『執念のハメコミ…いやハリコミ捜査』
[セット紹介]
花月旅館のロビー
基本セット。
通常との差異は、館内・玄関付近奥に置かれた馬の絵の記念撮影用顔出しパネル。
⒈
下手端に屋外あり
⒉
旅館ロビー
⑴
舞台下手寄り…旅館玄関(引き戸)
中央奥…従業員室や客室に繋がる通路
上手奥…フロント
上手端…旅館内カフェ『Cafe友』に繋がる通路
⑵
館内・玄関付近奥側…馬の絵が描かれ、顔部分がくり抜かれた記念撮影用顔出しパネル
咲方響さんによる演者アナウンスの後、公演スタート。
[物語]
(敬称略)
⒈
⑴
舞台は花月村にある花月旅館のロビー。
館内・玄関付近には、観光客向けの記念撮影用顔出しパネルが置かれていて、
馬を正面から描いた絵の顔部分がくり抜かれている。
パネルには『ようこそ花月村へ』の文字も見える。
10人芝居の都合か、賑やかなオープニングシーンをカットし、
主役の刑事・吉田(吉田裕)がスマホで電話をしながら登場。
早速、物語が始まる。
吉田「はい、もしもし!」
吉田「今、花月村に到着しました!」
吉田「必ず、犯人を捕まえてみせます!」
何らかの事件解決に向けて気合いが入っている様子。
吉田が入館する。
吉田「絶対捕まえるぞ!」
と、後ろに話しかけるが誰もおらず、下手袖方向を見て、
吉田「おい!、何してんねん!」
⑵
後輩刑事の小西(小西武蔵)が慌てながら現れる。
小西「すみません!」
吉田「情報では、ここが吉本組・荒木の麻薬取引場所や!」
小西「先輩、どうしてそこまで麻薬に拘るんですか?」
吉田「麻薬で大切な人を失ったんや…」
吉田「学生時代の彼女がひょんなことから麻薬に手を出し、廃人になった」
吉田「だから、俺は麻薬が許せない!」
吉田「荒木をこの手で捕まえてみせる!」
と、胸の前で拳を握る、吉田。
小西「吉田さん…」
小西「、ひょんなことの『ひょん』って何ですか?」
吉田「そこ伝えたいとこちゃうねん!」
⑶
小西「実は僕も麻薬で大切な人を失ったんです」
吉田「小西、お前もか…」
小西が昔を思い出すように客席側上方を見ながら、
小西「彼女は素っ気ないところもあったけど、笑顔が可愛かった」
小西「もう会えへんのかな…」
小西「、沢尻エリカ」
吉田「彼女ちゃうやん! 確かに人生踏み外したけど」
小西「素っ気なかったな、」
小西「『別に…』って」
吉田「お前に言うてたんちゃう!」
小西「吉田さん、リラックスしてくださいってことです」
小西「じゃないと、犯人を捕まえられませんよ?」
小西は天然系キャラでは無く、吉田を落ち着かせるために話をしたことが分かる。
冒頭も小西が遅れたわけではなく、吉田の気が逸り過ぎたのだろう。
⒉
⑴
ロビーには誰もおらず、吉田が奥に呼び掛けると、
少年『はーい』
と、大人が子供風にゆったり話すようなトーンの声がし、
中央奥通路から黄色い帽子を被った少年?・健太(けんたくん)が現れる。
吉田「おっさんみたいな子が出てきたな」
吉田「小学生?」
健太が頷く。
吉田「お兄ちゃんな、」
吉田が何かを言い掛けたところで、健太が話を遮るように、
健太「知ってるで?」
吉田「?」
健太「今日はレース出てないの? お休み?」
吉田「レース? 誰と間違えてる?」
健太「マキバオーやろ?」
吉田「馬ちゃうねん! 人間や!」
熱くなる吉田を小西が宥める。
小西「まあ、まあ。相手は子供じゃないですか」
⑵
小西が健太を和ませることも兼ね、
『馬が描かれ、顔部分がくり抜かれた記念撮影用顔出しパネル』について尋ねる。
小西「このパネルは何?」
健太「花月村は牧場で有名なの」
小学生がマキバオーを知ることの違和感を解消する設定が追加される。
牧場観光で旅館を利用する人も多いのだろう。
小西「吉田さん、パネルから顔を出してみてくださいよ」
吉田「何で俺がせなあかんねん!」
小西「(子供に)喜んでもらえると思うんで」
吉田「…、一回だけやぞ?」
吉田が馬のパネルから顔を出すが、馬面が馬の絵と同化しており、
小西「早く出してください!」
吉田「もう出してんねん!」
小西「出し方、上手(=馬)すぎるでしょ」
吉田「掛けんでええねん!」
健太も笑顔になったが、それ以上に小西に喜んでもらえたようだ。
⑶
吉田が顔出しパネルから戻ってきて、健太に対し、
吉田「お父さん呼んでくれる?」
健太が呼び掛け、旅館オーナーの辻本(辻本茂雄)が中央奥通路から現れる。
辻本「いらっしゃいませ、お客様」
吉田「客じゃないんです。大切な話がありまして…」
ここで、健太がフロントに置かれた瞬間接着剤を手にする。
辻本が接着剤を持つ健太に気付き、
辻本「健太。接着剤で遊んだらあかん 手に付いたら取れん強力なやつや」
辻本「勉強してきなさい」
健太「分かった。(残念)」
健太が接着剤をフロントに置き、中央奥通路に消えた。
短い時間で厳しくも優しい父親像が描かれる。
※
補足
今回、辻本茂雄さんは物語を引き締めるお芝居寄りの役を務められています。
⑷
辻本「大切な話というのは?」
吉田「私達は警察の者です」
辻本「警察?」
吉田「今から話す事に驚かないでください。実は、」
辻本「えっ!?」
吉田「まだ何も言うてません!」
吉田「実は、この旅館が麻薬の取引現場にされる情報を掴みまして」
小西「えっ!?」
吉田「お前は知ってるやろ!(苦笑)」
吉田「それで、張り込み捜査にやってきたんです」
辻本「うちの旅館が麻薬の取引現場にされては困ります」
辻本「捜査に協力します!」
⑸
吉田「従業員はお一人で?」
辻本「いえ、妻と二人で…。妻はカフェを担当しています」
上手端通路前には『Cafe友』のプレートが見え、奥がカフェになっているよう。
吉田「カフェは宿泊客しか利用できないんですか?」
辻本「いえ、誰でも利用できます」
吉田「では、カフェが取引場所になるかもしれませんね」
⑹
吉田「奥さん、呼んでもらえます?」
辻本が上手端通路を見て「友見ー!」と呼び掛け、
友見「はーい」
と、辻本の妻・友見(吉岡友見)が現れる。
友見は吉田と小西を見て、
友見「いらっしゃいませ」
辻本「二人は警察の方で、麻薬取引の捜査で来られたそうや」
友見「麻薬!?」
吉田「はい、この旅館で麻薬取引が行われるとの情報を掴みまして」
吉田「捜査に協力していただけますか?」
友見「分かりました!」
⑺
吉田「捜査が犯人にバレないように、(従業員用の)法被をお願いします」
友見がフロントから法被を二着取り出し、吉田と小西に渡す。
法被に着替えるために脱いだジャケットを辻本が受け取る。
法被姿になった吉田と小西。
吉田が辻本たちに対し、
吉田「今後は我々のことを従業員として接してください」
辻本「分かりました」
友見「はい」
小西「でも、吉田さん。僕、旅館の従業員なんてしたことないですよ」
吉田「俺の真似をすればいいから」
小西「分かりました」
⑻
吉田が辻本たちに対し、
吉田「お子さんにも私たちのことを従業員と伝えてください」
辻本「分かりました」
吉田「お子さんは一人ですか?」
辻本「いえ。健太の上に中学生の双子の娘がいます」
一先ず、花月旅館の設定と辻本家の家族構成が観客に伝えられる。
その3に続く