人の王が豊かな大地を離れた
豊かな大地に残る蛇は思う
蛇は詠うことが好きだ
赤い大地に目覚めた時に詠を紡いだ
「命生まれし時 我の時は未だ動かず 大地の歯車は動き出し 望に祈る時よ
我の時は動き出す」
蛇は詠を紡いだ時に自らの存在を認識したのだ
故に蛇は詩こそが己の歯車だと
だが、蛇は思考する
詠が存在を作るものだとしたら
自らが人の王に「詠を」と
蛇は思考する
人の王が「詠」をこの場所に持ってくる時は
変わりはあるのだろうか
蛇は待つ
太陽と月が十回った時に歯車の針は傾いた
蛇は豊かな大地にある湖にいたが
人の王の気配を感じた蛇は起きあがる
蛇は人の王の気配に近づく
人の王は蛇に言われた通り「詠」を作り、その背には水の器を背負っていた
人と蛇
互いに王
その瞳は、歯車が動きし時と同じく交わった
蛇は問う
「人よ、詠は」
人は答える
「ここに、あと水を」
蛇は紡ぐ
「詠いによる詠いは、我と人の遊びとしよう」
人は
「なれば私と貴方の詠いの遊びは対等に」
蛇と人の言葉は重なる
「「詠いこそ我らが繋がりし紡ぎ詩」」
言葉を発した時に大地に広がる花達
その言葉を待っていたのか如く
花びらを風の通り道に舞ように踊り始めた
人は紡ぐ
「通り過ぎゆく時は知らず 針は回り始めた 光を掴むことはできぬ
なればこそ歯車の1つとし 互いの詠を針とし 詠い続けよう 」
蛇はその紡ぎに応える
「始まりし時非ず 歯車は2つ合わさり 其の時より動き出す
詠いが針 紡ぐのは合わさりし歯車 紡ぎ時より詠い続ける 」
互いの言葉
その身に刻みながら
今が其の時を
蛇と人の王は限りの時近づくまで
紅の焔が地に傾きし時、人の王は踵を返す
蛇は問う
「その背の水は何だ」
人は答える
「花達に水を」
蛇は想う
人の王の時が繋ぐ歯車の終わりを見続けることを
蛇は先の同じ問に言葉を交ぜ発する
「風に乗り、詠いと共に」
人の王は同じく答えに交ぜ発する
「次は花香る風と共に」
互いの言葉に別れ
蛇は湖に
人の王は城に
紡ぎ詩より交わりし歯車は時を過ぎた時
詠いの針が歩みを止める
互いに其の時は知らず
紡ぐ詠いに眠りゆく