QUEENの名曲「WE WILL ROCK YOU」を聴くと、必ず彼の事を思い出す。


10年前の8月24日、急性前骨髄球性白血病により、36歳という若さでこの世を去った、伝説の空手家。


「ミスターK-1」


アンディ・フグ。



明日8月24日で、彼が急逝してから10年になる。


10年前、僕は中学校3年生だった。


K-1が面白かった時期。


アンディ・フグ、ピーター・アーツ、アーネスト・ホースト、フランシスコ・フィリォ、レイ・セフォー、マイク・ベルナルドといったK-1オールスターズとも称された常連組。


そしてジェロム・レ・バンナ、ミルコ・クロコップ、ステファン・レコ、シリル・アビディらK-1の新世代選手達がK-1を盛り上げていた時期。


そんな中で報じられた訃報。


僕は2000年8月24日当時、フジテレビの20時台のニュースで彼の訃報を知った。


一瞬自らの体が硬直し、「冗談だろう?」と頭が混乱した。


21時から毎週木曜楽しみに見ていたバラエティ番組を見ていても、心の底から楽しんで見ていられる訳が無かった。



「なぜ?なぜあのアンディが亡くなってしまったんだ?」


その思いで頭がいっぱいだったことは、今でも忘れられない。


次の日の朝の情報番組でも、アンディ急逝のニュースでいっぱいだった。


世間に認知されたK-1というスポーツの、アンディがまさにそのスポーツの象徴であった事を、改めて実感した。


だからこそ、「なぜ?」という思いが消える事は、暫く無かった。



アンディ・フグという男は、「負け」から歴史を作った男だった。


94年、95年のK-1 GPでいずれも初戦敗退を喫し、周囲からは


「アンディはダメなんじゃないか?」


という声が聞こえてきた。



それでも96年のK-1 GPで、アンディは悲願のK-1 GP制覇を果たす。


純粋な空手家として、初めてKの頂に立った。



しかし、アンディの試練は、まだまだ終わらなかった。


97年7月、極真空手時代のライバルで、K-1初参戦であったフランシスコ・フィリォの右フック一撃でKO負け。


K-1 GPのディフェンディング・チャンピオンは、一気に地獄へと叩き落された。


それでも、同年のGPでは、惜しくも連覇こそ逃したものの、地獄から這い上がり、準優勝という結果を残した。



98年のK-1 GPでもファイナルまで進んだものの、ピーター・アーツの左ハイキック一発で、僅か70秒でマットに沈んだ。


それでも彼の戦いは終わらなかった。彼は決して沈まなかった。


どん底に突き落とされるような負け方をしても、いつもアンディは這い上がってきた。


どんなに逆境に立たされても、アンディは決して引く事はなかった。


常に空手家としての魂を燃やし、相手に全力でぶつかっていった。


大男達が集うヘビー級の中で180cm 98kgというアンディの体は決して大きくは無い。


それでも真っ向から、時に「セイヤ!」と気合を入れて向かっていくアンディの姿には、誰もが心を動かされた。


日本人以上に、日本人らしいファイターだった。



そしてリング外では人に優しい、相手を挑発する事の無い、サービス精神旺盛な男だった。


日本のバラエティ番組やCMにも出演した彼は、K-1ファンだけでなく、世間一般のお茶の間の顔として誰からも親しまれた。




どんな彼を突然襲った白血病という病気。


ミルコ・クロコップとの母国での引退試合を終えてから2ヵ月後。


仙台でノブ・ハヤシ(奇しくも現在白血病と戦っている)と対戦してから1ヵ月後の事だった。



心配停止状態に陥った時、慌てて病院に駆けつけた盟友・角田信朗の


「何してんねん!」「アンディ、ファイト!」「ハンズアップ!」


という声に応えるかのように、アンディの心肺機能が3回復活したそうだ。


しかし4度、心臓が動く事はなかった。


医師の


「もう、やめさせてあげましょう。ドクターストップです」


という言葉で、壮絶なるアンディの最後の戦いが


そして36年の人生に幕が下ろされた。


危篤状態の中でも、彼は、アンディは、最後まで、K-1ファイターであり続けた。


空手家であり続けた。


武道家であり続けた。


その瞬間、アンディ・フグという男は、伝説となった・・・。




あれから、もう10年になろうとしている。


自分自身は、もう社会に出ている立場。


日本の格闘技シーンは、アンディが愛したK-1も、この10年で格闘技シーンの中心となった総合格闘技も、資金面でかなり苦しい状況にある。


世間の格闘技への興味も年々薄れてきている。


日本の格闘技シーンは、10年前と比べると、随分淋しいものになってしまった。


自分自身も、日本の格闘技シーンも、随分変わってしまった。


それでも、アンディ・フグという伝説の空手家が残した功績


そして、彼が残した熱いスピリットは


今も色褪せる事は無い。


アンディの魂は、10年経っても、変わらず日本の格闘技シーンに宿っているのだ。