よりによって、この男に見られるとは。


「あ……!」
 

 うっかり名前を呼んでしまって狼狽するが、遅かりし。にやにや、決して馬鹿にしているわけではない、むしろ嬉しそうな顔がめちゃくちゃムカつく。 


「ちょっと、人をそんなに残念なものを見て尚且つ理解を示すような哀れみめいた顔するのやめてくれる?」
 

 とりあえず釘を刺しておかなければと詰め寄るが、どこ吹く風だ。 


「そんな顔してませんよ」 


「いいや、してたね」 


「いやでも先輩、イケてますよ。めっちゃ可愛いです!」
 

 うわぁ、もうやめてやめて、恥ずかしくて堪らなくなり口止めしてその場から逃げた。

 

 何でいつもそんなに満面の笑顔を見せられるの。

 

 職場にはひた隠しにしている趣味のコスプレで、アニメイベントに参戦した休日。衣装もさることながらメイクだって特殊メイクレベルで、知り合いに逢ったって絶対バレない自信があるのに、予想もしなかった後輩の顔を見て動揺してしまった。

 

 昔から可愛いファッションが大好きだった。ロリィタとかも胸躍るけれど普段からそんな格好をする勇気はなかった。

 

 コスプレなら非日常だし、趣味も活かせていいじゃないと始めたら、すっかりハマってしまって、この二重生活を楽しんでいる。

 

 のだけれど。

 

 元々、可愛らしい顔立ちではなく、表情も乏しい。メイクをして可愛い衣装という名の戦闘服に身を包んでやっと別人のように笑えるようになった。

 

 会社ではクールなイメージが定着してしまっているし、今更変えられない。それに、そんな自分が嫌いなわけではない。ただ、もう少し愛想よくできたら、素直に感情を表せたら、と思うことはある。

 

 後輩の彼は、百面相の男だ。

 

 嬉しいことは嬉しいと臆面もなく伝え、老若男女褒めるのが上手。ミスをしたり嫌なことがあった時も、周りを不快にさせない程度にしょんぼりしたり悔しさを表したりするので、誰からも好かれて人が寄ってくる。

 

 そんな彼が、羨ましくて、ちょっと妬ましくて、でも、だからこそ惹かれてしまう自分にも気づいていて。

 

 まさかこんなところで逢うなんて。

 

 特にオタクっぽくもなく、リア充だろうと思わせる陽キャコミュ力高め、仕事以外でかかわることのない、違う世界の人間だと思っていたのに。 


 休み明け、まっすぐに彼の顔を見れる自信がない。
 

 でも。

 

 本来の自分を、自分の好きなことを、肯定された喜びのようなものも胸に沸き起こっていた。 


 仮面をかぶった私じゃなく、新しく出逢えるかもしれない。
 

 そんな気がした。 





      fin