太陽 | SOLARIS ARCHIVE

太陽

問題が発生して解決策が見当たらない時、私は根本から視点を変えて解決の方向を発見する方法を持っている。それは、その問題自体から回避して全く違う抜け道を見いだす「そんな方法どうやって見つけた?」と驚かれる芸当で、私は何度もそうやって窮地を乗り越えてきた。

小学3年生の夏。クラスの子たちが連れ添ってグループを作るなか、僕は一人で校庭の隅で写生をしていた。賑やかな声が聴こえるなか、眩しい日差しで顔をあげるのがおっくうで目の前に広がる風景を僕は描いていた。そして、木を描き、校舎を描き、雲を描いて、クレパスの「赤」がないことに気がついた。
グループではなく一人で描いていた僕は「赤」のクレパスを借りる友達はいなかった。時間が経って、クラスの子たちが「出来た!」とはしゃぐ声が聴こえるなか、僕は大空の中心に空洞のある風景を手にして呆然としていた。すると、日差しが急に柔らかくなり、声がした。「櫻井君どうして太陽を描かないの?」。その年配の先生は、産休の若い女の担任の代わりに来ていた非常勤の先生だ。
「赤のクレパスがないから太陽がかけへん」
そういうと、先生は「手で小さな輪を作って太陽を見てごらん?何色に見える?」
言われるまま手で輪を作って太陽を見つめてみた。すると、指の中を通ってやってくる光の束は、実は「赤」ではなかったのだ。黄色かもしれへん。そういうと、先生は「黄色はあるの?じゃあ仕上げてごらん」と微笑んだ。そして、チャイムが鳴る鳴る頃、僕は黄色い太陽のある学校の風景を描いた。

年配で地味な先生だったので、生徒の間でもそんなに人気があるわけじゃなく、若くて美しい産休の担任の先生に早く戻って欲しいと、みんなが思っていた。しかし、今となっては産休の担任の記憶はなく、私の脳裏に生きているのは年配の先生と黄色い太陽とクレパスだ。

その方法論を私のメソッドにいつもなにか定着しており、問題が生まれたらフレームワーク自体を変える事で乗り切ろうと思う。こうして、日々の中でもいつも問題はつきまとうものだけど、そのたびに僕は小さな輪を頭の中で作り、黄色いクレパスで描こうとして毎日を生きている。