浮世絵・・・・・S氏が語る浮世絵の世界-神奈川沖浪裏














この絵は、誰でも知っていると思う。
大きな左中央の浪が、小高い丘のようにそそり立ち、
今にもたたきつけてくるように、崩れ始めているその迫力。
そのたけり狂った浪に、船がもまれていて、
その船にへばりつくように人が乗っている。


この人たち、みんな死んじゃうんじゃないだろうか?
そんな風に不安になりつつ、視点を遠景に移すと、
逆巻く浪の真ん中に富士がその姿を見せている。
この迫力は、一度見たら忘れられない。


浪がテーマの絵なのに、
このちっぽけに描かれた富士には不思議と
存在感と魅力がある・・・・






絵を見ていた私に、いつの間にか近づいてきたS氏に
私は何の違和感もなく話しかけていた。



私--- 北斎のこの絵は良いですね! すごい迫力と空間感がある
S氏-- そうでしょう、確かにこの絵は空間感がある。
しかし、これは版画の刷り師の刷り師の腕が良いからなんです。


私--- 刷り師って、ただ紙に刷るだけでしょう?
S氏-- いや、そうではない。刷り師の腕によって同じ絵が全く違う仕上がりになるんです。
S氏はそう言いながら、店のストックヤードに行き数冊の画集を持って戻ってきた。


S氏-- 今、うちのギャラリーに置いてある刷りは、
長尾さんという素晴らしい技術を持った刷り師さんが刷っている版画です。
この画集の同じ絵と比べてごらんなさい。空間感が全くないでしょう?


S氏は数冊の画集の同じ絵を広げ、
長尾さんの刷った絵と比べて見せてくれた。
印刷ですから、本物のオリジナルとは画質も違うし
多少劣って見えるのはありますが、
それでも長尾さんの刷りは空間感が全く違う・・・・


なるほど、数冊の画集の絵は皆平板に見える。



S氏--- 奥行きに欠け、立体感が無い・・・・・・
それは何故かというと・・・・、
長尾さんは原画の中間色の刷りを大切にし、再現しているんです
この波の立体の中間色・・・・・、



他の刷りは極端に言うと青の濃淡2色で表現し分けているにすぎない・・・・・
だから、立体感のない平板な絵になってしまうんです。
そこいくとどうです、この長尾さんの刷りは・・・・
青の中間色を刷りの中に入れて刷っているので、色の幅が広い。


言われて初めて解った事だが、
確かに長尾さんの刷りは中間色が入り更にぼかしもあるので、
非常に沢山の色の幅ができ、立体感と空間感が出ている。


S氏--- こうするとよく解るでしょう・・・・・・


S氏は今度は同じ絵の別の刷り師の作品を、持ち出してきて並べた。



S氏--- これは同じ絵を別の人が刷ったものなんですが、
こうするとよく解るでしょう?
長尾さんの刷りは空の色も全く違うし、
船のディテール、細かいところまでちゃんと刷り上げている。


別の物は船のディテールが無いので平板に見える、さらに舟の輪郭線も出ていない。
だから、立体感にかけてしまい面白味を感じない。


確かに舟の立体感が感じられず、2枚の絵は全く違って見えた。



今まで、版画はほとんど興味がなかった。
興味が持てなかったといいなおしてもいいと思う。
その理由は、今まで、このできの悪い平板な浮世絵ばかり見せられてきて、
本物の浮世絵を知らないために、面白味を感じなかっただけだった・・・・


そう、感じた・・・・・


S氏--- 浮世絵は最後に刷り師によって仕上げらられる。
浮世絵は最後の出口の仕上げで決まるんです。



・・・・・S氏の話はまだ続く・・・・・・









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私――売れない絵描き、サラリーマンをしながら絵を描き続ける私は、
絵描になる事を誓った頃、葛飾北斎の模写を繰り返した。

かれこれ25年ぐらい前の事だろうか・・・・


油絵を学び、ウィーンの画家=フンデルト・ワッサーと

メキシコの画家=ルフィーノ・タマヨの色彩に憧れ、
メキシコに色彩を求めて遊学し・・・・・・


そんな経験を持つ私が、何度目かの絵描きの人生の再決意をした時に、
修行のつもりで手掛けたのが、葛飾北斎の模写であった・・・・



描いたものは『赤富士』『神奈川沖浪裏』
両方とも100号のキャンバスに再現した。



あれから数十年・・・・・・
突然、北斎の浮世絵に出会った。



浅草のあるギャラリーに北斎の浮世絵は並んでいた。
自分の模写した『赤富士』『神奈川沖浪裏』に、嫌でも目が行った。



北斎が見たくて、その店に通った。



しつこく通い続ける私に
店の顧問のS氏は私に浮世絵を語ってくれた。



浮世絵は、絵描の腕もさることながら、
刷り師で決まる。


版画を紙に刷る作業の人たちの話・・・・・・・
そして、浮世絵作家達の話。


勉強のつもりでそのお店に通いはじめた。
S氏の豊富な知識・・・・・
ほとんど何も知らない私に、解りやすく話してくれるその話の面白さ、
不思議なくらいに、その話の面白さに魅了されてしまった。


このブログは、その面白い話を、
私一人で独占するのではもったいないので、


文字にしてここに残します。










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