これは随筆家・白洲正子のエッセイのタイトル。

白洲正子は明治生まれの華族出身のお嬢様。アメリカ留学した経験をもつ国際派の才女で、GHQ占領下で吉田茂の側近として活躍した白洲次郎の妻でもあります。

ところが白洲正子はお金持ちの奥様でいる気はさらさらありませんでした。

興味のおもむくままに、さまざまな文化人と交流します。中でも文芸評論家の小林秀雄と美術評論家（骨董収集鑑定家）の青山二郎との交流は有名です。白洲正子のエッセイには二人の名前がたびたび出てきます。

小林秀雄も青山二郎も最初は白洲正子のことをただの華族出身の奥様としか見ていなかったのですが、負けん気の強さと芸術に対する情熱に心打たれ、白洲正子を芸術家仲間として受け入れるようになります。青山二郎は白洲正子を「韋駄天お正」と呼び、彼女の行動力と感性の鋭さに心ひかれていくのです。

小林秀雄と青山二郎は固い友情で結ばれていましたが、芸術を語る上では敵対者でした。

有名な文芸評論家の小林秀雄は文筆活動で身を立てていましたが、青山二郎は骨董品を鑑定する以外はほとんど仕事をせず、芸術家仲間から金銭的援助を受けて生活しているような道楽者でした（それなのに中原中也をはじめとする多くの文学者や芸術家が彼を慕っていました）。「精神的なものが精神を隠してしまう」と小林秀雄のように「精神的なことを語る人間」を批判していまいした。

小林秀雄と青山二郎の友情は激しい魂のぶつかり合いだったのです。

そんな二人の間で、白洲正子は芸術的感性を磨きあげ、たくさんの著書をかき上げます。

『名人は危うきに遊ぶ』

白洲正子は小林秀雄と青山二郎との交流をとおして、名人とは危険な賭けをしながら遊ぶものだと理解したのです。激しくぶつかり合いながら、その中でも決して遊び心を忘れない。

それこそが「一流の生き方」であると、白洲正子は理解したのです。

名人は危うきに遊ぶ（白洲正子）