戦え!モラロジック研究所

戦え!モラロジック研究所

道徳と品性を学ぶ場所、「モラロジック研究所」。

アヤシゲなこの施設に、採用されようとしている(ぶち込まれそうになっている)、あっしの今後の運命は…!?

一同、返事に困る。近くの事務所?代表世話人?

~第八話 奇妙な面接 より~


父が紹介してきた就職先「モラロジック研究所」。名前からして一般人とは縁がなさそうだ。

~第一話 就職話は突然に より~

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応接室に通された家族三人は、あっしを真ん中にして一列に座った。




革張りだか、ビニール張りだかのソファは、立派だが少し暑苦しく感じた。


それに、ゆったり座ると何だかふんぞり返っているようで、

あっしは不自然なくらいに背筋を伸ばして座っていた。



ほどなく、貫禄のある男が入ってきた。 


「ああ、どうも。ようこそ瑞浪へ!」


両手を大きく広げながらニカッと笑った。


「ここ瑞浪分園の総務部で部長を務めています、堅山です」

「こらどうも、はじめまして」


父をはじめ、あっしらみな席を立って挨拶する。

まあ、こんへんのやり取りはよくある風景なので省略する。






「それにしても、Mr.アホリはどこでここのことをお聞きになったんですか?」


「昔にねえ、僕の妹…つまりこの子の叔母にあたる人物が、嫁入り前にここでお世話になってたようで。

そん時の話を聞いて、今、変にあせって就職させるよりも、ここで何年か修行させてもうた方が、貴教の人間的成長につながるんやないか思いまして」


「そうですか。二十年以上も前となると、ちょっと私にもわからないけども…

ということは、近くの事務所の代表世話人さんを通さずに来られたということですか?」




 一同、返事に困る。近くの事務所?代表世話人?

観音開きの鉄の引き扉。(今は片側だけが開いていた。)


その左右から一斉に広がって、敷地を覆っているレンガ造りの壁。2メートルはあるだろうか、中の様子は全く伺いしれない。



さながら、中世ヨーロッパの城塞都市であった。




「…すごいとこやな」


ポツリとつぶやいた父の言葉に、母とあっしはうなずいた。




吸い込まれるように入っていくと、そこには一面の緑が広がっていた。


遠くの方に、いくつかの建物が見える。家らしいものはなく、自然公園のようなその空間のなかに、歩いている人は一人もいなかった。





「いったい、どこに行けばいいんや?」




あてもなくまっすぐ走っていく。突き当たりに大きな木と、道しるべらしき看板が立っていて、左右には馬鹿みたいに大きな道路が広がっていた。


案内板の中に総務課の文字を確認し、左に曲がっていく。同じような光景が続いていた。


「あれちゃうん?」母が指差した建物は電気がついていて、人影もちらほらと動いていた。


その人たちのものであろう車を止めた駐車スペースもある。車体上部にパトカーの回転ランプをつけたセダンの横につけ、車から降りると、中の人も気づいたらしく、玄関まで出迎えてくれた。


ひどく小柄な男で、それでいて顔は少々老けいてた。年のころ、50前後といったところか。「堀さんですね?お疲れ様でした。どうぞ、部長もお待ちですので」男は、物腰やわらかにそう言って、あっしらを建物内へと招き入れた。

次に目が覚めたのは、岐阜県「瑞浪」のインターを降りてすぐだった。




国道に合流し、事前にプリントアウトしてきた地図を見比べながら進んでいく。

チェーン展開されてるメシ屋をはじめとした店が立ち並んでいるのを見て、まんざら田舎でもないのだなと安心した。



しかし、国道を外れて山側の道を走り抜けると、そこはどこまでも続いていそうな道と、山々の緑しかない空間だった。


そのまま五分ほど走り続け、急な坂道を登りきり、ぐねぐねと曲がって降りていくと、視界がいっきに開け、門が現れた。




あっしら三人はその光景に圧倒されていた。地図で確認しなくても、ここで間違いなかった。

レストラン内には、昼時だというのにほとんど客の姿が見当たらない。


はじめ、母は適当におにぎりやサンドイッチを買って車内で済ませたらと父に提案していたが、父はがっつり腹が減っていたらしく、それには取り合わず店内に入っていった。


母とあっしは顔を見合わせ、母は苦笑いを浮かべた。あっしも慌てて笑みを浮かべた。




食事中、父に「何や、ひげ剃って来おへんかったんかいな」と眉をひそめれらた。



そういえば、今朝はひげを剃ってない。普段特に誰と会うというわけでもないので、このところ、ひげを剃る日と剃らない日と半々だった。


「ああ、忘れてたわ…」


「忘れてたってお前な。面接やねんぞ!」



父の怒声に、はっとした。全然そんな意識はなかった。

「挨拶に行く」という言葉をうのみにしていた…。



「貴教はあんまり乗り気じゃないんやて。気がないんや!」


母がたまらず、といった感じで言った。




それもその通りなのかもしれない。

あっしは苦々しく聞いていた。


父は黙って窓に目をやり、母もハシを止めていた。

重苦しい雰囲気のまま、あっしらは店を後にした。

父に連れられてる車の中では、自分で運転している時より時間の流れが遅く感じる。


いや、運転なんてするずっと前、子供の時から思い続けていたっけかな。


そんな子供時代の時からと同様に、前にいる両親と話すこともなく、あっしは後部座席でうとうとしていた。




車が止まったので我に返り、着いたのかと思って回りを見回すと、そこはサービスエリアだった。


ここで軽い昼食にするという。ああ、もうそんな時間なんか…。