Jin side 39-1.
ヌナ。
ずっと。
今も。
愛してる。
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大切なものを失ったことで、心にも生活にもぽっかり穴が空いて。
どうなるかと思っていたけど。
自分でも驚くほどに落ち着いている。
そういう、落ち着きにも、何か腹立たしさというか、苛立ちを覚える時もある。
僕が、僕自身を信じられないような気持ちになる時もある。
それでも僕は、いま。
地に足をつけて立っていると、自覚があるんだ。
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『予定の時間より少し遅かったじゃないか。大丈夫だったのか』
東条さんが、車の後部座席のドアを開き、軽々とヌナを抱きかかえる。
僕は部屋から眠ったヌナをおぶって、この駐車場に来るまでが、体力的にギリギリだった。
スマートで。
当然かのごとく。
ヌナを支える手のひらが、見ているだけで優しいんだと分かる。
ヌナを起こさないように、音を立てずにドアを閉めるその姿は。
紛れもなく、ヌナを愛する人だ。
『東条さん...』
『やったんだな...分かった。あとのことはこっちで面倒見るから』
『...ヌナ...』
東条さんは運転席に乗り込むと、一瞬の躊躇もなく車を走らせた。
『待って...待っ...ヌナ...ヌナッ...』
声はかすれて響かない。
足は、地面にめり込んでいるかのようにそこから動かなかった。
これが。
僕が選んだ「未来」。
ヌナとの「未来」なんだ。
気付けば満月は、厚い暗雲に姿を隠し、闇夜は冷たく白い涙を流していた。
『満月の夜にっ...ヌナを...送りたかったのにっ...』
譫言(うわごと)は、乾いた唇に貼り付いて。
誰に届くこともなく、涙によって流され落ちた。
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NJ『ヒョーン!今日の晩飯なにがいいかって、ジョングガから連絡あった!』
相変わらず、仕事の合間...いやいや。
最近ではナムジュンの部屋で仕事をすることが増えた。
要は、甘えているのだ。
『チゲ続いたよな。ちょっと暖かくなってきたから、ムルフェは?』
NJ『いやっ!いきなりムルフェは寒過ぎるから!肉焼いてもらお』
『僕の意見、意味ないじゃん』
ふてくされてパソコンに視線を落とす。
ははは、と大きく笑ったナムジュンは午後の仕事に向かった。
あの日から、みんな一度もヌナのことを話題にしない。
気を遣ってくれてるよな、ものすごく。
でも。
いいんだ。
話してくれても。
いや、むしろ話したい。
ヌナのことを。
みんなと話したい。
ヌナと過ごしたあの日々を。
みんなと思い出したい。
こんな感覚、おかしいのかな。
***
つづく→