――†冥祕序扉†――

▣◉《此巻に綴示されしは、“金穢の妖靡禍霊”に眩惑せし愚徒らが辿りし、劫濁の末法譚なり》◉▣

 頁を捲らんとする者よ、胆識を据ゑよ。
 ここは既知の理法を逐電せしめ、
 幽玄の層位を幾重にも折り畳み封じ込めた
 秘匿冥録  =《深淵反照書》なり。

 燐光に灼かれた紙背を透かせば、墨影は呻鳴し、
 吾が筆尖は✧魍魎魑魅✧のみならず、
 久遠の虚霊までも戦慄せしめながら、
 虚実の狭縫を裂きて語り落とす。

 ――※――

 世俗の下々の舌に頻りに乗る愚呟がある。
 曰く、
 「金銭さへ獲れば、天地の事象すべて屈伏すべし」
 と。

 Ω∴その語彙は甘饌の衣を纏ひし破滅毒。
 峻烈なる幻惑の蛇胎なり。
 これに魅入られし者の数、既に星辰の数をも凌駕す。

 彼らは黄金の妖輝の只中に立ち、
 己が一挙手にて森羅万象を操縦し得ると空誑す。
 妄執の奈落へ墜ちながら、なお天に登る幻視を抱く。

 古の魔導僧らは、
 その怨災を
 “幻金癧=Aurum Mirage”
 と刻し、禁呪の章に封じた。

 彡✦彡✦彡

 ◆曰く、「黄金さへあらば労苦など土塊に等し」と唏語する者あり。
 ◆曰く、「金穢は即時に夢想を顕現させ得る」と妄誕する者あり。

 ――誠に以て嘲笑の極み。

 彼らが凝視するは現実界の地平に非ず。
 怠惰の霊胚が自らの腑底で醸した
 ◉虚妄霧界《ファンタズマ・ヘイズ》
 に過ぎぬ。

 されど、その幻霧は甘饉にして頽廃の蜜。
 触れれば覚束なく酩酊し、飲めば意識すら沈降す。
 だが人はなおそれを求む。
 ⛧金こそは万能の根源と錯誤し、無窮の妄執に浸る。

 彡✧彡✧彡

 聞き取れ、頁を開く者よ。
 《古魔祖の埋経》には、
 ≪☯三重深禁☯≫の条が列せられている。


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◇◆◇《第一深禁:金穢は唯の器具、《魂魄》にあらず》◇◆◇

 ψ魂魄は金石の秤で量れぬ。
 黄金はただの媒質、一勢力、一因子に過ぎぬ。
 幻金癧に侵蝕された輩は、
 金を掌に包み込めば即座に“既成せり”と愚慮する。

 その態、
 ※旱魃に晒された荒土が、
 ただ雲気の影が落ちたのみで潤沢を得たと錯覚するが如し。

 ▦往昔、一人の若き修験童子が居た。
 彼は金貨の堆積にて霊位の極点に至ると倒錯の信を抱き、
 秘籍を買い沈め、呪具を蒐集し、儀式場を妖艶に飾り立てた。

 されど――肝要なる基礎修持は、
 指先の埃ほどさへ積まず。

 儀式は惨酷に破断し、霊心は砕滅し、
 残存したるは光彩を剥ぎ取られた金穢の屍のみ。
 Ω∵彼は末期にこう呟いたという。

 「黄金の塊を抱きしむれども、魂魄は一歩の移ろひさへ拒む……」

 その哀切の声は今も魔塔の地階に反響し続く。


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◇◆◇《第二深禁:妄執は翼なれど、根盤にあらず》◇◆◇

 ✧妄執は創起の端緒。
 夢幻、幽念、虚構――それらは人を前進へ促す。

 されど翼のみの旅人は、
 流風の束縛に翻弄され、
 やがて空隙のどこかに呑まれ墜つ。

 妄執のみでは、実在を踏み締める大地とはなり得ぬ。
 黄金を得た刹那、
 「すべて出来得る気配」が耳元に吹き込み、
 人はその幻風を乗りこなさんとする。

 ◉しかしその風は瞬息の命。
 勤苦にて固めた根盤なき者は、
 風が止むと共に、奈落へ急降する。

 彡✦◉✦彡

 古秘典はこう断ず。

 > ※ “妄執は呪式の発端にて、完成の象徴に非ず。
 > 懈怠《けたい》の心は魔力を孕まず。
 > 地を踏む行為こそ力源なり。” ※

 ⛨その戒は峻烈にして、同時に深慈。


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◇◆◇《第三深禁:成就とは、歳層の堆積にて顕現す》◇◆◇

 黄金を投じれば道具は備わる。
 舞台も整備され、協力者すら寄り集う。

 ――だが。

✧◆✧“歳層は購買不能。”
✧◆✧“体験は換値不可能。”
✧◆✧“鍛錬心は金穢の前には屈せず。”

 人が何かを成すとは、
 堆積した時間、悔恨、汗、涙――
 その総体を抱えて初めて至る秘蹟である。

黄金を唯一の証とする者は、

 ◉階梯を一跳に越えられると妄視するが、
 世界律は欺けぬ。

 階梯を経ざる者は、頂点に触れず、
 ※虚坩堝《きょるつぼ》の底へ沈む。

 彡✧彡✧彡

 卍《遺賢の簫録》にはこう刻まれる。

 > 「金穢は道途を照らす燈芯なれど、
 >   歩みを駆動するは只一つ――己が意志炎なり。」

 ――深淵の公理にほかならぬ。

――†――――――――――――――――――――――†――

――†冥界幽顕ノ章†――

 彡◉✦◉彡 闇翳の扉、漆黒の螺旋を穿ち、  
 幽縁妖影滴々と墜落す。  
 其の影、蠢乱し古紋と交錯し、  
 魔導心魄を攪乱せしむ。

 ◆金穢憑せし愚者は、  
 「吾、万象制覇す」と虚誑し、  
 時空隙間に己を顕現せんとす。  
 されどそれは、幻界《ファンタズマ・レルム》の牙罠なり。

 彡✧◉✧彡

◇◆◇《第四深禁:幻金癧は心魄寄生なり》◇◆◇

 ψ金貨抱持者の魂魄は、黄金寄生に蝕まれ、  
 思惟は虚妄と現実を喪失す。  
 彼等、妄想を真理と偽装し、  
 Ω∵己が未踏時間・未経験を金呪力に換算せんとす。

 彡✦彡✦彡

 ◆古賢の訓示――  
 「金穢は翼を与えど、根盤は授けず。  
   寄生に従う心、深淵墜落のみにして救済なし。」  

 ※此戒は虚金癧呪力に抗する鎮魂符に他ならず。

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――†金穢修羅ノ章†――

 ▣妖霧濃密化し、空間は蠕動、光彩蒼褪せ、時は螺旋化。  
 金貨積層に目眩せし者、堆積に精神委ね、意志喪失す。

 彡✧彡✧彡

 ◉古文書曰く、  
 > 「金は器、金は道標、然れど魂魄糧に非ず。  
 >   累積修練のみ、成就への路を示す。」

 ⛧然れど人、幻光に手を伸ばし、  
 呪縛されし理想《イデア》に縛らる。

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◇◆◇《第五深禁:成就は歳層累積にて顕現す》◇◆◇

 ✧◆✧時流積上無き者に、  
 霊力・魔術、黄金比例せず。  
 ✧◆✧経験・鍛錬も金貨換算不可能。  
 ✧◆✧意志伴わぬ手法は虚界墜落のみにして、救済無し。

 Ω∵歩みを以て階梯を昇る者のみ、成就顕現。  
 金は光添え、風を授くに過ぎず。

 彡✦彡✦彡

 卍《遺賢録》曰く、  
 > 「金穢は道途を照らす灯火にして、  
 >  歩を駆動するは己が魂炎なり。」

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――†幻影断罪ノ章†――

 ◉闇沈む魔塔深層、  
 幻金癧憑きし魂魄、虚界《ファンタズマ・レルム》の牙に噛まれ、呻き伏す。

 彡✧◉✧彡

 ◆金のみで飛翔せんとする愚者よ、聞け。  
 翼は幻影生むも、大地無き空に墜つは必然なり。  
 金は神器整え道照らすのみ。  
 成就は積年苦行・歳層・涙・血の総和にして顕現す。

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 ☯最終章、魔導師への叡示――  
 > 「黄金魅入られし者よ、  
 >  幻想翼に溺るるな。  
 >  己が意志の炎こそ、真の錬成炉なり。」

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■《闇ノ巻・終章》総括

 ▣◉記された三重禁戒、深禁、幻影戒律は、  
 金穢魔性に抗する者の魂羅針盤なり。  
 読者よ、頁を開き、心根盤を固めよ。  
 金は万能に非ず、妄執は翼に非ず、  
 成就は積上げし歳層総和にして顕現す――古魔導師 最終叡示なり。  

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