南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。

 

今回は、激レア職業深海探査機パイロットのお仕事とは?というお話です。

 

今年はオリンピックの関係でイレギュラーな海の日波になっていますが、例年、東京海洋大学では「海の日記念行事」として一般公開イベントを実施しています。

 

当研究室では「水中探査ロボット教習所~目指せ!深海のパイロット!~」と題して、水中ロボットの体験操縦会を実施しています。

↑ 2019年に実施した海の日記念行事での様子

 

本学の学生から実際の海で活躍する水中ロボットの役割やロボットの操縦方法を学び、その後、実際に水中ロボットを使ってパイロット訓練を行うというプログラムです。

 

しかし、参加者の方からときどき「深海のパイロットって仕事がホントにあるの?」と言う質問を受けます。

 

「みなさんの後ろに立ってるおじさんが元パイロットで、マリアナ海溝と南極海で探査機を潜らせた人です」と、言ったところで写真映えしないので敢えて言わないようにしていますが、みなさんも実際に深海探査機のパイロットに会って仕事の話を聞く機会は恐ろしく少ないのではないでしょうか?

 

それもそのはず。

実は深海探査機のパイロットは、飛行機のパイロットやオリンピック選手よりもはるかに狭き門なのです。

さらに、マリアナ海溝に潜る探査機を動かせるのは日本には10人程度しかいません。

 

では、マリアナ海溝に潜る深海探査機は何が違うのか?

 

今回は大深度での水圧やケーブルの話は置いておいて、パイロットの仕事に密着したいと思います。

 

船で潜航予定の海域に着くまでパイロットは自身の探査機の整備をして過ごします。

マリアナ海溝までは横須賀から約5日半ほど掛かります。

↑ 大荒れの海に遭遇することも!(滅多にない)

 

調査海域に着くと探査機の潜航が始まります。概ね、朝の9時に潜航を開始して17時に終えるというスタイル。

 

で・す・が・・・

パイロットは整備も兼ねているので、実際は朝5時に起床し潜航前に機体のチェックを行い、潜航後も翌日の準備が終わるまで作業が続きます。

 

もちろん、トラブルがあると翌日までに対処しなければなりませんので、体力的にも精神的にも突然ハードモードアセアセになります。

↑ 潜航開始!無事に海底に到達するのを願うばかり。

 

トラブルなく無事に着水したのを見届けると、急いでパイロット席に着きます。筆者が担当した探査機は二人で操縦するタイプなので、一人が先にパイロット席で潜航対応を取り、もう一人が甲板で船員さんに潜航の指示を出します。

↑ 左が若かりし頃の筆者。

 

担当した探査機は「ランチャー・ビークル方式」と呼ばれる世界でも日本しか保有していない珍しい探査機で、海底付近で親機(ランチャー)から子機(ビークル)を切り離して子機だけで海底を探査すると言うものでした。

↑ 通常の深海探査機とランチャー・ビークル方式の違い

 

ランチャーはケーブルを潮流で流されないようにする「オモリ」の役割で、自分で動き回る機能はほとんどありません。

対して、「ビークル」は海底で動き回って調査を行う重要な役割を担っています。

(優しい先輩の計らいでビークルパイロットを担当)

 

海底までは片道約3時間。その間、探査機に異常が出ないか椅子に座って画面を注視します。

 

特に注意しなければいけないのは、船と探査機の相対位置やケーブルの張力などで、さまざまな数値を常に観察して異常があった際には即座に対応できるようにしています。

 

海底に到達すると調査開始です。調査できるのはたった1時間ほど!

後ろに座る研究者さんのオーダーを聞きながら探査機を動かして海底を調査します。

↑ 研究者さんは別のモニターで調査の様子を観察

 

あっという間に1時間が過ぎると、今度は探査機を回収するために浮上させます。この時、やっと肩の力を少し抜くことができ、もう一人のパイロットと交代しながら遅めの昼食やトイレを済ませます。

 

しかし、この間にもミッションは発動中で、海底から1000mごとに海水を採取しなくてはなりません。

ぼーっとしてると目的の深度を通り過ぎてしまうので、画面から目が離せませんアセアセ

 

船の食事はこんな感じ↓で、海上自衛隊と違い毎週金曜日がカレーと言う決まりはないので、航海中にカレーカレーが出ないことも珍しくありません。

しかし、どの船の食事も美味しく愛情ドキドキを感じます。

↑ 船の上ではご飯の時間が楽しみ

 

夕方、探査機が船上に戻ってきて1日の調査は終了。パイロットは総出で故障がないか機体のチェックを行い翌日の潜航に備える。

↑ 真っ青なマリアナブルーの海から探査機が無事に戻ってくると感動的である

 

陸に戻っても次の調査潜航に向けた整備や改造を行うので、船を降りてからもパイロットの仕事は続きます。

 

むしろ、整備が出来ないと万が一の時に対処できないので、パイロットになるには機体の細かな部分まで熟知している必要があります。

 

その内容は多岐に渡り、電気回路だけでなく、油圧や通信、コンピュータ制御と言った広い知識が求められ、これが「狭き門」と言われる由縁であると感じます。

 

しかし、自分の手掛けた探査機で見る深海はテレビで見るのと大違い!

ぜひ、深海探査機のパイロットという激レア職業キラキラを目指してみては如何でしょうか?!