森の奧 | 気ままおやじの独り言

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日々、気ままに暮らしていますが ちょっと気付いた事や感じた事などを書いています。拙い文章ですが読んでいただけたら嬉しいです。

私は少年時代 一人で山に出掛ける事が多かったと思う。

 

山と言っても すぐ近くの山だが それでも渓谷の

 

奥まった場所は 木々が生い茂り 大きな蔓が縦横無尽に這い回り

 

昼間でも薄暗く 不気味な様である。

 

今ならとても物騒で絶対一人では行きたくないと 思うのに

 

あの頃の私は好奇心旺盛と言うか 怖いもの知らずと言うか

 

本当に無鉄砲だった感がある。

 

何故 そういう所へ行くのか、、、

 

好き好んで そういうような不気味な場所へ行く事事態

 

風変わりな人間なのだろうが 私にはある目的があったのだ。

 

私が小学6年生の時、父親が 隣家の火災で初期消火作業中に梯子から転落負傷して

 

半年間の入院生活を終えたが 元の仕事に復帰出来ず

 

リハビリを兼ねて 盆栽などを楽しんでいた事もあって

 

私は父の為に 主にカズラ類の盆栽に向くような樹形の物を探そうと

 

奥山深く分け入って 採取して回った。

 

カズラ類は アケビ ムベ フジ ツタ などの古木を求めて回った。

 

古木となると どうしても人が殆ど来ないような寂しい場所にしか無い。

 

そうやって 採取した蔓などを父に渡すと とても喜んだ。

 

そんな父の姿を見るのが好きで 暇さえあれば山に行く。

 

最後の方は何かそうする事が 自分の使命みたいに思っていた気がする。

 

 

 

ある時 ふと思いついたのは 自宅から南側に位置する場所だった。

 

その山の麓までは 友達と何度か遊びに行ったりしたが その先は

 

私にとっては まだ未開拓の地だったのである。

 

興味半分で そそくさと出掛ける。

 

幼い頃 よく遊んだ小川の川上の方には不気味な池があった。

 

その池には友達と行った事があったが 木立の中にあって 凄く水が澄んでて

 

池の底まで 綺麗に見えるのである。

 

相当深いのに 底まで見えるのは ある意味不気味にさえ思う。

 

私は その池が苦手で あんまり近寄らなかったが

 

山へ分け入るには どうしても池の側の小道を行くしかなかった。

 

なるべく 池の方は見ずに行こうと思っても 気になって見てしまう。

 

満々と水を湛えているのに底が見える。 怖いな、、、

 

池の底に 変な物が潜んでいるんじゃないかと 妄想すると 足が竦む。

 

それでも怖々 足早に池を通り過ぎて 渓谷の道を辿っていく。

 

だんだん森が深くなって 昼間だと言うのに薄暗くなっていく。

 

誰も居ない、 鳥のさえずりと風にゆれる葉の音がサラサラと鳴る。

 

そして谷川の水のせせらぎの音が 森の精の囁きを思わせる。

 

しかし怖くない。 こんな寂しい場所なのに不思議と怖いとは思わなかった。

 

あの池より こんな森の奥の方がもっと怖い筈なのに、、、

 

 

 

 

辺りを見回して お目当てのカズラを探す。

 

普通は見かけない様な 大物のアケビカズラが大木に

 

頭上高く巻き上がっていた。

 

アケビには三つ葉アケビと五葉アケビがあって 

 

私は五葉アケビの方が見た目の美しさから好きなので

 

果たしてこのアケビは どっちなんだろうと目を凝らして見上げる。

 

カズラの下の方には 葉が無いので良く分からないのだ。

 

辺りに生えている 小さなアケビカズラを見ると 

 

どれも五葉アケビなので 間違いないと確信して掘り上げた。

 

 

 

離れた場所に一際 こんもりとした塊が見えたので近づくと

 

凄い 凄い 幹回り20cmはあろうかと言うフジのカズラが

 

辺りの全ての光を遮るかの様に我が物顔で席巻していた。

 

この森の主かなと思った。

 

うーん これは親父が喜ぶだろうな とは思ったが

 

掘った所で 到底一人で運ぶのは無理だな。

 

それも1本だけじゃなくて 何本も地面を大蛇の如く這い回っていたのだ。

 

恐らく この大フジカズラは周りの木々に巻き付いて全てを

 

枯らしたりして悪さをしているに違いない。

 

こういった厄介者のカズラは切った方がいい。

 

私は後日 父を連れて再びこの場所へ来る事に決めたのだった。

 

アケビを2~3本掘ったので引き上げる事にした。

 

 

 

 

今来た道を戻る。

 

帰り際に 道端から山バトがいきなりバサバサと飛び立つ。

 

ヒャー びっくりするじゃん、 おどかすなよ。

 

同時に何か急に怖くなってきた。

 

後から追われてるような錯覚。

 

森の奥から得体の知れない物に見られてるような錯覚。

 

足が竦みながらも、自然と速くなり 動悸が激しくなるのを覚える。

 

遂にあの怖い池の側まで来た。

 

見ない、 絶対池の方は見ない。

 

一目散で駆け抜けた。

 

やっと明るい場所まで来た時 最早私の鼓動は限界に達していた。

 

何で一人であんな所へ行ったんだろうと後悔する。

 

 

もしも森の奥に居た時 一瞬でも恐怖心が湧いていたらと思うとゾッとする。

 

その夜 布団の中で恐怖に苛まれて いつまでも寝付けなかった事は言うまでもない。