沖縄戦“集団自決” 問題の本質は「援護法」 江崎孝氏

新著を出版したブロガー江崎孝氏に聞く

教科書は正しい歴史記載を

 えざき・たかし 1941年沖縄県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業。東京にて商社勤務の後、沖縄で輸入業を経営。2004年より政治・歴史ブログ「狼魔人日記」開設。著書に、『沖縄「集団自決」の謎と真実』(共著、PHP刊)、『そうだったのか沖縄』(共著、示現社)がある。

太平洋戦争における沖縄戦で、慶良間諸島で起きた「集団自決」は、渡嘉敷島などの守備隊長による「軍命」だったとする『鉄の暴風』(1950年、沖縄タイムス社編、朝日新聞社刊)を根拠とする論調が県内でいまだ根強く残っている。さまざまな言論や歴史認識に影響を与えてきたこの問題について長年取材と執筆を続けてきたブログ「狼魔人日記」管理人の江崎孝氏がその全容をまとめた新書『99%の国民が知らない沖縄「集団自決」の大ウソ瓢箪から飛び出した「援護法のカラクリ」~覆った「軍命」の虚構~』が9月25日に発売される。本書を通して読者へ伝えたいメッセージを江崎氏に聞いた。(聞き手=沖縄支局・川瀬裕也、写真も)

「軍命派」石原教授新資料で決定的証言

「戦闘参加者」ふやすため虚偽記入

教科書検定における軍名記述削除の撤回を求める学生ら=2007年9月、沖縄県宜野湾市(豊田剛撮影)

――江崎氏は長年にわたり「集団自決」の真相を追ってきた。このたび、新書を上梓(じょうし)する経緯は。

『鉄の暴風』の著者、太田良博記者は米軍の指令と協力を得て極めて短時間で同書を書き上げたが、本人は取材で現地(慶良間諸島)を一度も訪れていない。また「軍命があった」との証言や客観的証拠もなく、伝聞や噂(うわさ)の類いの情報を基に書いたものだ。しかしこの本を引用する形で、次々と書籍が出版された。

そもそも「軍命」の有無を議論する際、「なかった」ことを証明するのは「悪魔の証明」と言われるほど困難だ。このままでは新聞社によって歴史が書き換えられてしまうと思いブログでの発信を始めた。しかし、インターネット上の記事だけではなく活字として残す必要があると考え、新書を出版するに至った。

――集団自決問題の本質は。

この問題の本質には、戦後、政府が軍人・軍属の遺族を支援するために制定した「援護法」の存在がある。本来、援護金の受給資格がない一般住民も「戦闘参加者」と認定されれば「準軍属」として扱われ、支援を受けることができる。

可能な限り援護金を沖縄県民に支給したかった日本政府は、多くの人が同法の適用対象となるための「裏の手引書」ともいえる門外不出の小冊子「戦闘参加者概況表」を作成した。これにより軍の「命令」や「要請」によって「壕の提供」や「食糧の提供」をしたとする多くの「虚偽の記入」がなされた。この事実が皮肉にも「残酷非道な日本兵」というイメージを定着させ、現在に至る沖縄の反日感情や自虐史観を形成する一因となっているのだ。

――本書の見どころは。

政府の善意による援護法の「裏の手引書」を悪用し、集団自決に「軍命があった」と主張する、いわゆる「軍命派」の理論的指導者である石原昌家・沖縄国際大学名誉教授が2012年の「沖縄靖国合祀(ごうし)取り消し訴訟」において、法廷で「軍命は『戦闘参加者』を作るための虚偽記入」であると自ら主張したのだ。石原氏自ら援護法申請書の代筆も買って出たともいう。

実際に石原氏は、評論家・佐野眞一氏の著書『僕の島は戦場だった』(2013年、集英社刊)の中で、佐野氏のインタビューに答える形で援護法のく捏造(ねつぞう)に関わった事実を暴露した。その行為について、「恥を感じる」とまで言っている。これは集団自決論争において決定的な証言であるにもかかわらず、この重要ポイントを沖縄のメディアは報じていない。

拙著の中で、これらの裁判記録をはじめ、集団自決に絡む「援護法のカラクリ」を詳しく解説している。

――読者へのメッセージは。

集団自決を巡って、歴史の教科書に「軍強制」の記述を求める「9・29県民大会決議を実現させる会」の定例会合が昨年7月、那覇市で行われた。地元紙は依然として「軍命があった」との認識のもと記事を書き続けている。しかし、歴史は新聞が決めるものでもなければ、活動家たちが「県民大会」で決めるものでもない。誤った歴史が教科書に載ることはあってはならない。読者の皆さんは印象操作に惑わされず、真実を追及してほしい。拙著がその一助になることを願っている。