南極と超深海の両極地で、実際に自分の手で水中ロボットを潜らせてきた研究者による「実話」をご紹介するブログ。
近年、水族館や博物館などでは「深海」をテーマにした展示が各地で行われるようになり、実際に採取された深海生物のサンプルに触れられるコーナーを見掛けることがあります。
しかし、こういった深海生物の多くは生息数(バイオマス)が分かっておらず、乱獲による深海生態系の破壊が懸念されており、
当研究室では他の研究機関などと共に深海の生態系維持を目的とした調査・研究に携わってきました。
棲息地などが分かっている深海生物の中には、採取に特別な許可が必要な生物もいますが、基本的には漁獲高など管理されていません。
そのため、採った1匹が地球上の最後の1匹だったという可能性もあります。(可能性は極めて低いですが・・・)
では、今後はホンモノの深海生物に触れて学べる機会が減るのでは?と言う懸念が出て来ます。
やはり、実物に触れて観察して感じることで発見や学びに直結します。
そこで、貴重な生物をCTスキャナで読み取り、3Dプリンタで出力する試みを進めています。
この研究のきっかけとなったのが、マリアナ海溝で採取した「カイコウオオソコエビ」でした。
↑ マリアナ海溝で撮影したカイコウオオソコエビの泳ぐ姿
カイコウオオソコエビは大きいものでは手のひらほどのサイズで、見た目は非常に前衛的です。
数年前に「寿司ネタのようなエビが発見された」と話題になりましたが、深海研究では古くから知られた存在でした。
しかし、採取が難しくサンプルも少ないため目にする機会が少なく、標本などもアクリル固定されていたりするため、実際に手に取って大きさや形状を観察するというのが難しい生物です。
そこで、NHKさんが過去に行ったマリアナ調査で採取されたカイコウオオソコエビを、本学の生物部門にてCTスキャンし3Dデータ化する試みが行われました。
↑ CTスキャンにより3D化されたカイコウオオソコエビ
そして、それを3Dプリンタで印刷すると・・・
↑ 3Dプリンタで出力したカイコウオオソコエビ(1/2サイズ)
見事に足の1本1本まで再現されたカイコウオオソコエビの3Dモデルが完成しました。
仕上げ処理中にたまたま事務員さんが研究室に来て「カワイイ」を連呼していましたが、そいう言った感想が生まれるのも写真や映像ではなく実際に手に取って見れるからこそだと感じました。
この技術は、かごしま水族館などと共に開発を進めている技術で、将来的には生物を殺すことなく3Dデータ化することを目指しています。
質感や重量感などまだまだ再現できない部分は多くありますが、これらを再現できた日には、きっと多くの子供たちに自由に触ってもらえる標本が出来ると考えています。
コロナが落ち着き本学のイベントなども開催されるようになれば、いつか皆様に手に取って貰えればと思っていますので、本学のお近くにお越しの際はお気軽にお立ち寄りください。