私の部屋は、六畳一間の小さな部屋です。
こじんまりとした部屋ですが、自分の好きな家具を置いたり、
ポスターを貼ったりして、それなりに快適な部屋になっています。
窓も二つあります。
一つは、小さくて、風通しをよくするためのもの。
もう一つは、光りを取り込んだり、空気を入れ替えたり、いわゆる
普通の窓です。
どちらの窓も、カーテンがついていて、プライベートな空間を覗かれないように
なっています。
私がこの部屋で暮らし始めてから数週間が経ったある日、
少し、おかしな出来事がありました。
部屋の空気を入れ替えるため、大きい方の窓を開けようと、
カーテンを開けると、道路に不審な人物がいるのが見えました。
私の部屋は3階で、しかも窓側が道路に面しているため、行き交う
人々が見下ろせる位置になっていたのですが、その道路に一人、
ぽつんと男が立っていました。
フードを被り、全身黒ずくめのその姿は、風景にまるで馴染めておらず、
とても浮いていました。
私は、気味が悪くなり、すぐにカーテンを閉めました。
向こうからはこちらの様子などは見えていないはずですが、自分が
じっと見られているような気がしたからです。
それから更に、数日が経ち、部屋の掃除をしている時に、
ふと、あの日からカーテンを開けていないことに気付きました。
仕事が忙しく、部屋に帰っても寝るだけの生活が続き、とても
部屋の掃除に構っていられる時間がなかったからでした。
定期的に光りを入れないと、と思い、私は、カーテンを開けました。
その瞬間、私は自分の目を疑いました。
まだあの道路に男が立っていたのです。
しかも、あの時と同じ格好でです。
反射的に私はカーテンを閉めていました。
心臓の鼓動が早くなり、自然と手が震えてきました。
私は、もうこのカーテンを開けないようにしようと心に誓いました。
それから一年ほどの月日が経ち、私は仕事の都合上、転勤を
強いられ、引っ越すことになりました。
ようやく住み慣れてきたのにという思いがありましたが、
次の引越し先が私の実家に近かったので、悪い気はしませんでした。
仕事の引継ぎも終わり、そろそろ引越しの準備をしなければいけない
時期になった頃です。
その日、私は、朝から荷物の整理をしていました。
ダンボールに荷物をつめ、梱包をしていると、
不意にカーテンの事が思い出されました。
あの日から、一度もカーテンは開けておらず、
私はずっと暗い部屋で過ごしてきたのですが、
さすがに最後くらいは開けてから去ろうと思いました。
窓の掃除、という思いからでもありましたが、やはり、
新しい門出に気持ちをリフレッシュさせてから、部屋を出たいと
いう思いのほうが強かったからでした。
私は思い切ってカーテンを開けました。
やはりというか当たり前ですが、あの位置に男の姿はありませんでした。
私は、ほっと胸を撫で下ろし、自分が抱いていた妄想の馬鹿らしさに思わず
笑ってしまいました。
そうですよね、まさかあの場所にずっと一年もあの男がいるなんて、
誰が聞いてもありえないと思いますよね。
私は、軽く、窓の拭き掃除をし、部屋の片付けに再び取り掛かりました。
全ての片づけを終え、一息入れようと思った私は、一服するため、
窓に向かいました。
その瞬間私は持っていたタバコを落とし、絶句してしまいました。
なぜなら、あの男が私の後ろに立っているのが、窓の反射で分かったのですから。