⒊
⑴
祐貴、一人。
結婚式が明日に迫り、
祐貴「明日かー! 緊張するなあー」
そこに男性・レイ(レイチェル)が凄い剣幕で現れる。
レイ「その結婚、ちょっと待ったーっ!!」
レイ「キシーッ!、キシーッ!」
と、噛み締めた歯の間から荒い息を出す。
祐貴「結婚式、明日や」
レイが一転して和かな表情になり、
レイ「(花嫁を奪いにくる場面を)一回、やってみたかったんや」
二人は親友で、レイは明日の結婚式出席者のよう。
レイが土足で居間に上がろうとする。
祐貴「何、土足で上がってんねん!」
レイ「あっ!」
レイ「親友の結婚式でテンション上がっちゃって」
レイが靴を脱いで居間に上がる。
祐貴「テンション上がりすぎや」
レイ「すまん」
レイ「穴があったら入(ハイ)、」
レイ「ビスカスの種を撒いて、そしたらそこは沖縄の綺麗な島」
祐貴「何、言うてんねん」
レイ「高校のマドンナの幸恵ちゃんとお前が結婚すると思うと、」
レイ「どうしても、テンションが上がっちゃって」
⑵
祐貴「明日のスピーチ、頼むぞ」
レイ「今、言うわ」
祐貴「あかん。明日言うて」
レイ「今、聞いてくれよ!」
レイ「朝まで武田して、いや鉄矢(=徹夜)して考えたんやから」
祐貴「間違えんやろ、何やねん『武田して』って」
レイ「鉄矢言うたら、今度は小室(哲哉)が出てくる」
祐貴「イントネーションがおかしい。鉄矢やなくて徹夜」
レイが頭を抱えて、
レイ「分からなーい!」
祐貴「テンション高すぎや」
⑶
レイ「とにかく、今、聞いてくれ」
祐貴「分かった。聞くわ」
レイの気持ちが変わらないため、祐貴が折れる。
レイが何重にも折り畳んだ長半紙を服の中から取り出し、勢いよく広げる。
その長さは何メートルにも及び、
祐貴「長いなあ!」
レイが長半紙に書かれた文章を読む。
レイ「おめでとう」
レイ「…」
祐貴「、終わりかい!」
レイ「冗談や!、ちゃんと考えてるから!」
レイ「冗談やのに『終わりかい!』、冗談やのに『終わりかい!』、」
レイ「楽しい~!」
と、祐貴の肩に寄りかかる。
祐貴「楽しいん、お前だけや!」
祐貴がレイを払いのける。
祐貴「スピーチ、ちゃんと考えといてや?」
⒋
⑴
新郎・祐貴
祐貴の親友・レイ
二人。
親友の結婚式でテンションが上がり気味のレイ。
祐貴が少し困惑しつつも仲良く戯れているところに
ピンク色の上品なワンピースを来た新婦・幸恵(鮫島幸恵)が到着する。
幸恵は玄関扉を開け、鼻を詰まらせたようなねっとりとした言い方で、
幸恵「ごめんっ遊っばっせっ」
と、ベテラン座員風の出ギャグを披露する。
祐貴「幸恵ちゃん、変な挨拶やめて?」
幸恵「明日の本番のことを考えると、緊張して、つい…」
レイ「大丈夫。 その時は俺も一緒にバージンロードを歩くから」
祐貴「なんでお前が歩くんや!」
レイ「じゃあ、バージンロードは我慢するからキスだけ!」
祐貴「もっとあかん!」
レイの冗談?で、幸恵の緊張も随分解れた様子。
⑵
レイ「でも、珍しい。家で結婚なんて」
幸恵「祖父母が大事にしてきた家だから、どうしてもここで式を挙げたかったの」
レイ「へー」
レイ「、興味無いわ」
祐貴「そんなこと言うな!」
レイ「ごめん。『ごめんっ遊っばっせっ』」
と、手を合わせながら幸恵の出ギャグを真似て謝る、レイ。
レイ「びっくりした、急に『ごめんっ遊っばっせっ』って」
随分気に入っているようで何度も誇張して出ギャグを真似、
幸恵を恥ずかしがらせる。
⑶
結婚式を実家で挙げる理由はもう一つあるようで、
幸恵「それに、お爺ちゃんが高齢だから」
すると、中央奥のふすまが開き、
ふすま奥の通路には腰の曲がった白髪老人・朗功(祐代朗功)が立っている。
祐貴「びっくりした!」
幸恵が朗功に尋ねる。
幸恵「お爺ちゃん、寝てたの?」
朗功が顔だけ幸恵に向ける。
朗功「…」
幸恵「えっ?、お布団で?」
朗功「…」
幸恵「そういう問題やないの」
朗功「…」
幸恵「なんでそんなこと言うの?(悲)」
朗功の声は全く聞こえないが、二人の間では会話できている様子。
祐貴「えっ、喋ってる? 聞こえる?」
朗功が祐貴に対し、
朗功「祐貴君」
祐貴「普通に喋れるんですか?」
朗功「喋れるよ」
祐貴「えっ?、ほなさっきの何?」
朗功「幸恵のことを頼んだぞ」
祐貴「分かりました!」
⑷
朗功「できれば、お婆さんと一緒に幸恵の結婚式を見届けたかった…」
レイ「確か、3年前に亡くなったんですよね?」
幸恵「お婆ちゃんのことは心残りがあって…」
祐貴・レイ「…?」
幸恵「ううん、なんでもないの!」
幸恵が話を誤魔化すように朗功に対し、
幸恵「お爺ちゃん、お部屋で休んで?」
朗功が通路に行き掛けて、立ち止まって振り返り、
大声で幸恵に確認する。
朗功「明日の結婚式、肉、出る!?」
幸恵が頷き、朗功が嬉しそうに通路に消えていった。
祐貴「めっちゃ元気!」
幸恵の祖父・朗功の短い台詞から、
朗功と亡くなった祖母が良い夫婦関係にあったことが分かる場面。
その4に続く