好きな奴が出来て、こんなにも早く失恋するのは、有り得るのだろうか。
 でも、前よりヤル気が出たのは何故?
 俺は意外と我がままなんだな、と思った。


  それは運命の始まり。




 5.【憧 れ】



 二人が教室を出ても、俺はずっとドアを見ていた。
 二人の後姿が、俺の目に焼きついたようで、今でも二人は居るようだ。

 何なんだろう、この気持ち。
 体中が段々熱くなり、震えてくるのが分かる。
 この震えは、悔しみなんて、一つも無い。
 俺には喜びが溢れていた。

「ん、武輝? どしたの。ドアに何か付いてる?」

 俺の震えに気付いたのか、翔は声を出した。

 悔しみなんかじゃない。喜びだよ。喜びの震えなんだ。
 自分に言い聞かせるように思い続けた。
 喜びの震え……喜びの震え。

 何で喜びの震え? 今気付いた。
 ライバルが居たことに嬉しい? 片思いだから嬉しい?
 俺にも分からない。でも、きっと喜んでるんだと思う。

 きっと答えは、いつか分かるんだ。

「あ~武輝、もしかして千奈ちゃんのこと……」

「そうなのかもな」

 やっと言えた。俺の好きな奴……那賀世だ。
 今の俺の口は拒否らない。理由は無いけど。

 翔と啓吾は顔を見合わせ、ニヤニヤしていた。
 そんなに俺の好きな奴知れて、嬉しい?

「武輝、嫉妬してるんだろ。だから震えてるんだろ。違う?」

「嫉妬はしてるけど……そっちの震えじゃないよ。

 二人は眉を顰め、唇をヒクヒクさせた。
 あ、疑問に思ってる。……俺は魔術師じゃない。
 誰でも思うでしょ。




「那賀世って、藤のどこが好きなんだろう」

 二人はまたニヤリと微笑んだ。
 何か俺に対して、作戦を練ってるのか?
 そうは思わないな……だって、あの笑い方……。

「那賀世、別に藤が好きなんじゃないぞ。藤は好きらしいけど」

「藤のこと、千奈ちゃん憧れてるんだよー」

 憧れ?
 恋愛として、見てないって事か?
 藤のどこに憧れを持つんだろう。

 藤には何のとりえも無いと勝手に思い込んでる俺は、小さく見える。

「僕達にも分かんないんだけど、藤って凄いカメラマンに向いてるらしいよ」

 カメラマンって……写真撮るカメラマン?
 今日は何かと疑問に思うことが沢山ある。
 カメラマンに向いてる藤に憧れる那賀世。
 なら、那賀世はカメラマンになりたいって事か?




 将来の夢なんて、本人に直接聞かないと分からない物なんだと、改めて思った。
 もし、俺が那賀世の夢を知ったらどうなるだろう。
 真剣に応援出来るだろうか。

 俺みたいに、【空になりたい】みたいな夢だったら?
 どう応援すれば良いんだろう。

 そういうのは、俺の気持ち次第なんだと思う。
 好きかどうかなんじゃなくて……応援したいかどうか。






 愛は夢に勝つのだろうか。






   next.

 恋愛って、こんな素晴らしいことなんだな。
 初めて感じたこの気持ち、大切にしようと思った。
 こういう時って、人間輝けるんだ。


  それは運命の始まり。




 4. 【何 か 違 う】



 放課後、「教室へ来い」と男子に誘われ、恐れながらも教室に居た。
 数分経つと、前一緒に弁当を食った男子三人が集まってくる。
 表情はいつもと同じみたいで、少しホッとした。

 三人は、皆で恋愛について話し合いたかったらしい。
 やっぱり、皆も好きな奴とか居るんだな。

「啓ちゃん、美崎ちゃんとはどう?」

「最近冷たいんだよなぁ。将は?」

「僕もさ、夏樹が冷たくて……」

 啓吾と将は、彼女持ちらしい。
 俺ともう一人、藤は、ずっと二人の会話を聞くだけだった。
 藤は無口で、いつも一言で終わるようだ。

 恋愛話……略して恋バナは、外が暗くなっても続いた。
 でも、二人は盛り上がっていて、止めるのは少し可哀相で。

 二人とも、俺等のこと忘れてる? と言いたいほど話している。
 誰でも良いから、止めてくれって感じだ。

「そうそう、武輝は好きな人とか居ないの?」

 将はテンションを上げて、俺に問いた。
 何で藤には聞かないんだろう。
 俺は少しだけ藤の恋愛の話を聞きたい。




「居ないんじゃない?」

 あれ? 俺は好きな奴が居るはず。
 でも、何故か俺の口が拒否ってるようで、「居ない」と出てしまう。
 なんでだろう。俺は那賀世が好きで……。

 気付くと俺は、目線を下に向けていた。
 そんな俺の顔を覗き込むように、将と啓吾は見ている。
 藤も横目で俺を見ているように感じる。

「なぁんか怪しい」

「何か怪しいな」

 俺は二人に怪しまれ、じろじろ見られている。
 二人の目は鋭くて、少し緊張する。

「怪しくなんかねぇ」

 わざと無駄な笑みを見せると、余計怪しく見えた。


 自分でも分からない。なんで「居ない」と言ってしまうんだろう。
 隠してもどうにもならないのに、口が拒否るようだ。



 沈黙が続くと、教室のドアが思いっきり開かれた。
 俺等はびくっと肩を上げ、開いたドアに注目する。
 一瞬先生かと思ってびびっていたが、違った。


 那賀世だ。

「あれれぇ? 千奈ちゃんじゃん。こんな時間にどうしたの?」

「……あ、忘れ物しちゃって」

 始めは那賀世も驚いていたが、今は笑顔だ。
 見たことのない、満開の笑顔だった。
 それに、その笑顔は誰かに向かってやっているようだ。
 藤。

 藤と目が合うと、いつも見る笑顔に変わった。

「……何忘れた?」

 藤の声が出た。喋るのは苦手らしく、口調がぶっきら棒だ。
 藤の頬も微かに赤くなっている。
 ……そういうことか。


「カメラと……絵の具」

「持つ」

 そういうことか。那賀世は藤か。
 だからあんな笑顔……。



 俺は嫉妬した。
 二人が並ぶとお似合いっていうのも嫉妬した。
 嫉妬した。嫉妬した。何もかも……嫉妬した。





   next.

 高さばらばらな机。消し忘れの黒板の文字。
 中学校以来、全然見てなくて目が眩しい。

 これからは教室へ来よう。サボるんじゃなくて、あの子を見に。
 今では空よりあの子を見たいと思えるんだ。


   それは運命の始まり。




  3. 【空 vs 教室】



 俺は教室のドアを開けた。
 新しい、慣れない空気が体中を包み、俺は大きく息を吸う。
 昨日とは少し違う、新鮮な香りがした。

「あれ? 武輝じゃん。教室に何のご用事?」

 どこかで見たようなクラスの一人が、声をあげた。
 意地悪っぽく聞こえ少し腹が立ったが、何故か我慢する俺。
 教室に居る奴全員の視線を浴びた。恥ずかしい。

 無邪気な笑みを見せる奴も居れば、誰だっけ? と騒ぐ奴も居る。
 こんな個性的な奴等だったっけ。疑問に思った。

「たまには授業も良いじゃん?」

「良くないよ、サボり魔君。サボってる方が楽でしょ」

 このクラス、温かいな。好きになれそう。
 俺は雨の日しか現れないから、友達は少なかった。
 けど、みんな俺と話してくれた。普通に話してくれた。





 これからずっと教室に居たら、どうなるだろう。
 空をずっと見てなかったら、どうなるだろう。

 教室からも空は見えるけど、全体は見えない。
 やっぱり、寝ながら見たいんだ。

 でも、教室にも居たいと思う。友達が居るから。
 それに、教室に来たのは那賀世に会う為。




 どっちが良いんだろう。







「お、武輝じゃないか。何しに来たんだ?」

 みんな同じ反応で可笑しかった。
 先生が口を半開きにして俺を見ているのは、なおさら可笑しい。
 それはみんなも可笑しいらしく、教室は笑いで包まれた。


「授業しに来たんですよ、先生ー」

「ほう、お前がか」

 先生は歯をにかっと出し、俺の頭をめちゃくちゃに撫でた。
 髪が寝癖の様になり、直すのが大変だ。



 ちんぷんかんぷんだが、順調に授業は進んだ。
 昼休みになり、男子軍団と弁当を食べることになった。


「あのさ、空と教室どっちが好き?」


 急に変な質問をしたのが悪かったのか、皆口の中の物を吐き出しそうになる。
 なんとか喉を通ったのか、皆一斉に口を開き、

「教室」

 見事全員同じ答えだ。正直、凄い。
 俺はどっちを選ぶだろう。
 前までは空だっただろう。今は……?




 後で女子にも聞いたが、やっぱり教室。
 なんでだろう。……少し思った。



「……私は、空かな。でも、教室も好き」

 後ろから聞き覚えのある声がする。あの子だ。
 同じ答えを持ってる那賀世は、すごく愛しい。
 俺と同じ思いを持っていて、嬉しい。すごく。

 那賀世は「キレイだよね」と呟き、目線を下に向けた。
 昨日みたいに頬は赤く、少し笑っているのが分かる。

「山崎君も、思うでしょう?」


 俺は何故か声が出せなくて、頷くことしか出来なかった。







    next.

 今日の天気は雨だった。
 昨日は雲一つ無くて、雲があったら駄目な様な状態だった。
 空は昨日、嫌なことがあったから泣いているようにも見えた。
 泣いてるのか? うん。
 今にも言葉が返ってきそうで、少し緊張する。


   それは運命の始まり。



  2. 【冷 た い 眼】



 空が泣いてる。大きな声を出して。
 勝手に思い込んでるけど、泣いてるんだと思う。
 何かあった? 話しかけたいと、たまに思うんだ。



 学校のチャイムが鳴った。今日はもうこれで終わり。
 だけど、俺は雨の日だけ宿題をやるって決めている。
 何故か分からないけど、しないといけない気がするんだ。

 懐かしい香りがする校舎。見慣れない生徒。
 学校に入るのは久々で、転入生気分だ。

 懐かしい教室に入ると、女子の視線が俺に集まる。
 一瞬静かになったが、俺だと気付くと、また騒ぎ出した。
 いつものことで、別に恥ずかしい訳じゃない。
 けど、始めの皆の視線にはいつもびびってしまう。

 冷たくて、優しい感じの目じゃないから。



 教室の隅に居る先生が、俺に手招きをした。
 担当の先生は和泉先生で、とても若い男の先生だ。
 別に特別仲良いって訳でもない。けど、いつも話をしてくれる。

「今日は自主勉。少しは勉強しろよ」

 和泉先生は歯をにかっと出して笑った。
 先生の歯は凄くキレイで、手入れをしっかりしているのがよく分かる。
 歯並びも良く、完璧だ。

「先生心配しなくても、俺成績良いから」

 冗談っぽく笑いながら言ったら、先生が俺を軽く叩いた。
 叩かれた所は何故か熱くなった。
 優しい感じがするっていうか……。




 さっきまで騒いでいた女子は帰ったらしく、もう居なかった。
 教室は雨の音で包まれ、冷たい空気だ。

 教室には先生と俺しか居ないと思ったが、後ろの席に一人の少女が座っている。
 名前は忘れたけど、凄く可愛らしい顔立ちだ。
 高校生とはいえ、幼いなと思った。

「……先生。出来ました」

 声も幼く、可愛らしい声だ。
 少女の机には学校の絵が描いてある。
 その絵は確かに此処の学校で、懐かしく思えた。

「おお、良い出来だ。いつもありがとうね」

「はい……」

 少女は頬を赤く染め、小さく笑った。
 その表情を見て俺も赤くなってしまい、すごく恥ずかしい。




 少女の名は那賀世 千奈。俺はこの瞬間、恋をした。








     next.

 生徒に踏まれながらも、水だけで生きようとする花達。
 何故踏まれても一生懸命生きようとする?
 お前等はもう生きれるような体ではないのではないか。

 太陽だけに浴びて気持ち良いか? 雨だけに浴びて気持ち良いか?
 学校の校庭に咲く花に不満を持つのは、俺だけだろう。


   それは運命の始まり。




  1. 【自 由 す ぎ る 青 空】



「おい、武輝。今日もサボる気か」

 学校の校庭に寝っ転がっている俺を見た先生は皆そう言う。
 何故怒らない? それはそれで楽だけど。

 俺がサボっている所を見た奴はほぼ全員。
 知らない奴の方が珍しいのだ。
 だから俺のあだ名も皆知っている。「サボり魔」

 悪魔みたいなあだ名だが、俺は俺なりに気に入っている。
 そりゃ、悪魔みたいなあだ名だから。


「お前は空ばかり見てて、飽きないのか」

「飽きる」

 先生はきょとんとした顔で俺を見ている。
 本当のことを言ったまでだ。そんな顔されたら俺だって困る。
 先生が次に言いたいことくらい分かる。

「飽きるからこそ、観てて楽しい」

 俺は心を読める魔術師じゃない。普通の高校生だ。
 先生の言いたいことはほぼ分かるだけ。
 魔術師なんて、居る訳ない。



 空は自由すぎる。勝手に雨降らせたり、晴れさせたり。
 愚痴言ってるように聞こえるかもしれないが、俺は憧れてるんだ。

 将来の夢は一応飛行士になってるけど、本当は空になりたい。
 でも、そう言ったら笑われるだろう?
 だから俺は飛行士を選んだ。空を飛べるから。

 でも、最近諦めるようになった。
 なりたいけど……やっぱり、空になりたい。


 空になりたいから、サボって空を見ているんだ。
 どんな状態になっていても良い。空を見ていたい。

 サボってる時だけ、俺は空になっているような気がするんだ。






      next.

   序章



 もっと傍に居たい。もっと話していたい。そう想うのは君が好きだから?
 自分の気持ちがよくわからない。好きか嫌いかなんて決められない。
 好きなんだろうけど、好きでいるのが恐いんだ。

 他人の全てを知るのが恐い。俺は弱虫? きっとそうだ。
 好きな人、性格。……知ってどうする?


 俺は何を求めているんだろう。君に何を求めているんだろう。
 愛とか、そういうのじゃなくて。……愛って何だ?

 君を見るようになってから、自分にかけている所があると気付いた。
 何もかもが分からなくなっていた。
 君のせい? いや、違う。



      I who has loved you am bad.
     君を愛してしまった俺が悪いんだ。



 夢を追いかけ、世界へ羽ばたく君。君を愛してしまった俺。
 両思いなんて信じない。片思いも信じたくない。
 俺は間違っているのか? 好きでいて、良いのか?

 君を追いかけること。そりゃ、出来るさ。
 でも、追いかけて君の邪魔をすることは俺には出来ない。


 君を応援したい。それなら出来る。
 「頑張れ」って言えるか分からないけれど、応援したい。




          「頑張れよ」






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