『日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』合理性では手に入らない感覚の物語
『日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』は
森下典子による茶道をテーマにした本だが、私が手にしたきっかけは完全に「ジャケ買い」だった。
表紙に配された細い明朝の文字、あたたかみのある手触り、
持ち上げた時に感じる程よい重みが何かを訴えかけてきた。
写真はそよ風ひらひらさんの「まいにち藤巻亮太ときどきレミオロメン」で掲載されたもの
少しページをめくってみると、茶道をテーマにした自伝風エッセイのようだった。茶道に興味がなかったわけではないが、
そのうち専門書や岡倉天心の「茶の本」等をしっかり読もうと思っていたので迷ったが、
内容よりも、この本と関わってみたいと思った。
良家の子女による日記をのぞき見るようで、こそばゆい感じだったが、著者の筆力も素晴らしく、
茶道を始めた十代から受験、就職、失恋や父の死など経験。茶道とともに歩んだ著者の等身大の人生が描かれる。
読み始める内に夢中。茶道を越えた「何か」が書かれていたることに。
いままで、意味がわからないまま動いていた所作や、茶道の決めごとなどが、ある日、ぱっと見えてくる。
その様子はまるでヘレンケラーが「ウォーター(水)!」と叫んだ瞬間にも似て、
読み手にも爽やかな覚醒感を感じさせてくれる。
一度も稽古をしたことがない人間が「茶道というものがわかった」とは言えないが、
「茶道」が目指すこと、合理的な方法では手にはいらない感覚について、少し垣間見ることができた。
ジャケ買いは、大正解だったが、20年以上たったいま、改めて調べてみると、装丁は百戦錬磨の鈴木成一デザイン室だった。
便利なKindleや手頃な文庫本もいいが、できれば単行本で本書の手触りを感じながら読み進めるのがおススメ。