「さて、すっぽんだが、江戸の沼地でずいぶん捕れたそうだ」。

 「こんな句がある、(すっぽんを、料れば母は舞をまい)」。

 「(料る)とは(料理する)の江戸語だが、(お茶する)と同様の使い方だね」。

 「すっぽんを捕ってきた息子が、今宵の酒盛りにとさっそく台所で腕まくりをする」。

 「ふだん持ったことのない包丁だから怪我でもと母親が心配して後ろからのぞく」。

 「ちょうど、すっぽんの首を落し、生き血を絞っているところだ」。

 「おっ母はこの地獄絵に唖然、声も出ず膝はガクガク、両腕はワラワラ、まるで踊るがごとく逃げていったという句だよ」。

 「すっぽんは、生きたまま首を切断したり、甲羅を剥いだりするけど

、残酷な処理をするので、女性にはことに嫌われたんだ」。

 「深海魚のあんこうに比べ、噛まれぬコツさえ知れば、あとは男度胸で素人にもバラすことが出来たんだ」。

 「これも冬の鍋だね」。

 今でこそ、うやうやしく超高級鍋として、特別接待のダメ押しに用いられる(切り札)的な鍋だが、江戸のころは、あんこうよりも安直な

鍋だったんだな」。