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 ウチの女性たちは強いな。

 心からそう思ったし、こんなこと思ってる場合じゃないと分かっていても純粋に凄いなと感心した。

 

「宇野さんは西島さんの方へ、伊藤さんは與さんの方へもう少し近づいてもらえますか?」

「分かりました」

「こんな感じですか?」

「あっいい感じです」

 

 いつもなら何も感じなかったことも気にしてしまうほど『あの』書き込みは俺の頭から離れない。にっしーや真司郎もそうなのか宇野ちゃんと千晃が近づいた瞬間、少し表情が硬くなった。

 

「西島さん、與さん? どうかしましたか?」

「あ、いえ、」

「ちょっとボーッとしてました」

 

 今は仕事中なんだから外であったことは忘れて仕事に集中しろ。そう言いたいけれど、言ったところでその言葉は自分に返ってくる。俺自身が仕事に集中できていない。

 

「真ちゃんどうしたの? 笑顔怖いよ?」

「え? 嘘やん」

「ホントホント!」

 

 ――可哀想?構ってあげて?仲良くない?嫌いなの?

 渡された紙に書かれている文字を見たとき俺の頭にはハテナが何個も浮かんだ。一体どこら辺が可哀想に見えたのか。最近あったコンサートを含め7人で楽しく最高のパフォーマンスをし、成功させたと思っていたのに。

 

「こぉ~んな感じだったよ~」

「それは盛りすぎやろ!」

「盛ってないって!」

 

 思っていたのは自分たちだけだった、ってことなのか。ファンからしたら俺たちは宇野ちゃんばかり構って千晃を仲間外れにしていたと。見るに堪えなくなり本人たちに伝えようと掲示板に書き込んだ、と。

 

「少し休憩入れましょうか」

「すみません……」

「いえ! こちらも準備がありますから気にしないでください」

 

 周りの人間に気を使わせて仕事を長引かせる。プロ失格だろう。自分が直接的に何か言われたわけでもないのに切り替えられず迷惑をかけてる。プロなら同じ過ちは繰り返さない。この休憩で切り替えなければ。

 

「直也くんも顔怖いよ」

 

 どうしたの、と隣に並び俺の顔色を窺う宇野ちゃんの表情はいつも通りで少し反応が遅れてしまった。

 

「直也くん?」

「あ、ごめんごめん。ボーッとしてた」

「真司郎と同じこと言う」

「そうだっけ?」

「そうです」

 

 これが本物のプロって言うんだろうな、と宇野ちゃんを見ながらしみじみと思う。元々弱い部分を表に出さない子だけど仕事となると余計に顔にも態度にも出さない。

 

「にっしー大丈夫かな」

 

 小さく呟いた言葉に俺は首をかしげる。視線を感じたのか宇野ちゃんは俺の方を見てなんでもないと言い、続けてトイレに行ってくると俺のそばを離れていった。

 

「あははっ! 真ちゃんそれただの変顔だよ~!」

「さっきの千晃ヤバかったで」

「嘘ぉ!」

 

 この光景を見せればあんな書き込みはなかったのだろうか。でもこの光景はメイキング映像にしっかり映っているはずだし、ちゃんと見ている人なら宇野ちゃんばっかりなんて書き込みはしないはず。……いや、決めつけはよくないか。

 

 世の中にはいろいろな人間がいるのだから。