上田です。3月に訪問したラオスで考えたことをまとめました。
この3月に、ラオスを訪問する機会があった。南部のパクセ、ニコンが進出したことで注目されるサワナケート、そしてヴィエンチャンを回り、視察を行った。そこで見聞した内容を踏まえて、タイ経済を研究する筆者からみた、ラオスにおける日本の製造業の可能性を論じてみたい。
日本企業の間では、賃金が上昇したタイから周辺国へ、労働集約的な生産機能を移転する動きがみられるようになり、ラオス、カンボジア、ミャンマーが「タイ+1」(タイプラスワン)と称されるようになった。
ここで前提となっているのは、周辺国はタイと比べて賃金が安価であるという認識である。
確かに、現地においても、ラオスの賃金は、タイの3分の1から4分の1の水準であるという説明を受けた。しかしながら、各企業は従業員集めに苦労している様子であった。なぜかというと、多くのラオス人がタイに出稼ぎに行っているためである。
タイとラオスは、言語や文化が似通っており、お互いの意思疎通に障害はない。地理的に近いという利点もある。
ラオス政府の説明によると、50万人ものラオス人が、タイで働いているという。人口651万人のラオスにおいて、国民の13人に1人がタイに出稼ぎに行っていることになる。ある程度の教育を受け、体力や気力の充実した若者の多くが、高賃金の隣国で働いているのが現在のラオスの実情である。
従って、ラオスに進出した工場は、人集めに苦労し、その結果、識字能力が著しく劣るなど工場勤めにふさわしくない人材も雇用せざるを得なくなっている。ある工場では、字が読めない労働者が20%ほどいるとのことであった。字が読めない若者を、教育するのは並大抵の苦労ではないだろう。
労働者の教育には、時間と根気が必要である。日本企業がタイに進出して、半世紀が経過した。日本企業は、50年をかけて、タイ人労働者を育成し、タイを生産・輸出拠点とすることに成功したのである。
同様に、現在ラオスに進出している日本企業は、一からラオス人を訓練する必要があろう。ラオスの賃金水準がタイの3分の1という情報の裏には、このような影のコストが隠されていることに、留意すべきである。
それでは、タイで働いているラオス人に、帰国を促し自国で働いてもらうには、どれくらいの賃金を支払う必要があるのだろうか。
この点は、ラオス人をタイに派遣している人材派遣会社(ラオス民間資本)のコメントが参考になる。「タイの賃金は1日300バーツ。ラオスでは100バーツ。ラオス人は200バーツの賃金がもらえるなら、ラオスに戻って働くと思う」そうだ。
従って、今後、ラオスで操業する工場が増加し、若く優秀な人材を確保しようとするならば、ラオスの賃金も短期間のうちに上昇していくに違いないのである。
もっとも、タイで働くミャンマー人は200万人、カンボジア人は130万人である。他の「タイ+1」国も事情は同じかもしれない。しかし、タイ語を理解するラオス人にとって、タイは働きやすい場所である。高賃金のタイからの帰国を促すには、ラオス人に一定水準以上の賃金や労働条件を提示する必要があるだろう。
それでは、日本の製造業がラオスに投資するメリットとは何であろうか。最大の利点は、タイ人従業員を活用できることにある。
タイに拠点を置く日本企業の場合、日本人がラオス人を指導する必要はない。タイ人従業員を送り込み、ラオス人の指導に任せることができる。日本企業は、タイで育成した人材をラオスでそのまま活用でき、コスト削減も可能となる。これがタイで操業する日本企業にとって最大の利点であろう。
またラオスは、水資源に恵まれた国で、電力を輸出している。従って、電力が豊富で、安価である。ジェトロの2013年のデータによれば、ヴィエンチャンの一般用電気料金(ドル評価)はバンコクのおよそ2分の1である。ミャンマーでは、電力不足が深刻であると聞く。大量の電力を必要とする産業にとって、ラオスの潤沢な電力は魅力となろう。
最後に、ラオスでは日本企業による投資は、歓迎されると感じたことを付け加えておきたい。筆者は、昨年、ラオス国立大学の学生に講義を行った。印象的であったのは、中国とタイに対するラオス人の見方である。
ある学生によれば、ラオスは内陸国家で経済成長に不利な条件にあるため、中国のようなあくどい方法であったとしても、自国に投資をしてくれる国は歓迎するのだという。
また学生たちが、日本企業の力を借りて、経済成長に成功したタイに、密かな対抗意識を持っていたのを感じた。日本政府は、ラオスに対して、ODA供与を通じて多大な貢献を行ってきた。その延長線上に、日本企業による投資が加わることが期待されているのである。
以上を総合すると、大規模な製造業は、たとえ労働集約的産業であったとしても現在のラオスにはなじまないように思われた。初歩的な労働集約的な生産工程を、タイから移転し、小規模から始めるというやり方が堅実であろう。
経済活動は、与えられた条件に適応しながら、変容していくものである。タイの賃金上昇に対しても、日本企業は機械化を図るなどの努力を続けて、日本企業にとっての重要拠点であるタイで踏みとどまっていくのではなかろうか。その過程で、生産工程の一部をラオスなどの周辺国へ移転していく動きも出てくるだろう。ラオス製造業の発展にとっては、小さな1歩かもしれないが、その積み重ねが日本企業の貢献となるのである。