「絶対に君のことは忘れたりしない」・・・



そう思っていたのだけれど、

時々ひどく不安な気持ちになる。どんなに忘れないようにしていても、記憶は時間の経過と共に、

少しずつ風化していくし、記憶も次第に曖昧になっていく。




そして、“彼”ともう話すこともできないという事実が、

“彼”がボクとの約束を永遠に果たしてくれないということが、

ボクをたまらなく寂しくさせる。




2011年8月12日、

ボクは大学時代の友人Nと待ち合わせて、“彼”の墓参りに行った。



“彼”の仏壇に線香を供えたいと連絡すると、

ご両親は喜んで、最寄りの駅まで車で迎えに来てくれた。



最初に、墓に寄って、

それから仏壇のある実家に向かった。



遺影の写真の“彼”は、

真面目な彼の性格そのものに、ちょっと緊張したように窮屈そうにしていた。




“彼”の名前はA君という。

10年前、地元新潟から東京に出てきて、一人も知り合いがいない大学で、

A君がボクに声をかけてくれた。


教員免許を取るための講義で、

二人で頑張って教員になろうと話をした。



あれから、10年・・・

ボクはA君と約束した通り、教員になった。


それなりに歳もとった。

いよいよ30歳も目前である。



彼だけが歳もとらず、老いもせずに27歳のままだった。



友人のNは、

一生懸命に自分と“彼”の思い出話をご両親に話していた。


本当にNは優しい男だと思う。



ボクは、何もせずに、何も出来ずに、ただただNの話に耳を傾けていた。





「なぁ、A君。

君は自分で死を選んだんだから、それなりに辛かったんだと思う。

でも、君の苦しみはもう終わった。


それは、君の望んだことなのかもしれない。



けれど、君のご両親はずっと君のことで苦しんでいる。

それもこれも、君が理由も何も告げずに先に逝ってしまったからだ。



それがどんなに親不孝なことなのか、

ちょっと考えたら分かるだろう。


君は、ボクなんかよりずっとずっと頭が良かったんだからさ。




ボクとの約束を守りもせずに、自分勝手に逃げ出した君のためになんか、


ボクは絶対泣かないからな。」




悔しい気持ちがいっぱいで、

ボクはA君に腹を立てていたのに、それでも涙が後から後から流れて止まらなかった。





N君との帰り道、

ボクたちだけでも、

ずっとずっとA君のことを心において忘れないようにしよう・・・

A君の分まで精一杯生きよう・・・


そんな話をした。



まだまだ暑さが抜けない、そんな暑い日のことだ。



ボクは、絶対にあの暑い日のことを忘れたりしない。