昨今のウクライナ問題を見ていると「第3次世界大戦は起きてしまうのだろうか」とちょっと思ってしまいますよね。今回はそれにちょこっと触れながらロシアと中国というユーラシア大陸の2大勢力について考えていこうと思います。


昨今は第3次世界大戦、または第2次独ソ戦の開戦前夜のような雰囲気が漂っていますが、「過去の大戦の再戦かな」と思う瞬間はこの数年間に何度かありました。一昨年のナゴルノ=カラバフ紛争は露土戦争の再戦を思わせましたし、去年のハマスによるイスラエル攻撃もあわや第5次中東戦争かという緊迫感がありました。この世界の平和自体が無数の外交官による努力と紙一重のところでの危機回避によって成り立っているのかもしれません。


まずはロシアを見ていきましょう。ロシアはソ連解体以来EUによる緩衝地帯の侵食を受け続け、東からは中国の脅威を受け追い詰められた状況にあります。またアメリカと距離を置いたトルコは親ロシア勢力となるのではなく独自の勢力圏構築を目指す動きを取り、ロシアにとって楽観視できる相手ではありません。中央アジアやモンゴルも経済力を背景に中国の進出が続き、一昨年にはウクライナの隣国モルドバで親EU派大統領が誕生。ロシアの影響力などもはやグレートゲームの主要プレイヤーとは呼べないレベルにまで落ち込んでいます。国内の停滞も合わせて内憂外患の状態のロシアではソビエト時代を懐かしむ風潮が形成されつつあり、ロシアだけでなくロシアを中心としたロシア世界そのものが大きくぐらついています。


そんなロシアを支えているものは①地下資源 ②軍事力 であり、特に以前のウクライナ侵攻やシリア内戦で鍛えられたロシア陸軍の強さは相当なものと思われ、もしロシアがウクライナ侵攻に出たらアメリカを除くヨーロッパ諸国軍でロシアの攻勢を止められるのかは疑問であると思っています(この辺りはもっと詳しい方の情報を見るべきだと思います)。つまり既に配備が終わっているウクライナ国境沿いのロシア軍が攻勢に出た場合、それを防げるかどうかは未知数であると思います。


もしもウクライナにロシア軍が侵攻したとして、ウクライナ側が防衛に失敗するようならその後についてはいくつかのパターンが予測されると思います。


つまり

①パターン:ロシア軍がウクライナ全域まで侵攻する

②パターン:ロシア軍がヨーロッパ地域まで侵攻し戦線が膠着する

③パターン:ロシア軍がイギリスを除くヨーロッパ全域を掌握する

の3パターンが考えられると思うのです。


なぜこのように思うのかといえばヨーロッパ地域は平地が多く、一度防衛側になれば戦車やミサイル、爆撃機などの攻撃から身を守れる遮蔽物が多くありません。つまり防衛側にはアドバンテージが少なく、ロシアは一度ウクライナに攻撃を始めたら相手を滅ぼすまで止まれないのです。


では"相手"とは誰であるか、この辺りを決定するのはロシアではなく西側諸国だと思いますが、一例としてアメリカは自国民のウクライナ退去勧告や大使館移転を行っていますね。アメリカは開戦しないか①パターンを狙っているのでしょう。ロシア軍の侵攻に万に一つアメリカ人が巻き込まれることがあればアメリカは核戦争に挑まなければならない危険がありますので。ドイツもウクライナ支援に消極的で開戦なしか①パターンを狙っているように見えます。このように「見捨てたのではなく助けられなかった」としてウクライナをロシアに差し出せば、EUとロシアの新たな国境線策定のための交渉をする時間を作ることができます。そもそもこれほどまでにロシアを追い詰めたのは欧米列強なのですから"当然のツケ"を払っているように見えます。


ただしロシア側がそれで満足せず、ウクライナ以西にまで進撃した場合には②・③パターンを考えなければなりません。②は中国の覇権獲得を助けるため誰にとっても最悪の選択肢ですが、そうならない可能性は否定されないでしょう。ただ最も起こりにくい可能性だと思いますのでここではパターン③について考えていこうと思います。パターン③とはつまり「ロシアの侵攻に対してアメリカ・イギリスがヨーロッパを見捨て、ロシアのヨーロッパ支配に妥協した」というものです。


第2次世界大戦を思い起こしてみましょう。ナチスドイツはフランスまでを攻略し、イタリア・スペインが味方となったことでイギリスを除くヨーロッパをほぼ統一しました。この時はイギリス首相のチャーチルが有名な"我々は決して降伏しない"の演説を行い徹底抗戦を行いましたが、現代のイギリスにそれだけの気概があるでしょうか。ロシア側がヨーロッパの主要地域を陥落させた後にこれ以上侵攻する意思のないことを示した場合、少なくともイギリスは停戦に心が動いてしまうのではないでしょうか。アメリカとしても実はナチスドイツとそんなに悪い仲ではなかった過去があり、①ロシアがヨーロッパを超えてイギリス及び周辺の海洋進出を行わないことを確約し ②これまで通り開かれた市場および経済活動・貿易を維持し ③対中包囲網に加わる なら、ロシアのヨーロッパ征服を許容できるのではないでしょうか。要はEU諸国の人々と経済活動を保障しQUADなどの組織に加盟して対中米ロ共同戦線を張るなら多目に見るのではないか、という推測です。この場合はユーラシア大陸内は大きくロシア・中国に二分されており、①ロシア単独でも十分中国に対抗できる ②ヨーロッパ地域が選挙により再び元の姿に戻っていく時間を稼げる ③アメリカは少ない被害で露中共倒れを狙える ため、リスクはありますが悪くはない作戦だと思います。この度のウクライナ危機でアメリカとロシアによる対話も行われているので、その辺りについてどの程度詰めた話が出来ているのか気になるところです。


ここまでを書いて、最初に独ソ戦の再来かと書きましたが、ヨーロッパを統一したロシアはナチスドイツ側であり、それを倒すソ連はイギリス及びアメリカになります。ただし今回は核兵器及び中国の存在があるので戦うかどうかはイギリス・アメリカ次第といったところでしょう。



次に中国について見ていきます。中国は人口が減少に向かっており、国内経済はこれ以上の上向きが期待できない状態のまま国内問題が発生しており難しい時期を迎えようとしています。ただしロシアのような追い詰められた状態ではなく世界大戦を起こすような緊迫した状態ではありません。しかし中国の場合には一気に状況が変わる可能性があり注意を怠ることはできないと思っています。


中国が抱えるリスクとして

①食料を他国に依存している。

②共産党が絶対的な権力を持つ分責任追求も共産党に集約される。

という2点を上げたいと思います。


中国は世界最大の農業大国ですが食料自給率は100%を下回るようになってきており、戸籍のない人を含めると17億人にも達するとさえ言われる人口の胃袋を満たすのは並大抵ではありません。この膨大な人口を抱える国家は今のところ金持ちなので食料を輸入で賄えますが食料を輸出するのはオーストラリアやアメリカなど中国包囲網を形成する側の国家であり関係が悪化したりこれらの国が不作に見舞われた場合は食料を調達できない可能性があります。食料が調達できず台所事情がショートするようなことは1回でもあれば未曾有の大混乱が中国を襲う可能性があり、現在が安定しているからといって中国がそのまま安定していくと見るのは難しいです。


2つ目に中国共産党についてですが、共産党が憲法の上に立ち国内をまさに天から統治しているのはご存知のことと思いますが、それ故に国内で重大な問題が発生した時には共産党に人々の憎悪が向けられる可能性があるということです。たとえば先に上げた食料危機や経済のショートによる大量失業などがあり、多くの人が路頭に迷う事態が発生した際、それを解決するか国外に責任を求められない場合、つまり共産党の無能により事態が発生したと中国国民に認識された場合、今まで天から押さえつけていた社会の歯車は逆回転を迎えるということです。なぜ歴代中華王朝は皇帝によるトップダウン式で、崩壊する時は凄まじい混乱と犠牲な中で崩れ落ちていくのか、最近の中国を見ていると少しわかる気がします。


ただ目下の問題は「ウクライナでロシア軍の侵攻があった場合に中国軍による海洋進出が行われる可能性」だと思います。多分こんなブログまでたどり着く人が見たいのはそこのところですよね。


中国が台湾や尖閣諸島などの島嶼にどの程度侵攻するのか、あるいはしないのかは中国共産党の判断するところなので測りかねるところではあります。ただこの地域については「1つでも取ればアメリカと本格的な敵対関係に突入しかねない」ほど盤面が煮詰まっており、火遊びをするならこの地域よりはやはり東南アジア・南アジア地域やアフリカなどの遠隔地な方が"お手軽"です。たとえばスリランカの99年中国租借となったハンバントタ港のように各国のインフラや資源を買い叩いても国際社会は目をつむるでしょう。南シナ海の人工島のように新たな拠点を作っても今ならお咎めがないかもしれません。ミャンマーのように欧米になびく周辺国の政権を転覆させるのも悪くありません。


しかしそれでもなお「今ならアメリカ怒らないかも」という誘惑に負けて海洋進出に出ることがあれば、中国という国の命運も大きく陰ることでしょう。中国の悲しい未来予想については以前の記事をご覧ください。

中国は再び南北朝の夢を見るか考察



ただし上に書いたロシアのウクライナ侵攻時の②パターン、つまりヨーロッパ内で戦線が膠着しアメリカが当面アジア方面に軍事力を避けない場合はこの限りではありません。アメリカが帰ってくる前に日本や台湾、韓国などを併呑しアメリカによる世界秩序の打破を狙う大勝負も可能になります。完全に第2次世界大戦の日本ルートです。


第1次世界大戦の時、日本はドイツ支配の青島を奪取し、中国に21ヵ条の要求を浴びせました。中国が第1次大戦の日本ルートを進むか、第2次大戦の日本ルートを進むかは共産党の判断とウクライナ情勢の展開次第と言えるかもしれません。何にしても国際的な勢力図が流動化している昨今、"変わらない"ということを予測する方が難しいのかもしれませんが。


以上です。ここまでお読みいただきありがとうございました。