⒎
⑴
小学三年生・藍
藍の母親でワンマン社長の浅香
浅香家の執事・信濃
三名。
浅香「そうそう。警察とは別に、ゆうと藍のためにボディーガードを雇ったわ」
あい「ボディーガード?」
あい「信濃、ボディーガードって何?」
信濃「ボディーガードっていうのは、え~と…」
あい「もういいです。スマホで調べます(=使えない奴め)」
藍がスマホを取り出し、ボディガードの意味を検索する。
信濃「あの、大事な人のそばにいて、安全を守る人です」
信濃が藍にも分かり易いよう説明するも、
あい「調べる前に言わんと こういうの、二度手間言うねん
」
藍はワンマン社長に育てられ、随分わがままに育っている様子。
穏やかな性格の姉・ゆうが父親似なら、藍は母親似なのかもしれない。
⑵
黒スーツ姿の体格の良い男性・太田(太田芳伸)がやってくる。
太田「失礼します!」
太田「花月警備保障の者です」
浅香が太田を見て、
浅香「逞しい青年ね」
浅香「娘たちの警護をお願いした、浅香です」
浅香「長女を呼んできますね」
浅香がゆうを呼びに中央奥通路に消える。
⑶
信濃が太田に挨拶し、藍も続く。
あい「小学三年生の藍です!」
太田「小学生やのに随分デカいね」
あい「言われた、『デカい』って。(苦笑)」
一呼吸置き、
あい「黙れ」
と太田の額に拳を擦りつけるように振り下ろし、太田を殴り倒す。
太田「…っ」
あい「お前、今、デカい言うたのう?」
太田「口調が一変した!(苦笑)」
太田が立ち上がる。
⑷
浅香が長女・ゆうと執事・西川を連れて戻ってくる。
浅香「お待たせしました」
ゆうが太田に挨拶する。
ゆう「長女のゆうです」
ゆう「、…!」
ゆうは太田のことを知っているのか、驚いた表情をする。
ゆう「えっ…」
信濃「ゆうお嬢様、どうかしたんですか?」
ゆう「いや、なんでもないの」
ゆうが浅香に確認する。
ゆう「お母さん、ほんとにあの人でいいの?」
浅香「逞しくて頼もしそうな人でしょ?」
⑸
浅香「じゃあ、私は仕事に戻るから、後のことはお願いね」
あい「はーい」
浅香が中央奥通路に消えた。
ここで、藍が素気味に笑い出す。
信濃「…何か?」
あい「『はーい』って返事したら、お母様が小声で『ほぁーい(=はーい)』って」
あい「鼻にかかった声で『ほぁーい』言うた」
あい「これ、流行らせよ?」
あい「誰かが『はーい』言ったら、『ほぁーい』言お?」
⑹
西川「藍お嬢様」
あい「はーい」
西川「ほぁーい」
西川「練習しましょう」
あい「はーい」
西川「ほぁーい」
あい「あかん、(公演時間が押すから)『はーい』言えんようになってしまう」
と、一瞬で『ほぁーい』ルール終了。
あい「何の練習?」
西川「私を乗せて海を渡る練習です」
あい「イルカやん!」
藍・西川が上手端通路に消え、信濃も仕事のため上手端通路に消えた。
⒏
⑴
長女・ゆう
ボディーガード・太田
二人。
二人が向かい合い、
ゆう「芳伸さん…」
太田「ゆうちゃん…」
ゆう「こんな形で再会するなんて」
ゆうが太田に抱きつく。
ゆうが太田から離れ、
ゆう「高校生の時、お母さんに無理矢理別れさせられた」
ゆう「でも、お母さん、さっきは芳伸さんに気付いてなかった」
太田「昔と見た目が変わったから…」
二人はまだお互いに気持ちがあるようで、
ゆう「連絡してくれたらよかったのに」
太田「連絡したら会いたくなるから」
太田「でも、会社からゆうちゃんの護衛の連絡を受けた時、運命やと思った」
太田「愛してる」
と、ここで客席の方を向き、
TOKIO『LOVE YOU ONLY』をスローテンポなバラード調で歌い始める。
太田「♪Only you」
唐突な演出かつ、お世辞にも唄が上手とは言えず、客席から笑い声が漏れる。
ただ、一所懸命な歌唱から真面目な場面と察し、次第に笑いが収まる。
太田「♪君が 君が 熱い恋をするなら」
太田「♪相手は僕しかいない」
太田・ゆう「♪Only you」
太田「揃った!」
ゆう「芳伸君、いつも歌っていたから」
二人が顔を見合わせ、
太田・ゆう「アハハハ!」
再会を喜ぶように笑い合う二人。
笑い終えると、
ゆう「ずっと会いたかった」
太田「俺も」
ゆうが太田に抱きつき、太田がゆうを強く抱きしめ、二人の体が密着する。
(吉本新喜劇のお芝居ですか?、笑)
⑵
二人が密着しているところに、
中央奥通路から藍と執事・信濃が現れる。
『ピピピピピピ』
密着する二人を見た藍が防犯ブザーを鳴らす。
二人が慌てて離れ、太田が藍に対し、
太田「止めてください!」
太田「…、聞いてた?」
あい「最後の方だけ…」
太田「最後の方って」
藍と信濃が場面を誇張し、鼻にかかるような声で再現する。
あい「芳伸さん…」
信濃「ゆうちゃん…」
あい「こんな形で再会するなんて」
太田「最初からやん!」
あい「見ちゃった…」
一呼吸置き、藍がポップ調でノリノリで『LOVE YOU ONLY』を歌い出し、
信濃が気持ち良さげにエアドラムする。
太田「松岡君しなくていい!」
あい・信濃「♪Only you」
あい「揃った!」
二人が顔を見合わせ、
あい・信濃「アハハハ!」
頭とお尻に手をパーにした状態でつけ、ヒラヒラさせ、
魚のような動きで大笑いする、二人。
太田「そんな動きしてない!(苦笑)」
⑶
信濃「まさか、二人がお付き合いしていたとは…」
太田「だめですよね? やっぱり僕がボディーガードするのはやめた方が、」
ゆう「やめなくていい!」
藍が太田たちに尋ねる。
あい「なんで、お母様に反対されたの?」
今は短髪黒髪の太田だが、
太田「昔、ヤンチャしてて、ロン毛で青色に染めてて」
あい「イルカやん!」
信濃「もういいですから!」
太田「それで、『今すぐ別れろ』って」
ゆう「芳伸さんはいい人なのに見た目で判断するなんて、酷い!」
太田がかつての『青色ロン毛高校生』であることや、ゆうとの関係について、
ゆうが藍と信濃に対し、
ゆう「このことはお母さんには黙ってて」
ゆう「お母さん、血圧が高くて、聞いたら倒れるかもしれないから」
⑷
ゆうが太田に対し、
ゆう「もう、私から離れないで。さようならは無しよ」
ゆうが太田に抱きつき、太田がゆうを強く抱きしめる。
その瞬間、『ブーッ』と大きなオナラの音がする。
藍が芋の食べ過ぎでオナラをしていたため、信濃が藍に対し、
信濃「お嬢様!」
あい「私ちゃうで?」
信濃「…?」
太田「…、すみません、僕です」
『ブー、ブー』
オナラの音が立て続けに響く。
太田「すみません、朝からオナラが止まらなくて」
信濃「もしかして!」
信濃「手を見せてください!」
太田が袖を捲ると、藍が危惧していた漢字の『屁』の字が現れている。
太田はヘロナウイルスに感染していた。
ゆう「芳伸さん…」
ゆうがゆっくりと太田を玄関から外に出し、静かに引き戸を閉める。
(太田→玄関の引き戸←ゆう、の立ち位置で)
ゆう「…さようなら」
太田「…!、ちょっと! えーっ!!
」
さようならは無しのはずだったのに…
暗転
その6に続く