「あ、私はいいよ」

 

 差し出した手。握られているスプーン。

 そこには、私が作った料理がのせられている。

 

「いや、味見してほしいんだけど」

「ううん。今食べたくないからいい」

「だから、味見だって」

 

 やや苛立ちながらそう告げるも、妻はさっさとどこかに行ってしまう。

 一人、音をたてながら湯気を上げているフライパンを目の前にして、しょうがなくそのスプーンをパクリ。

 

「うまいんだけどな」

 

 その呟きは、ただの独り言にしかならなかった。

 

 

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 今思うと、これって妻の摂食障害のはしりだったんだと思う。

 味見すら怖い。

 その感情って私には理解できなかった。

 

 もちろん味見を嫌がる妻に苛立ちをぶつけたこともあった。

 けど、それは大きな間違いだったんだ。

 

 味見をすることも、それを断ることも、夫の料理を食べれないことも、想いを伝えられないことも。

 

 全部……全部妻にとっては怖いこと。

 

 そう、怖いんだよね。

 

 スプーン一匙分のカロリーが。

 

 責めてしまうんだよ。

 

 夫が作ってくれた料理を食べれないことに。

 

 もどかしくて胸が張り裂けそうなんだよ。

 

 自分の想いが伝えられなくて。

 

 

 

 

 と、言葉にすれば簡単だけど、その一つ一つの感情は私達家族にとっては理解しがたいもの。

 

 けど、きっと理解しようと努力することはできるんだ。

 

 さてさて。

 

 摂食障害の家族がいる方々。

 想像できますか?

 

 スプーン一匙よりも、死ぬかもしれない拒食を選ぶ妻の気持ちが。

 

 

 そんな妻の観察日記。

 

 はじまりはじまり~♪