知らせを聞いて駆けつけてきたデイゴの里親夫婦が
ブーコを相手に、ワイワイといがみ合う声が響いていた。
というのも、事態は思わぬ複雑な様相を呈していたのだ。
実は先程、おずんがデイゴへの面会の可否を警察に問い合わせたところ、
管轄の5番街区警察にはなんと、滝井と言う名の刑事は存在しておらず、
しかも、デイゴの詐欺事件すら何の事やら分からないとの回答が・・・。
5番街警察からは捜査3課の職員を派遣する旨、改めて連絡があったばかりであった。
「ア、アンタら、うちのデイゴに何をしなさったん!!?」
里親は金魚町(旧奈良県郡山市)から大急ぎでやって来たという・・・。
「デイゴはな、こんな小っさな頃からわてが懐に入れて育てましたんや・・・。
あいつの事は鼻っつらからシッポの先までも誰よりも分かってますっちゅうねん!
だから、デイゴが詐欺だとか横領だとか、そんなアコギな真似をようせんっちゅうのは
わてが一番分かってますよってに!!」
と男がブーコに詰め寄ると、その後に女房が続いた。
「ブーコはん、デイゴにもしもの事があったら、あんたどないしはりますの!!」
この男の名は、古田 民雄・・・女房は日代子と言った。
民雄は普段温厚な性格で人当たりも良く、町内ではタミーと愛称されていたが、
仲の良い幼馴染からは「古畳」と呼ばれていた。
デイゴは生後2ヶ月に満たない頃にこの夫婦の下に里子に出され、以来摩古屋
に奉公に出るまで、まるで我子のように育てられたのだった。
ブーコは二人の剣幕に圧倒されながらも、
「いやいやいやいや、旦那はん、それは私の方が聞きとうおまっせ!朝早くにいきなり
警察が何人もやって来て、番頭はんを捕まえて行かはりました・・・刑事はんが云うには
なんや取り込み詐欺やて・・・何もかもあらしまへん、私が一番驚いてますねん。」
「あ、そうや、おずん!警察はまだなの!!??」
おずんは顔色を失ったまま力無く首を横に振ると、暖簾をくぐり店の外へ出てしまった。
涙でくしゃくしゃになった顔を、これ以上人に見せたくはなかったのだろう・・・。
そして、深いため息をつくとヘタヘタとその場に座り込むのだった。
・・・デイゴはん、一体どういう事・・・?誰に連れられて行ったの?
止めどなく溢れる涙は、硬く冷たいアスファルトの地面に、
いくつもの小さく丸い模様を描いた。
それはゆっくりとフワフワとぼやけては、消えて行ったが、
すぐに新しい模様が現れるのだった。
おずんは、やり場の無いもどかしさにまた一つ深いため息をついた。
つづく






