県内には村が2つしかなかった。
市町村合併で消えていった名前もあった。
今日はその現存する1つの村、O村に行くことになった。
O村はH村に較べると裕福らしく隣するT町との合併に同意しなかったという事実からも見受けられるし何より雨水管埋設のための地質調査の段階でのお金周りだけみてもそれは窺えた。
そんな話を運転している男は言う。
だがそんなことはどうでもよかった僕はFMラジオでなぜか紹介されていた「お叱りCD」を聴いていた。
自然口元が歪んでしまったことを運転席の人間に指摘され慌てた。
別にCDを聴きながらニヤニヤしていたのを目撃されていたからではない。
───堂々とあれ、ヲタク!
のスローガンを掲げる自分としてはむしろ皆にオタクであることを知って欲しいのが実情だからである。(これは深く掘り下げれば対等に趣味の話が出来る知人が周りにいないということを意味する)
なぜ自分が叱られてニヤニヤしているのか、というのが問題だったのだ。
なぜだろう。お兄ちゃんCDを聴いたときは何もなかったはずなのだが……オレの属性は幼馴染と甘く緩やかに過ごs───ー
答えを出す前にラジオはすごい変わりようだがサイモン&ガーファンクル特集に移り思考は中断される。同時に目的地に到着。
もっと聴いていたかったなと残念がりながら時節は卒業シーズンだったなと遅い反応を示してみた。
現場の箇所には小学校の周りをぐるりとまわるポイントがあって何度かおなじみの終始業ベルがゆるく村全体に響いていた。どうも自分の学校のとは違かったような気がする。こちらは1オクターブ低くエコーが強い。
内と外の違いなのだろうか。
一斉に児童達が人口には見合わない広い校庭へと駆け出してくる。特殊な遊具へ我先にと駆け上っていくもの、サッカーボールでパス回しをするものたち、隅のほうでこそこそしている少年と少女。
各々が各々の気の向くまま疾走し、集団は我等の耳に喧噪となって届いた。
そんな光景。
子供が好きなわけでもない、太陽が眩しかったわけでもない。
そんな光景が胸を熱くした。
お前逆上がりできるか。
そう問われて声を荒げて馬鹿にするなよそんなのお茶の子孫サイサイ・シーだ、この野郎と言ってやった。
校庭に鉄棒があったからこそ彼は言ったのだろう。挑発にのり今やってやるよ、と言い鉄棒に向かう2人。
鉄棒は最高でも胸丈ほどしかない低いものだった。
低すぎるなぁ。
呟きを弱音ととられたのか嘲笑される。
彼は完璧に出来ないものと思っているらしい。彼は小学生以前から出来たと自慢していたが確か僕は小学生時代は出来なかった。幅跳びやドッジボール、鬼ごっこ、ドロケイ、缶蹴り。およそ小学生時代やった遊びは可もなく不可もない平凡な実力の持ち主だったが棒のぼりや鉄棒、マット運動などの縦の運動には今でもだがそれなりに雑魚いパラメーターであった。だがいまならできる。
なんたってオレは中学時代大便トイレの手すりで懸垂していた男だからな!!(詳細なし)
鉄棒に手を逆手でかける。
重力への反発、白筋の活用。ポイントは体を棒から離さないこと。
足から宙に舞うという物理的法則を無視した体回しは情けない掛け声とともに開始された。
ハッ!とフッ!の中間プラスアルファのような、どちらかといえばンファ!といったような自分でもみっともない声が腹から勝手に漏れる。
とりあえず成功だった。意外や意外といった表情で見られ、どうだと見返す。彼は一言。
「とりあえず、お前は何でそんなに息が上がっているんだ?」
珍しく12時での食事休憩をとり1時に再開。
すると1、2年生たちが有り余った体力を放課後の校庭でぶつけていた。
ちょうど遊具辺りで仕事をしていたためすぐに注目の的となった。
何してるの。
奇異な貢献に純粋な視線が投げかけられる。
彼は答える。
穴を掘っているんだ。
簡潔な答えではあるが明確ではない。だが彼らにはこれでいいのだ。
遠巻きに見ていた児童たちのうち2人が傍によって来てもう一度何してるの?
宝探しをしているんだ。
僕が言った。
風が強くなった気がした。とうに枯れ果てた広葉樹林の枯葉が傍を横切ったような気がした。
寒かった。誰も反応しなかった。
クソッ!わかんねえよ、コミュニケーションってなんだよ!
子供相手にも白けさせる俺なんかに同年以上の友人が出来るはずもない……
社会不適合者とは俺のことだな、やっぱり。
そんなセンチな葛藤を無視していかにもガキっぽい面の少年と将来ジャニーズっぽい染めているのか地毛なのか判別のつかない少年の2人は最も間近にあった遊具、ブランコに乗りながら、
おれたちはブランコで頑張るからおじさんたちもがんばってね!
とようわからん激励をしてくれた。
君達がブランコしたから仕事がはかどると思っているのかね。
そういう屈折した感情は全く生まれてこなかった。またも胸が熱くなり妙に照れくさくて仕事に専心して紛らわせようとする。快活に。
ちょっと、ちょっとちょっと、おじさんって俺も入ってるのかねっ。俺はどうみてもおじさんではないと思うんだ。だってまだ○青年ですよ!
あいつらにとっちゃ俺もお前もおじさんだろうよ、と彼は言う。
納得いかんなぁ。
ブランコって言えばお前、ブランコ跳びやったことあるか。と彼。
もちろんあるさ、靴じゃなくて体を飛ばすんだよな。
もちろんだ。
自慢じゃないけどあれは得意でしたよ?
鉄棒の雪辱を晴らすべくこちらから挑発する。
「デュエルすんのか、オラーーー!」
デュエルという単語の意味が知らなかったらしく聞き返されたが勝負することになった。
全く気楽な奴等だと思う。仕事より遊んでいる時間の方が多いのではないだろうか、とか思う……。
先ほどの2人の少年がブランコをしていた。
”お兄ちゃん”達も混ぜてくれよブランコ跳びしようぜ。
いよー、快活に同意してくれる2人。
気合を入れて漕ぎはじめる4人の背後にはきっとT-SQUAREのArcadia又はTRUTH辺りが流れていたことだろう。
立ち漕ぎでジャンプは危ないからするなよー。彼は遊びながらも子供たちには細心の注意は払っていた。
立ったまま跳んだ方が飛距離が出る、だが危険度と難易度が座り跳びより段違いであるため久しぶりだった僕も座り跳びにすることにした。最大まで漕ぎおよそ40度の角度で空を舞う。上に跳び飛距離が落ちすぎず、低すぎて距離が飛翔時間が短くならないように最善の角度で舞う。降下時に腰を捻り少しでも前へと貪欲に距離を稼ごうとする。着陸時には幅跳びの要領で体を九の字に曲げてさらに距離を稼ぐ。着陸。
少年2人は目を輝かせてすげーと礼賛してくれた。彼もやるなと認めてくれた。
彼も意外と飛んだが僕の記録までは追いつけなかった。もう年だな、意識ではまだまだだと思ってるんだが体がついてこない、と寂しい言い訳をする。
ジャニーズ系の少年が、
6年生はこんなに、こぉぉんなぁぁに跳ぶんだよ!
と走りながら説明してくれた。ゆうに15mはあり一体どんな怪物ブランコリン(ブランコ跳びするものの呼称)がいるんだよと突っ込んでやった。
夕方。1人、また1人とお迎えの車がやってくる。村の面積に比例して少ない学校。学校には専用のバスがありそれで帰らないものはマイカーでの帰宅なのだろう。この時間での児童の数は迎えをまつものたちの数だったのだろう、車が続々と登場してきた。学校が山の上にあるため自転車通学が適用されていないのだろうか。
結局最後まで見ていた2人の少年には一度だけ10キロの重りを運ぶ作業をしてもらった。
持てないだろう。と挑発すると、持てるよ、30mほど運んでくれた。足に落としてしまわないよう後ろから見張りながら懸命な後姿を見守る。こいつらは立派に成長して立派に死んでいくような気がする。そんなことを思った。
ありがとな。今日の作業を終了する折、褒美としてチョークをあげた。予想以上に喜び仲間を連れてねだってくるものもいて一時期大盛況な僕と彼だった。彼がキリがないといいチョークの贈呈をやめる。
チョークなんて教室の黒板から盗めばいいだろ。と僕が言うと。
そんなことしちゃだめだよ、と窘められてしまった。人間は性善なのではないか、思想が変わるところであった。
俺たちは明日も来るよ。
明日は土曜日だよ。
そうか、ならこれでお別れだな、気をつけて帰れよ。
じゃあねー。
じゃあな。