⒌
⑴
誰も居ない、ロビー。
院長・高井が怒りながら現れる。
後ろから幸恵と景子も現れる。
高井「(出産は)絶対、許さんからな!」
幸恵「お父さん、ちょっと!」
景子は不安そうにしている。
騒ぎを聞いた大島がバックヤードから現れる。
個室の準備を終えた花子も下手奥通路から現れる。
⑵
景子の彼氏・翔太が病院に戻ってくる。
翔太「景子ちゃん、さっきは逃げてごめん!」
翔太「でも、やっぱり、景子ちゃん一人に背負わせるわけにはいかない!」
高井「よくも大切な娘を!」
翔太「すいません!」
高井が翔太の胸ぐらを掴み、
高井「亡くなった妻も景子を応援してたんやぞ!」
高井「お前のせいで、バレエで日本一になる夢も奪われてしまう!」
幸恵「お父さん、やめて!」
幸恵「翔太君も勇気を出して戻ってきたのよ!」
高井が翔太から手を離す。
翔太「話を聞いてください!、お父さん!」
高井「お前に『お父さん』と言われる筋合いは無い!」
花子「じゃあ、お母さん?」
高井「黙っとれ!」
⑶
そこに、平山建設の社長・平山が現れる。
平山「そろそろサインしていただけないでしょうか?」
平山は翔太を見て驚く。
平山「翔太!」
翔太「お父さん!」
平山「翔太、お前、こんなところで何をしとんや?」
高井「おたくの息子が私の娘を妊娠させたんです!」
平山「翔太、ほんまか!?」
翔太が頷く。
平山「翔太は悪くない」
平山「相手が翔太を誑かせたに決まっとる」
高井「なんやとーっ!」
喧嘩になりそうなところを大島がなだめる。
大島「二人とも落ちついて!」
幸恵「今は、翔太君と景子が二人で話し合って気持ちを確かめ合うことが大事では?」
高井が冷静になり、平山に対し、
高井「院長室で話しましょう」
幸恵も景子たちのことが気がかりで、花子に現場を任せようとする。
幸恵「ここをお願いできるかしら?」
花子「データ入力で忙しいので、無理です」
幸恵「人手が足りないわね…」
⑷
その時、病院入り口から辻本の声がする。
辻本「お任せください!」
辻本「お手伝いは我々に!、」
本来はアキ・森田と三人で「お任せください!!!」を言うはずが、
言葉が揃わず、登場しない。
舞台袖を見て、演者が笑い出す
辻本・アキ・森田がヤクザの時と同じ色の女性用看護師服で登場する。
しかし、辻本だけは白タイツを履いておらず、すね毛だらけの生足が見えている。
辻本「…履き忘れたんや。(苦笑)」
辻本「裏はドタバタやった。(苦笑)」
辻本『タイツは四階にあるから、もう間に合いません!』
辻本「そしたら、森田が『僕の履いてください!』って脱ぎ出して」
辻本『僕、毛深く無いから大丈夫です!』
辻本『お前とワシではサイズが合わん!』
辻本「…しゃあないから、そのまま出てきたわ。(苦笑)」
涙目になる、辻本。
アキ「アニキは泣いてない!」
森田「下、見るなよ!」
アキ「アニキの足、見んな!」
毛むくじゃらの生足に注目させようとする、弟分の二人。
辻本「…そろそろ脱毛行こう、思うてたとこやった。(苦笑)」
辻本「初めてや、舞台でほんまに泣いたん。(苦笑)」
⑸
台本に戻る。
大島「なんですか、その格好!?」
辻本「ワシらコスプレが好きやから、車に置いてた」
高井「入院患者さんに手伝っていただくわけには…」
辻本「困った時はお互い様じゃないですか、…『お父さん』」
辻本・アキ・森田「まだ早い!、まだ早い!」
高井「では、お言葉に甘えて、お願いいたします」
幸恵「辻本さん、ありがとうございます」
辻本「水くさいことを言うな、『幸恵』」
辻本・アキ・森田「まだ早い!、まだ早い!」
高井「緊急時は連絡してください」
辻本「分かりました」
幸恵「辻本さんって、頼りになる方ですね」
森田「アニキ、好感度!、」
辻本・アキ・森田「アップ、アップ、アップ!」
⒍
⑴
三人ヤクザの辻本・アキ・森田
売店店長の大島
景子と翔太
十名。
辻本たちが病院を手伝う話をしているところに、
MRカンパニーのレイと椎森が現れる。
椎森は普段のカツラを被っている。
レイは平山に対し、
レイ「サインの件、院長を説得できましたか?」
平山「今はそれどころじゃないんです。もっと大切な話が…」
レイ「俺らは今日中にサインもらわんとあかんのや!」
レイ「もう、ええ!俺らでやる!」
⑵
レイたちのやりとりを見ていた森田が辻本に対し、小声で、
森田「チャンスですよ!」
森田「アニキがあいつらを追い返したら、幸恵さんはアニキに惚れます」
辻本「よっしゃ、分かった!」
レイが高井に近付こうとすると、辻本が遮断機のように手で道を塞ぐ。
レイ「やめろ、おいっ!…って、なんや、その格好!」
レイが辻本の毛むくじゃらの生足を見て、半笑いする。
アキが病院のレイに対し、
アキ「下を見るなよ!」
辻本「傷口に塩塗ってんの、お前や!。(苦笑)」
辻本「看護師(=辻本)、看護師(=アキ)、家政婦(=森田)や」
確かに、森田だけ家政婦風に見える。
首をすくめて戯ける、森田。
⑶
レイ「サインせえ!」
辻本「せえへん言うとるやろ!」
レイ「なんや、やるっちゅうんか!」
辻本「ワシを怒らせたら、嵐が起きるぜ!」
アキ・森田「ビュー!!」
と、服を引っ張り、はためかせる。
通常は少し引っ張るだけだが、
アキは、観客に辻本の毛深い生足を見せようとスカートを捲りあげる。
辻本はスカートを必死で押さえ抵抗するが、
辻本「待て、待て!…セクハラやぞ!(苦笑)」
滅茶苦茶したアキが小声で辻本に、
アキ「兄さん、すいません。(苦笑)」
辻本「『兄さん』って、何やねん!(苦笑)」
⑷
もり「いてまうぞ!」
椎森が辻本に殴り掛かると、
辻本は椎森の手首を掴み、軽々と捻り倒す。
もり「痛たたっ!」
椎森はカツラを落とすが、気付いていない様子。
今度はレイが辻本に殴り掛かる。
辻本はレイの手首を掴み、殴ろうとする。
幸恵「暴力はやめて!」
辻本「はいっ!」
辻本が拳を下ろし、起立する。
⑸
レイ「覚えとけよ!」
レイと椎森が逃げ去っていった。
辻本は床に落ちたカツラを見て、
辻本「カツラやんけ…」
辻本「あいつ、カツラ被っとったんか」
幸恵が辻本に感謝する。
幸恵「辻本さん、助けてくださって、ありがとうこざいます!」
辻本「ホゥ!」
辻本「…(→幸恵)」
辻本・アキ・森田「まだ早い!、まだ早い!」
森田「アニキ、好感度!、」
辻本・アキ・森田「アップ、アップ、アップ!」
⑹
高井が平山に対し、
高井「父親同士で話しましょう」
高井と平山が院長室に向かう。
⑺
景子が幸恵に対し、
景子「お姉ちゃん。私、赤ちゃんを産みたい!」
幸恵「出産したら、高校もバレエの夢も諦めることになるのよ?」
幸恵「覚悟はできてるの?」
景子が頷く。
幸恵「分かったわ…私も説得してみるわね」
景子「ありがとう。(涙)」
幸恵が院長室に向かった。
⑻
大島が景子と翔太に対し、
大島「二人は店の奥でゆっくり話したら?」
景子と翔太がバックヤードに消える。
花子が大島に対し、
花子「私はお茶を入れるわね、あなた」
大島「結婚してません!」
花子と大島も売店のバックヤードに消えた。
その様子を見ていた、辻本たち。
辻本「なんや。あの二人(大島・花子)、付き合ってんか」
アキ「そうみたいすね」