(第二景)
⒏
⑴
窓から見える空はすっかり夜になり、満月が見える。
ロビーには、長ソファに座るシナキュラ、一人。
シナ「最悪や!、あんな奴(=珠代)の血ー吸うてもうた!」
シナ「オエッ」
珠代のお尻を思い出し、また吐き気を催してしまう。
シナキュラの執事・モロミーが中央奥客室通路から現れる。
モロ「大丈夫ですか?」
モロ「これでも食べて元気出してくだしゃい」
と、ポケットから何か取り出そうとする。
シナ「何?」
モロ「ニンニクでしゅ」
シナ「あかん、あかんっ! 知ってるやろ!?」
モロ「フッフッフッ」
モロミーは熟女好きに加えて悪戯好きなところもある様子。
⑵
モロ「手っ取り早く響ちゃんにガブっと行って、元気出してくだしゃい」
シナ「強引なんは無しや」
モロ「えっ?」
シナ「響ちゃんに惚れてもうた」
モロ「どんなヴァンパイアや。(呆れ)」
⑶
中央奥・客室通路からサングラスを掛けた客・烏川(烏川耕一)が現れる。
シナキュラは顔を見て、
シナ「えっ!?、有名な人? お忍び?」
シナキュラが声を掛ける。
シナ「金正恩さんですよね?」
烏川「違う。そんな偉い人が一人で歩いてるわけないでしょ?」
烏川「外出するんで、鍵をお願いします」
烏川がホテルマン姿のシナキュラにルームキーを渡そうとすると、
モロ「あっ、鶴橋のおばちゃん?」
烏川「チヂミ三姉妹でもない!」
モロ「知ってましゅよ。オオカミ男さんでしゅよね?」
烏川がモロミーの顔に気付く。
烏川「前会うた時と格好が違うけど、フランケンシュタインやないか!」
シナ「知り合い?」
モロ「イギリスで会いました」
(モロミー・シナキュラ→←烏川、の立ち位置で)
烏川が自己紹介する。
烏川「オオカミ男のウルフ(烏)川ウル男です」
シナ「何、その名前」
烏川「日系なもんで」
※
注記
ウルフ川ウル男について。
名前が物語の鍵になることはありませんので、
よりイメージし易いよう『烏川』で記載いたします。
⑷
シナ「オオカミっていうより、タヌキっぽいんですけど…」
烏川「それなら後ろにいるでしょう!(苦笑)」
と、モロミーを見る、烏川。
オオカミ男であることに納得していない様子のシナキュラに、
烏川「分かりました」
烏川「今日は満月です。変身する姿をお見せしましょ」
烏川が窓の前に立ち、満月を見上げる。
烏川「ウォーッ!」
と、(遠吠えというよりは)雄叫びを上げる、烏川。
紫や青のライトが点滅し、怪しげな音楽が流れる。
明かりがついたところで、
(ゴムを耳に掛けるタイプの)付け鼻姿の烏川が客席方向に振り向き、
烏川「ウォーッ!」
シナ「タヌキやん!」
シナキュラが烏川に確認する。
シナ「あの、ゴムみたいなん付いてません?(苦笑)」
烏川「『ゴムみたいなん』ちゃいます。 ゴムです」
絶妙な間と言い方で観客の笑いを誘う。
この日も随所に吉本新喜劇屈指の天才ぶりを発揮する、烏川。
⑸
烏川「大阪での仕事帰りにモンスター仲間と京都観光しています」
シナ「大阪での仕事って…」
烏川「USJ。モンスター役」
シナ「バイトかいっ!」
烏川「ええ金になりまんねん」
モロ「他のモンスターも泊まってるんでしゅか?」
烏川「ここに居てる」
シナ「どこに?」
烏川「ここ(=自分の左後ろ)」
シナ「?」
烏川「透明人間」
シナ「は!?」
烏川「紹介します」
烏川が自分の左後ろを見て、
烏川「照れんでええって!」
烏川「ちょっ!、何してんねん! カンチョウすな!」
どうやら、透明人間が烏川にカンチョウしたよう。
シナ「…」
シナ「ホンマに居てるんですか?(苦笑)」
烏川「居てます」
シナ「あんたの匙加減ひとつちゃいますの?(苦笑)」
烏川「居てます」
⑹
モロ「そろそろ人間に戻った方が…」
烏川「そやな」
烏川「ウォーッ!」
と、雄叫びを上げながら、その場で付け鼻を取る、烏川。
シナ「取っただけやん!(苦笑)」
烏川「簡素化。今の時代、何でも簡素化」
吉本新喜劇の予算にも暗に触れるような話ぶりが二重に笑いを誘う。
⑺
烏川「二人はなんでここに?」
・シナキュラは理想の女性の生き血を吸うため京都を訪れたこと
・従業員の響に惚れたこと
等、モロミーが事のあらましを説明する。
烏川「そりゃまた、純情なヴァンパイアやな」
と、ここで烏川がお尻を上げ、
烏川「オオッ!」
シナ・モロ「…?」
烏川が自分の左後ろを見て、
烏川「カンチョウすなって!」
透明人間が烏川にまたカンチョウしたよう。
シナ「ホンマに居てます!?(苦笑)」
⒐
⑴
烏川のオオカミ男の話がひと段落したところで、
中央奥・客室通路から客の吉田とまりこが現れる。
シナ「おたくらもUSJのバイト?」
吉田・まり「…?」
シナ「モンスターでしょ? 馬男とゴリラ女」
吉田「何言うとんや!」
シナ「満月を見たら変わるんでしょ?」
と、吉田を窓際まで誘導する。
吉田が満月を見上げる。
吉田「ウォーッ!」
と、雄叫びを上げた後、客席の方を振り向き、両手でキャットポーズをして、
吉田「ヒヒーン!」
(台本の想定通り)客席は無反応で、
シナ「…、何かすいませんでした」
吉田「人間や!(苦笑)」
烏川が吉田に対し、
烏川「馬がこんなポーズ(=キャットポーズ)するか?」
吉田「フェラーリ意識してんねん!(苦笑)」
まりこも人間のよう。
まり「自販機の場所を聞きに来ただけよ!」
⑵
騒ぎを聞き付け、従業員の清水が上手端通路から現れる。
清水「お客様、どうかされました?」
シナ「いえ、なんでも…」
まり「ウチら、自販機探してんねん」
清水「自動販売機なら奥(=上手端通路奥)にございます」
清水「それと、皆さんにお伝えすることが…」
清水「先程、警察から連絡がありまして、強盗犯がこの辺りで目撃されたそうです」
清水「拳銃を所持しているとのことで、くれぐれもご注意ください」
吉田とまりこが上手端通路に向かいながら、
まり「怖い」
吉田「まりこは俺が守ったる」
まり「裕きゅん、きゃっきょいい」
まりこが去り際にロビーの方を見て、
一転して大人の艶かしい感じで、Love is forever風に
まり「Love is over」
シナ「終わってるやん!」
二人が去っていった。
⑶
清水「私は館内の見守りをしてまいります」
清水が中央奥・客室通路に消えた。
その7に続く