彼女の両親と別れ、自宅に帰った後もひたすらに鼓動は激しいリズムを刻んでいた。
何もしていなくとも、勝手に息が切れる。
視線はどこにも定まらないし、体の震えも止まらなかった。
僕はやはり混乱している。僕の信じていた彼女は、一体何者だったのだろうか。それが分からなかった。
多重人格だと二人は言っていた。仮にそうだとしたら、僕が好きだった彼女の正体は? 僕が好きだった”彼女”は殺人鬼の彼女だったのか? それとも別の人格だったのか? 蛍子さんは、いろんな性格が毎日変わって出てきていたからどれが主人格なのか分からないと話していた。
彼女はこれからきっと精神鑑定を受けることになるだろう。そしてそれで異常が出て、治療して症状が治ったとしたら。もし主人格の彼女が僕の好きな"彼女”ではなく、別の彼女だったら。
彼女が殺人鬼であったとしても、僕はやはり彼女ことが好きだと思っていた。でも、今は分からない。
例え僕の好きな"彼女”が殺人鬼の人格だったとしても、僕は彼女を愛せるだろう。でも、僕の好きな"彼女”は空想の人格で、それが治療で消えて残ったのが別の彼女だったら? それが殺人鬼だとしたら? 僕が愛していた"彼女"とそれは同一人物であって別人だ。
……ダメだ。自分で考えても混乱してくる。なんとか頭を冷やそうと台所に向かって水を一杯飲んだ。
喉の渇きは癒えても、体温が下がった感覚はなかった。
ふと、机に置かれた携帯電話が目に留まる。
誰かに聞いてほしい。
その一心で僕は電話帳を探った。そして、震える手でコールのボタンを押す。
三コールの後、ガチャリという音がして空気の流れる気配がした。
「……もしもし? 外崎?」
「北原。聞いてほしいことがあるんだ……」
蛇口から滴る水滴の音だけが、西日の差し込む部屋に響いていた。