なぜ この本を知らなかったのかと
後悔するほど 名作でした
桜田門外の変に始まる、幕末暗殺をテーマにした12の短編集
巨匠・司馬遼太郎氏の
愛情ある醒めた(冷めた、ではない)歴史観は とても素晴らしい
彼の歴史観、とりわけこの本における彼の言葉は
とても歴史の真理だと思います
筆者アトガキより
「歴史はときに、血を欲した。
このましくはないが、暗殺者もその兇手に斃れた死骸も、
ともにわれわれの歴史的遺産である」
桜田門外の変においては
この暗殺によって日本を変えようという純粋な沸点を
薩摩藩士、有村治左衛門を主軸に描いている
桜田門外の変は これによって歴史を躍進させて意味において
歴史的に特殊であることを
他の短編を並べることによって
際立たせている
あるものは功名心のために暗殺し
ある時は 脆弱な絵師を追い詰め殺し
暗殺も亜流に亜流を重ね、質も低下していった
桜田門では 純粋で崇高であったはずの攘夷という志が
いつしか
倒幕のための口実に変質してもなお 暗殺は続く
最後は 天誅組の三枝蓊
熱狂的な攘夷派の彼は
攘夷のためにイギリス人に斬りこみ
かつて攘夷の同志であった者たちの手で
斬首になる
「暗殺は否定すべきであるが、幕末史は、
かれら暗殺者群によって暗い華やかさをそえることは否定できないようである。」
暗殺の小説を書くことによって
(歴史書ではなく、あくまで小説だからこそ)
暗殺の虚無と実情
ひいては 幕末という沸点の一瞬の本質が
見えてくる
また 文庫の表紙が カッコイイ!
秋の夜長に ぜひ