地球に降り立った王子さまと、数名の亜種たち。

 早速、王子様はそれぞれに「アダム」「イブ」とか「ナミ」「ナギ」など、ひとしきり楽しみながら名前をお付けになりました。予備知識とは全く違い、亜種たちはとても穏やかで快活で、彼ら
と過ごす時間はまるで夢の様。王子様はご自分の人選が功を奏した、と一人悦に入っておりました。

 特に皆、王子様を中心とし、尊敬と愛を込めて話しかけてくるのがたまりません。完全に王子様中心の世界でした。
 恥ずかしながら、故郷では体験のないことでした。「王子」と言っても、平等化が進んだ世界では、「王子」という肩書きや「お金持ち」というだけではちやほやされることは無いのです。まして、そんな扱いを求めていることは、恥ずかしいことでした。

 しかしまぁ、感心されない動機ではありましたが、この惑星で王子さまはご自分の夢を一つ叶えたのでございます。

 ところで、この王子さま。この方も飼育者のサガを持ち合わせておりました。(と言いましても、『責任感のある飼育者』とは言い難いのですが・・・)『育てる』という楽しみの延長線上に繁殖・・・というか子孫繁栄を図りたくなるようです。

 そういうワケで王子さまによる万全のバックアップの元、
亜種は確実にその惑星で個体数を増やしていったのであります。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 ところである日、王子様は、例の薔薇の近くを通りかかりました。
 なんと! 花弁がだいぶ落ちているではありませんか。それに気持ちの悪い虫も取り付いておりました。

 「ひどいなぁ」

 虫が? 薔薇の姿が?

 王子様は迷わず速攻で、強力殺虫剤を振りまきました。ガーデニングの知識も関心もあまり無かったので、とりあえずパッと効果の出そうな宇宙連邦印のバグキラー!


 勿論、地球生物に対する事前テストなどしてません。「だって今すぐ殺虫したいのに、地球産の殺虫剤がないんだし」・・・王子様中心の世界で、王子様中心のご判断がされたのでありました。

 
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「人間をここで育ててみようかな♪」

 王子さまの安易な名案とは、地球に人間を住まわせること。そこで自分を中心として、毎日楽しく過ごすこと。

 そんなことしなくても、「他の人間のいる星へ行って友達作ればいいじゃないか」と、第三者なら誰もが思うことですが、『自分中心で』という交友関係は意外と作れない。社会が成熟していれば尚更無理。
 というか、成熟している人なら、そういう事は思わないのでしょうが、この王子さまは、まぁ、三十路を過ぎても、そう考えたのでした。

 ところで、 “人間を地球に連れてくる”と言っても、
惑星連合内で人権を持つ「人間」を強制的に移住させるわけにはいきません。しかるべき理由もナシでは犯罪です。
 そこで、王子さまの頭に浮かんだ人間とは、惑星連合に所属していない、というか人権さえ無い、宇宙人類から「亜種」と呼ばれている人々でした。

 『亜種』・・・野蛮で凶暴な性質があり、前頭前野が未発達で、時折、脈絡もなく破壊的な行動を起こしてしまう人種。また、何事にも非常に精度の高い理解力を持ちながら、強力な自己中心性の影響により、歪んだ社会を形成してしまう破滅的な人種。
 他の人類が「亜種」という言葉を発するとき、必ず嫌悪感を滲ませてしまうような人種。

 そんな亜種を王子さまは何故地球に連れて来ようと考えてしまったのでしょう。

 彼らは環境適応能力が非常に高いからでした。劣悪な環境でも順応が早く、増殖も速いのです。病気に対する耐性も高く、育て易いのでした。

 いえ、それが一番の理由ではありません。猛獣を手懐けられるほど、王子さまは器用ではありませんし。

 第一の理由は、彼らが「非常に美しい」からでした。
 他の人類とは比べ物にならないくらい美しいのです。肌の色も、瞳の色も、髪の色も多種多様。声も美しく、どんなに亜種が嫌いな者でさえ、その歌声だけは認めざるを得ない美しさを持っているのでした。
 また、その仕草も、俊敏な者、たおやかな者、力強い者・・・と多岐にわたり、意図的に作り出す『踊り』は、目を見張るものがあるのです。

 王子さまは、この美しい地球で、その美しい人々と過ごしたいと願われたのです。

 加えて亜種は、倫理観が揺らぎ易く、例え『王子さま基準』のルールを作ったとしても責められる可能性は低いのです。つまり、都合のいい人々でもあります。ちゃんと御することが出来ればですが・・・。


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 さっそく、王子さまは『亜種』の調達に着手しました。

 亜種の生息地は、宇宙の果ての辺境の中の辺境。しかも生物には最悪ともいえる環境に彼らは住んでいました。厳重な監視のもと、生息域を制限されていたからです。気の毒ではありますが、彼らの性質は他の人類の脅威でしたから。

 しかし、そういう環境においても尚、彼らは種を絶やす事がありませんでした。苦しみながらも、総個体数は増えもせず減りもせず・・・。皮肉な事に、一人ひとりが疲弊していることで大きな争いも起きずに安定していたのです。

 さて、王子さまは『ご視察』という特権を利用して、『亜種保護区』へ入り込みました。
 そこに住む亜種たちは、やつれてはいるものの、予想通りの魅力的な容姿の人々でありました。
 ご自分の欲求に躊躇の無い王子さまは、さっそく気に入った者を数名チョイスすると、「研究機関による長期観察の為」と偽って・・・いえ、具体的に説明はしませんでしたが、「研究機関=自分」と、王子さまのアタマの中では理由付けが出来ていたので、偽りでは無く、自信を持って本当の事を伝え、彼らをまんまと・・・いえ! 当然の事として、辺境から連れ出したのでした。


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 むかし、むかし、ある星に一人の男がおりました。

 年は三十前後、でっぷりと貫禄ある体型で、背丈はちょっぴり小柄。首の後ろには、ふくよかさの象徴、くびれが2本も入っておりました。
 その表情には、アバウトさと大らかさと人懐こい性格が、まんま出ている福々しさをたたえる、いつも笑顔の男でありました。

 その男の父親は、超星雲連合評議会の最高位にあり、宇宙の知的生命体を取り仕切る立場のお方でした。つまり、『宇宙の支配者』でございます。住まいとする星々では王であり、男はその第一王子。そのようなご関係上、男は父親から、ご自分の領地(というか領星、というか領星雲)が与えられておりました。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 ある日王子さまは、いつものように、ご自分のご領地を視察に回っておりました。すると、銀河系の中にひとつ、サファイアに輝く、非常に目に麗しい星を発見されたのです。

「なんと美しい・・・」

 一目ぼれには躊躇ナシの王子さまは、早速その地に降り立つと、素晴らしい大自然を堪能されました。海、山、植物、動物…どれも見事に美しい! 薫る風につつまれ暖かな陽射しにそよぐ花々・・・、生まれて初めて見る鮮やかな景色に王子様の瞳はウルウルの絶頂でした。

 ・・・しかし、王子さまは、ふと、寂しさを感じられたのです。


「会話したい・・・」


 大変残念なことに、王子様は語学のスキルが×でした。動植物とのコミュニケーションも×でした。一応、この方も『☆の王子さま』ですが、薔薇などという植物と会話してみようとも考えませんでした。というか「薔薇ってナニ?」な方。とにかく残念。


「なんか淋しい・・・。ふぅ・・・」


 深いため息が、惑星全体に響きわたりました。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 王子さまは何気なく、近くに咲いていた薔薇に目を向けました。

「美しい・・・。なんという美しさだ」

 薔薇もちょっぴり自慢気に風にそよいで見せました。

 けれど王子さまは、それ以上、美しさを観賞する術を知りません。クルリと振り返ると、コメカミに手を当てながらその場を去り始めました。何かを思案しているご様子で、薔薇が更に力いっぱい揺れているのにも気付きません。

「そうだ!」

 ふいに王子さまは叫びました。突然の事に薔薇は飛び上がりました。いえ、無理でした。が、代わりに花びらを数枚落としたのです。辺りには良い香りが漂いました。王子様が鼻炎じゃなかったら気付いてもらえたかも・・・なのに(凹)。

 ところで、王子様の名案は、ナント!

「人間をここで育ててみようかな♪ そしたら私も友達ができるな・・・」

という、割合安易な思い付きでした。

「地球を堪能したいなら、今いる在来種とコミュニケーションの努力をしろよ!」

と訴えたい薔薇でしたが、思いをよそに、王子さまは軽い足取りで目の前をスルー.。・・・されてしまったのでした。


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