建築資材の卸売会社の事務員、佐々木孝枝は警察の事情聴取に辟易していた。
暴漢に襲われたという孝枝の訴えを聞いて、捜査してくれるのは良いが、
孝枝の勤め先から家族、普段の交際範囲に至るまで、事細かに聞かれる。
最初は正直に答えていたが、聞かれる内容が私生活の細かい部分に至ると、適当に誤魔化した。
だが、警察の聴取はそれほど甘くなかった。
全てについてウラを取る。
少しでもウソがあると孝枝に疑いの目が向けられた。
疑っていないのかもしれないが、孝枝にはそう感じられた。
出会い系サイトを使って、ポイントを稼ぎ、小金を手にしていることは話したが、
それだけに飽き足らず、実際に出会った男から金品を、半ば脅し取っていたことはさすがに伏せた。
恐喝まがいのことを始めたキッカケは、初めて出会った男から貢がれたことだった。
その男は身体の関係は求めておらず、たまに食事を一緒にし、
映画を観たり、ショッピングに付き合うだけで喜び、孝枝の収入では手が出ないような品々を買ってくれた。
さすがに現金を手渡されたことはないが、バッグや洋服、アクセサリーの数々、
それもみなブランド品を、会うたびに買ってくれた。
しまいには、孝枝の方が申し訳なくなり、身体の関係を持ってもいいと思ったりしたものだ。
次の男は孝枝の勤務する会社と取引のある建設会社の重役だった。
会社の名前を聞いて、一瞬焦った孝枝だが、重役が仕入れ先の社員を知っている訳もなく、
今後顔を合わせる機会もないだろうと思い直し、デートに応じた。
こちらは身体目的で、何度もホテルに誘われては断るという出会いが続き、
金の授受を匂わせたところで応じた。
月に1~2度だったが、1度につき5万円を手渡された。
3人目は公務員。市役所勤務だといっていたが、孝枝は信じていなかった。
話の内容から推測するに、本職は教員で、教育委員会に勤めているのではないかと考えた。
学校に勤務していれば、勤務時間は一定せず、毎日5時に上がることは不可能だろう。
「最近の若いヤツらは…」というのが口癖で、そのセリフのあとに続く悪態の数々は、
孝枝に直接投げかけられているような気がした。
言葉とは裏腹に、その男のやっていることは「若いヤツら」と少しも変わらないと思った。
こちらはなかなか渋い男(金銭面で)で、デートの際の支払いも割り勘にしたがった。
それでも、身体の関係を望んでいるのは他の男と同じ。
『ケチ男くん』と心中で名付けていたその男とのデートでは、
孝枝が楽しんだのか、相手に楽しませたのか…最後までわからなかった。
結局、一度も身体の関係がないまま、メールを無視しているうちに連絡が来なくなった。
大方、別のカモを見つけたのだろうと思っていた。
孝枝は、いつも使っているサイトで、1日に100通以上のメールを発信していた。
手当たり次第という表現がぴったりだった。
それに返信してくる男が約半分。
「近々近くに遊びに行くので案内してくれませんか?」
「あなたの近くが実家なので懐かしくてメールしました。話しませんか?」
「夜は何して過ごしてますか?興味あるなぁ。いろいろ教えて~」
文面は様々。自分でも誰にどんなメールをしたのかを忘れそうになるほどだった。
登録している男の方も心得たもので、釣りメールだと思ったら、すぐに返信がなくなる。
何人かは定期的にメールのやり取りがあるが、
2~3通で「会おう」という話にならないと、ぱったり返信が途絶える男が多い。
また、最初から「抱きたい」「抱かせて」「俺のをくわえて」「逝かせて」などと直接的なのも多かった。
「男ってみんなこうなのか?」と思ってしまいそうだ。
その中から、比較的まともそうな男を抽出するのに、孝枝は慣れてきていた。
ガツガツしていなくて、しかも自分に興味がありそうな男、それを見極めて、会う決断をした。
そして、その決断はこれまで間違ったことがなかった。
※サイドストーリーLivedoorブログ『Members of Site』
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