまさに歌われていく刹那は悲劇的で、夢幻のような、儚い色をしていた。
それなのに、その歌や音は刃のように鋭くて、こちらから手を伸ばす前に突き刺さってくるので、とても受け止めきれない。
"変化の螺旋に吸い込まれて"
"何も要らない 見せたくない" という歌詞が、「伝えられない」苦しみを吐き出しているように聞こえて胸が痛んだ。
曲が終わり、ドリンクを飲んだり、しばらく間が空いた後、TKがゆっくりめの拍を取り始めた。
そして、4回、ギターを空振りした。
始まったのはten to tenだった。
"息をしてない"という絶望的な言葉から、不安を煽るようなギターとベースの重い音が、心拍のようなリズムを刻んでいくこの曲は、生で聴くにはあまりにも苦しくて息が漏れた。
"まだ 侵されてる"とTKが血を吐くように叫ぶと、345が透き通った声で曲名を歌う。
その声に、あとからTKの歌が重なるのだが、その音域は345の上をいく。常人離れしたその歌唱力が秘めているものはまだまだ多そうだと感じた。
この曲から、345の歌声が本調子でないことは伝わっていた。先ほど書いたハーモニーの部分で、僅かに345の歌声のピッチが低く、本来の音程に届いていないのを感じたのだ。
それをカバーするように、TKは歌声をセーブしているようだった。けれどピッチは合わせず、真っ直ぐな音程を貫いていた。
その日のステージでは345の歌声以外の音程は「正常」だったため、そちらに合わせることで楽曲の世界観を保とうとしていたのかもしれない。
ten to tenの破壊力に圧倒されたあと、フロントマン二人が掃け、ピエールタイムが始まった。
「以前MC無しでライブをしたらカッコ良かったから、今回のツアーもMCなしで行きたい。でもドラムソロで『どんぐりころころ』を叩きたい」という旨の相談をピエールがTKにしたところ、TKは「じゃあMCあった方がいいかも」と返答したという。
別に楽曲自体は否定しないTKの懐の深さとバンドの心の広さに感動し、「この人に絶対一生付いて行こうと思った」と観客と共に盛大な拍手を送るピエール。
MCのあと、『どんぐりころころ』に合わせてドラムを叩きだす。
…転がしすぎだ。そんな速さで転がされたら、もうどんぐりは粉々に砕け散っていることだろう。
その後もピエールは、観客から飛んでくる歓声に応えるようにキレキレのドラムソロを叩きまくった。そして叩き切ると、観客から惜しみない拍手が贈られた。
二人が戻ると、後半1曲目に演奏されたのはDIE meets HARD。
さっきまでどんぐりが転がっていたと思いきや、下北沢。この曲を聴くと京王線と小田急線が入り組んだあの駅を思い出す。
MVも含め時雨の持つユーモアの部分を引き出しすぎてしまったような気さえするこの楽曲は、たしかにピエールタイムから繋げるには適役かもしれない。
人間の汚い部分を出し惜しみせず歌い上げるTKはある意味男らしいと思う。
ただ、ちょっと行き過ぎた部分に対しては"絶対普通じゃない"と345から冷静にツッコミが入るのもこの曲の好きな部分だ。
僅か1秒のドラムのイントロから、"今 半透明"と345が歌い出した時は何が起こったかと頭が混乱した。
illusion is mine。まさか聴けるなんて、微塵も思っていなかった。
生では初めて聴く曲なのに、水中のような照明に何故か憶えがある。この、切ない浮遊感にも。
そうだ、さっき演奏されたTornado Mynorityの温度感ととても似ているのだ。
演出も含めてそう感じるのかもしれないけれど、ああ、何年経っても時雨は時雨の音楽を鳴らし続けているんだ。そう感じた。
"鮮やかな色は 君が見せた幻"と、TKは私達に向かって歌う。
見せた?幻のような鮮やかな色を今まさに見ているのは、私達の方だ。
君とは誰なのか?
こちらからの問いなど届くはずもなく、TKはただ、最後のサビでその日一番苦しそうに、つらそうに、何度も何度も「幻想は僕のものだ」と歌で叫んでいた。
その叫びは、どうしてそんなに、苦しそうなのか?
彼の書くミステリアスで幻想的な歌詞の真意は彼自身も解らないようだけれど、私にも到底解らないし、解りたくないと思った。
そんなことを考えたのが何故かなんてもう思い出せないけれど、この日のライブに戻ればきっと、同じ事を考えるだろう。
苦しそうな歌声で胸を引き裂かれた後に、EneMeが来た。
どれほど聴き手の心をぐちゃぐちゃにするつもりなんだろう。と恐ろしくなる曲順だ。
歌が345だけになるところでどうしても心配になった。ピッチは相変わらず低いままで、それでも負けじと声を張り上げて歌う様は勇ましかった。
静と動、不安と狂気を行き来した後、悟ったように"kill me kill me"と優しく歌う二人。
次の瞬間には、最後の力を振り絞るようなTKの叫びが鼓膜に突き刺さった。
胸が震えて、涙が溢れた。まるで彼に感情を支配されたかのような感覚だった。
TKは、息の根を止めて…しまえよ!!!!と最後、叫んだ後には曲の最後までギターを一心に搔き鳴らしていた。
自傷行為のようだった。
盛大な余韻の中、3人は突如生まれ変わったように、生命感と疾走感に満ちたabnormalizeを披露した。
その後、TKのウィスパーと共に、ふわっと浮かぶ感覚。
Who's WhoFOの持つ浮遊感は、独特なものだった。
水の中ではなく、空中のそれ。
風すら感じるほど爽やかな音像も光の滲む歌詞も、新鮮で、高音を歌い上げるTKの声が脳内に宇宙を拡げていく。
それは、危ない快楽だと思う。浸り込んでしまったらもう外には出られないような、そんな部類の快楽。
345と同じフレーズを歌うTKの声が、優しいように感じた。
生で聴いても、他の曲と比べて明らかに異色を放っている楽曲だと感じた。
Telecastic fake showのあとには、何やら青々しいアルペジオが始まった。
猫が幸せに鳴くから…と、偶然にも歌詞がさっきまでの危険な多幸感から繋がっているように思えたTK in the 夕景。
"突き刺してくれ"と叫ぶ声はビリビリしていて、その身体が張り裂けそうだった。
『#4』収録曲に特有の、不思議な冷たい空気で演奏されていく。でも、この空気の緊張は今までライブで聴いた他の曲でも感じた。
思わず今回のアルバムタイトルの意味を改めて、考えてしまった。
そろそろライブも終盤かと寂しく感じてきた頃、O.F.T. が来て思わず驚きの声が出た。
今回のセットリストには驚かされてばかりで、相手の思うツボのような気さえする。
この曲の345の歌パートにJ-Pop性を感じるのは私だけだろうか。
"僕に似ている"と歌う彼の声は、音源のそれよりどこか暖かい温度があって、これまでにバンドが過ごして来た歳月を感じた。
345が枯れ気味の声で物販の紹介をしてくれたあと、最後に演奏されたのは#5。
15年間、凛として時雨というバンドが音を鳴らし続けてきたからこそできた曲なのだと目の前で証明された。
観客にトドメを刺すように、切実に歌い上げられる歌詞が心を締め付けてくる。
ピエールのドラムソロが、時を止めた。
そしてまた彼の音が、静寂と緊張をぶち破って、再び時が動き出す。
何度でも生き返ると他の曲で歌っているが、時雨はきっと今までも、これからも、その音を自ら絶やすことは、無いのだろう。
そう思わせてくれることが、嬉しかった。
君を殺してしまいたい、と感情の昂りが具現化したようなシャウトが、彼がこの日最後に歌った言葉だった。
そのあとは今日その芯の強さを改めて魅せてくれた345が、歌の締めくくりを飾った。
今私には、働くことが許されていない。
最初はその事実がただ悲しかったけれど、今回のライブで、これからちゃんと闘病していこうと改めて思い直すことができた。
音楽には、助けられてばかりで、感謝してもしきれない。
その感謝の気持ちをこれからも、還元していきたいと思う。
最後まで読んでくださってありがとうございました!!
