時々自転車で家の前を通っては、話しかけてくる元左官屋のおじいさん。

 顔見知りになりました。というよりお友達になりました。でも名前は知りません。

 雨漏りする安いセメント瓦のことや花壇の縁のことなど話し合いました。

 炎天下で毎日敷石作りをしている私に…、

 「あなたは偉いけど、あまり無理しちゃ駄目だよ」

 「午前3時間、午後3時間くらい作業しています。敷石作りもあと僅かで終わります」

 「無理しちゃ駄目だよ。俺の弟も頑張り屋でね…、でも無理がたたって死んじまった」

 弟の姿でも思い浮かべていたのかもしれません。

 「作業が終わったので、これからシャワーを浴びます」

 別れようとすると、熱中症にならないように水分を補給するのかなと思いました。

 感心してよく見ると、何とお酒でした。

 「それ、お酒ですね。水かと思いました。自転車でお酒は駄目ですよ。ヘルメットはありますか」

 ヘルメットはありました。

 「乗らないで、押して帰ってくださいね」

 「分かってる、分かってる。こんな田舎だけど…でも大丈夫」

 寂しそうな後ろ姿を見ていると、また来るなと思いました。